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挑戦

お久しぶりです 別サイトでオリジナル新作やってました

 突如現れた黄金の巨人、その異様な姿に僕達は見たくもない相手から目を逸らせない。


 本当は逸らしたいんだ、逸らさざるを得ない程に……。


 町からそれなりに距離が離れているのにも関わらず膝から上が見える程に巨大であり、無駄に造形が細かくて、まるで全身に金箔を塗りたくっているみたいにリアルだ。

 これが美女美男だったならば見応えが有ったんだろうけれど、とても豪華絢爛は言えないのが目の前の存在、寧ろ滑稽さや醜悪さを際立てている。


「……うわぁ」


「変態ですね……」




「あの男、こんな趣味があったとは。馬鹿だ無能だとは思っていたのですが……」


 尚、全裸である。


 腕を振り上げれば全身の肉がタプタプ揺れる、顎も腕も腹も贅肉が大量に蓄えられた情けない体型の中年男性で、贅と怠惰を極めた悪徳貴族のイメージそのままの姿に僕とアリアさんは絶句するんだけれど、ネーシャだけは嫌悪感が先に出ている感じだ。


「え? あの巨像のモデルの知り合いなの?」


 この言葉の後、僕は後悔した。


 心の底から屈辱だという顔を一瞬だけ浮かべ、直ぐに溜め息と共に少しだけ嫌そうな顔をしたんだけれど、彼女が感情を隠せないってどれだけ嫌いな相手なのさ?


「認めたくは無いのですが、知り合いだとは肯定させて頂きます。……それよりも先に行きましょう。全裸の汚物の像など見ていたら目が腐りますわ」


 商会としてか、皇帝の娘としてか、兎に角関わりたくないという気持ちがマジマジと伝わって来ていて、其れには僕も賛成さ。

 何せ僕は


「ど、同感です……。ロノスさん、裸なら私が見せてあげますので、アレから目を逸らして……」


「待って!? 僕があんなのを見ていたいとか誤解されているよね!?」


 裸婦画とか裸婦の像とか女の人に拘らなくても裸を題材にした芸術品はこの世に沢山あるけれど、遠くで足を振り上げたり腕を振り下ろして暴れている黄金の巨人には芸術的価値を感じないし、出るにしても遙か先の話だろう。


 体格もそうだけれど表情も品性を感じさせない物で、享楽にふけている時の物。

 所々から聞こえる”ラーパタ”って名前からしてガンダーラの住人には知られているみたいだけれど、あの全裸の中年男性像そのもの以外への嫌悪が含まれて聞こえる。

 皆、一瞬だけ目にして後は見えない物として扱いながら避難するか、一切目もくれず避難するか、どっちにしても見たくもない醜さだというのは間違い無い。






「って言うか、ラーパタって確かあの趣味の悪い宮殿の……」


 そうだ、あの中年の顔、此処から黄金の像を見ているだけだから分かりにくいけれど、絵で顔を覚えさせられていた相手だ。

 ラーパタ・アマーラ、現皇帝であるカーリーの従兄弟で……正直外交の場には出て来ない、意図的に外部の目から遠ざけられている事と治める町の様子から薄々察しては居たけれど。


「……」


 無能な悪徳貴族……そんな風に思うも口に出すのは何とか堪えた。

 此処は帝国、九割九分以上の確率で正解だろうけれど、無能だからって無能だと口にするのは憚られる。


 仮にも皇帝の親類縁者だ、婚約者だろうと皇帝の娘の前でそんな事を口にする方が無能だろう。

 だから僕は口を噤んで城への避難を続けつつ様子だけは窺っていた。


 さてと、これで帝国が大きな犠牲を出さずに撃退するなら戦力を目に出来るし、出したなら婚約者の祖国への支援を口実に帝国に介入出来る。

 少しゲスな気もするけれど、クヴァイル家の次期当主としては聖王国の利益を優先しないとさ。



「あの巨人をどうするんだろうね……」


「さて、どうなさるのでしょう?」


 うーん、何か漏らしてくれないかとダメ元だと思ってみたんだけれど手強いな、この子。

 今の彼女は帝国の一員として振る舞っているし、可愛い姿はプライベートだけって事か。


 試しに探ってみたけれど、ネーシャは飄々と受け流して来るだけ、それでも慌てた様子を全く見せないのは何とかなるとでも思っているんだろう。

 避難の名目で僕の目に見せない気なのか、少しでも情報が流れない様にって事か。


 僕としてはお祖父様に”何の成果も得られませんでした”とか堂々と報告出来ないんだけれど、他国の貴族を避難させようってのを拒否して戦いを見ようとか探っているのを公言するのと同じだし……。




「ですが、一つだけ分かっている事は……皇帝陛下の出陣は絶対勝利を意味する、それだけですわ」


 僕の不安を払拭する様に、隠す必要は無いのだと自信を持って行く様に、彼女は不敵に笑いながら僕達に道の端に避けるようにと手で示す。


 見られても平気って事か。


 言われるがままにした時、避難指示の警鐘が鳴り止み、代わりに巨大な銅鑼の音が城から響き渡る。




「え? 何ですか!?」


 空気が……変わった。


 アリアさんは戸惑った顔を見せるけれど、僕は自分の認識が間違った事に気が付いた。

 ネーシャの態度は素知らぬ顔で問い掛けを受け流そうとしたんじゃなくて、これを予期していたのか。


「……成る程。最強の戦士のお出ましって事か」


 避難誘導されていた時、町の人々は不安そうな顔を浮かべ、黄金の中年男性像(全裸)の登場で更にざわめき始める。


 だが、銅鑼が鳴り響いて城門が開いた瞬間にその不安は消え去って、素早い動きで左右に分かれて落ち着いた様子での避難を開始した理由、其れこそが皇帝の存在。


 本来、国のトップに戦闘力はそれ程必要じゃない。

 寧ろ王が戦場に出張って士気高揚を目論まないといけない時点で王としては減点だ。

 避けられない戦いは有るけれど、それでもその事態を避ける事こそが王の役目。


 でも、時と場合で変わるんだ……今回は場所、此処がアマーラ帝国だって事だ。


 帝国は実力主義だ、特に皇族は皇帝の弟だろうと娘だろうと皇族として必要な政務や外交能力だけでなく戦士としての能力も含まれるんだ。



「皇帝陛下ご出陣!!」


 響き渡る声と共に鎧姿の騎士達が城門から二列になって行進を続け、槍の石突きで地面を強く叩いて音を立てながら二列で進むその後方、行列の中央で青紫の巨大な獅子に乗った人物こそ政務外交、そして戦闘能力その全てがアマーラ帝国の頂点である存在。


 頭には国を背負う事を示す王冠、手には巨大な宝石を埋め込んだ黄金製の王杖、その杖も無数の宝石で彩られた物ではあるんだけれど、あの黄金像と違って気品があった。



 皇帝カーリー・アマーラ、まさかこんな所で力を見る事が出来るだなんてね。

 帝国に伝わる魔法、騎士団の装備や戦術、それらを直接目にする事が出来ないのは残念だけれど……夜鶴に任せるしかないのが残念だよ。


 直接自分の目で見て、魔力を感じないと分からない事も存在する。

 又聞きした事を報告書にして出すしかないのが残念だ……。


「待つが良い」


 行軍の邪魔にならない様に横を通り過ぎようとした僕達にカーリー陛下から声が掛けられ、重圧すら感じた僕達は思わず動きを止めれば絶対零度の瞳と視線が重なった。


 ……探ろうとしたのが見抜かれたか?



「折角この様な事態に遭遇したのであるし、貴殿もゼース殿に手土産が必要であろう? おい、お前達、馬を譲れ」


 行軍の邪魔にならない様に横を通り過ぎようとした僕にカーリー陛下は何でもないように告げたその言葉は一種の挑戦に思えた。



応援待ってます


挿絵(By みてみん)

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