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女の戦いinロノスの部屋

 魔法が存在するこの世界でも”占い”は大っぴらに信用されない眉唾物とされているけれど、裏でこっそり依頼する有力者の顧客を持つ占い師だって存在するんだ。


 そして”魔女の楽園”でも占い師は攻略キャラの好感度を教えてくれる本名不詳のキャラとして登場していた。

 他人が他人をどの程度好いているかを簡単に分かるだなんて何かしらのトリックが無いのなら口から出任せか、それとも”本物”か。


「その占い師が闇属性なのよね?」


「ファンブックの裏設定ではそうなってたって話を聞いただけだけどね。ゲームとは違う可能性だって有るけれど、試してみても損は無いよ」


 アリアさん以外に闇属性の使い手が居れば神獣達との戦いが楽になるし、病気や大怪我の時に力が必要になっても安心だ。


 実を言えば其処まで期待している訳で無く、本当に駄目で元々、占いって初めてだから興味半分でそれらしい占い師を探す。


 ……にしてもゲームでは好感度を教えてくれる以外にも特殊なイベントに関わるアイテムをプレゼントしてくれていた筈だけど、どうやって手に入れたんだろうか?

 気になっている相手の夢を見れるお香とか、レキアの所で僕が手に入れた夢見の花とか、もし本当に持っていたなら入手ルートを教えて貰いたいよね。


 既にそれらしい占い師の情報はアリアさんが知っていたし、街の人も何時も同じ場所で店を構えていると教えてくれた。




「……あれ? 店仕舞い?」


 だけど、それらしい小さいテントの中には誰も居らず、中を見れば最低限の荷物を持って引っ越したのが伝わって来る。


 古びた机の上には”もうお店は辞めました”ってメモが残されていた。


「このタイミングで? まさか本当に本物で巻き込まれたくないから逃げ出したとか?」


「そんな……」


 偽物なら偽物で諦めれば良かったけれど、本物の可能性が有る状態で何処かに行かれるのは凄く口惜しい。

 でも、探し出すにしても本名も顔も分からない占い師をどんな理由で捜索すれば良いのか分からないよ。


「何かドッと疲れたわ。帰って休みましょうか」


「そうだね……」


 この店まで来る時、どんな理由で探しに行くのか説明すべきか迷った僕達はレナをお供に連れずに屋敷を抜け出してしまっているし、帰ったら小言を食らいそうだ。


 今思えば適当な事を言えば、見抜かれても詮索はされなかった筈だよね

 ……しまった。




「お帰りをお待ちしていました。では、お二方にはお供も連れずに何処に何をしに行ったのか説明をして戴きましょうか」


 家の門の前で笑顔で待ち構えるレナとメイド長。

 こんな事態になるのなんて占い師でなくても分かったはずなのにさ……。


 この後、二人のお小言は食事とお風呂と課題の時間を挟んで夜遅くまで続いたんだ……。

 



 周囲一メートル先も全く見えない暗闇の中、不思議と自分の手元は見えていた。


 その手が触れるのは白い肌を隠す暗闇の様に黒い下着であり、それを着て僕に跨がっているのはアリアさんだった。

 仰向けに寝転がって声すら出ない中、アリアさんの恥ずかしそうに赤らめた顔が近付いて来る。


「知っていましたか? 私、”体で取り入っている”って噂されていたんです。でも、ロノスさんの側に居られるなら……」


 ええ!? 展開が急すぎるし、どうして声が出ないの!?

 慌てふためいても抵抗できず、僕の上に覆い被さった彼女の唇が僕の唇に触れる瞬間……知っている天井が見えた。


「夢……?」


 はい、まさかの夢落ちだった。

 惜しいような、ファーストキスも未だなのにあんな展開になってて助かった様な……あれ?


「誰か居る。……どうせレナだな。遂に潜り込んで来たか……」


 掛け布団を見れば人一人分の膨らみがあって、更に言うなら僕の体に誰かが抱き付いている。


 これが誰かなんて考える迄も無くレナだ。

 ”女に慣れる練習”とか言って普段から僕に向けられるセクハラの魔の手が根拠で、今までは胸を押し当てたりエッチな事を言ったりする程度だったけど、まさかベッドに入り込んで来るだなんて……。


 掛け布団を跳ね除けて部屋から出て行って貰おうとして、手がピタリと止まる。


「まさか胸元を緩めたりしてブラがチラッとしてるかも……」


 思わず唾を飲み込み、少し期待しながらも慎重に布団を除ける。

 結論から言えば服を着崩したレナはベッドの中に居なかった。




「……んっ」


 ベッドの中に居たのは下着姿のパンドラで、長くしなやかな手足を僕に巻き付けて安らかに寝息を立てていた。

 うん、着崩したレナじゃなくて安心……出来ないっ!?


「……どうしよう」


 この時、僕は声を掛けて起こすのを躊躇った。

 この状況が美味しい……のは否定しないけれど違って、普段忙しいパンドラがスヤスヤ寝ているのを邪魔したくなかったし……。


「未だ早いし、もう少し寝ていようか」


 掛け布団を被りなおし、再び眠る僕。

 現実逃避? 否定はしないよ。



「勢いに任せて襲って来ないのは評価しますが、その後の逃げとしか取れない対応は減点です」


 掛け布団の中から伸びた腕に肩を掴まれ引き寄せられ、冷静な声が聞こえて来る。

 寝ていたと思っていたパンドラと目が合った。



「狸寝入りにも気が付かないのも減点で……私に気を使って下さった事は加点致しましょう。……さて、お早う御座います、若様。早速ですが次のテストです」


 パンドラは僕に体を密着させると耳元に息を吹きかける。

 押し当てられる感触にどぎまぎし、耳に掛かった息にゾワリとして思わず身震いした僕の耳に届いたのは少し不満そうな声だ。


「……レナ……さんが女性への耐性を付ける役目を買って出た筈ですが職務怠慢なのか能力不足なのか。若様、女性慣れしていない姿を見られれば侮られます。もう少しお慣れ下さい」


「が、頑張るよ……」


「では、私で練習しましょうか」


「れ、練習!? パンドラで何の……」


「その程度は分かっておいででしょう? 先ずは例の恋文の内容を私の耳に囁いて下さいませ。その結果次第で……私がご褒美を差し上げます。内容は……その時のお楽しみで」


 からかっているのかと思いそうな声でパンドラは僕に告げ、そのまま指先で僕の背中を撫でていた。


 ご褒美の内容って何なのか、ナニか、なんなんだろうか、考えるけれど変な方向にばかり向かって行くし、早くしろとばかりにパンドラは更に強く僕に密着して来る。


 まあ、流れからして少し思い付く物は有るし、婚約者だから……いやいやいやっ!?

 此処で流されたら怒られるパターンじゃないのか!?


 でも、逃げたら逃げたらで怒られそうだし……。



「え、えっと、確か最初は”愛しのパンドラへ……”」


 このまま黙っていても仕方が無いので勇気を出して前に酷評された恋文の内容をパンドラの耳元で囁こうとした時だ。


 扉が外から乱暴に開かれ、笑顔を浮かべているけれどブチ切れ寸前のレナが入って来たのは。



「これはパンドラ……さん。勝手に若様の部屋に忍び込み、更には私の役目に手を出しますか。越権行為では?」


「仕方が無いでしょう? 何処かの誰かが手を出させる事が出来ないのですから。私は若様の為、クヴァイル家の為に動いています。さあ、若様。続きをどうぞ。邪魔者は居ますが私は気になりませんし、若様も気にせずに動けるようにおなり下さい」


「若様、それ以上は私の役目です。其処の女を振り払い、私に行って下さい。幼い頃から側に居る私の頼みを聞いて下さいますね?」


「それなら婚約者の私が行う事に何の問題が有りますか? それに今後お側でお支えするのは私ですよ」


 朝っぱらから女の戦いが勃発した。

 双方とも声は冷静なのに敵意が剥き出しで言葉に刺があるよ。


 この場合、僕は乳母姉と婚約者のどちら側に付くべきか、どっちを選んでも後が怖い。


「えっと、仲良くね?」


「嫌です」


「ご無礼ながらお断りします」


 ……少し前に教えて貰ったのだけれど、”何となく気に入らない”、それが普段は職務に忠実な二人がいがみ合う理由だ。

 この戦い、最早プライドの問題なんだよなぁ……。

漫画、今日から描いてもらえるそうです

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