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失望と告白 (挿し絵)

 ”側室”、その言葉を聞いた途端にアリアさんが固まった。

 いや、そうだよね、学生の時点で婚約者ならば兎も角として側室だからね。


 女の子だし、もしかして幻滅されちゃったのかな?


 此処はフォローを頼もうとリアスに視線を向け……目を逸らされた。

 この世で最も信頼する上に最も大切な存在が僕を見捨てた瞬間だ。


「む? どうやら彼女は知らなかったのか。……さて、急用を思い出したから僕はさらせて貰おう」


 そしてこの事態を引き起こした友人は気まずい空気を読み、そそくさとこの場から去って行く。

 声を掛けようとするも、今目の前の女の子に対処する方が先だという事は僕にも分かっているよ。


 だってさ、前世でも今世でも僕はこの歳まで恋なんかした事無かったんだ

 今の気持ちが恋か恋未満かは分からないんだけどさ。

 

 兎に角、僕はアリアさんには嫌われたくないってのは間違い無い。


「だ、大丈夫です! 大きな家なら珍しい話じゃないですし、リアスさんからもそれっぽい話を聞いていますから! ……ちょっとビックリしただけです」


「……そうだっけ? 言った気もするし言っていない気もするし……忘れちゃった!」


 一番信頼しているのは妹であるリアス、それは間違い無いし、変える予定もないけれど、変える予定は無い……のだけれども!


「いやね、お祖父様が才能を見出して直々に鍛えた天才でさ、文官を取り仕切って貰うには出自に色々ある子だからって相応の立場を与えようって事よ」


「そうなんですか!」


 あっ! リアスから説明してくれたお陰で僕が説明するよりもスムーズに行った!

 僕に側室になる予定の子が既に居るって聞いて戸惑っていたアリアさんが元気になったみたいだし、何時もの笑顔を浮かべてくれている。


 じゃあ、僕が追加説明してこの話は終わりにしようか。


「うん、そうなんだ。彼女、パンドラは凄く優秀で、手厳しいけど尊敬も信頼もしている。文通で色々課題を出す上に手厳しい評価を貰ってさ、リアスに言われて恋文も送ったんだけれど、それにまで手厳しい評価を貰っちゃったよ。”一生懸命考えたのは伝わって来ますが、こういったのは耳元で囁くべきです。女心を学んで下さい。三十点”だって。厳しいでしょ?」


「……そうですか」


「お兄様、流石に無いわ。うん、ちょっと呆れる」


 ……あれぇ?



 うん、こんな時はパンドラ? それともレナ?

 僕はどっちに頼るべきだろうか。


 どっちも頼った後が怖いんだよ、色々とさ……。



「女心って難しいなぁ」


 こんな時、”お姉ちゃん”が居てくれたら気軽に頼れるのにさ……。

 居もしない人に頼るって情けない真似をする僕だけれど、アリアさんは呆れた溜め息を吐いた後で何やら考え、急に僕の袖を引っ張って恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「あ、あの! お世話になっていますし、私もロノスさんから恋文を貰えれば評価してみますよ? ほら、他の人の視点だって必要だと思いますし。それに……」


 この顔、多分演技だってのはゲームの知識以外にもパンドラやお祖父様の授業で見抜ける様になったけれど、偶に騙されそうになるよ。


 演技……だよね?

 あれ? 途中まで演技だと感じていたのに途中から本当に見えて……。



「それに、私はロノスさんが好きですから。貴方と出会って私は恋を知りました。貴方と一緒に居られるだけで私は幸せで、貴方に少しでも恩返しがしたいです。ご迷惑でないのなら私を側に置いていて下さい」


 アリアさんは僕の目を見つめながら想いを告げる。

 ああ、どうやら完全に彼女は”ゲーム”とは大きく違って来たらしい。


 それも僕が色々とやらかしてしまったせいでさ。




「どうしよう……」


「いや、本当にどうするのよ? お兄ちゃん! ”考えさせて欲しい”って先延ばしにしたけれど、ズルズルと中途半端な状態が続くのは駄目よ!」


 情けない事に僕は直ぐに答えが出なかったけれど、想いを受け入れた後の事を考えれば仕方無いのだと勘弁して欲しい。

 だって、クヴァイル家は僕の代から少しずつ力を削ぎ落とすって計画だけど、アリアさんが王女だって発覚した場合、想いを受け入れるとした時は王国への配慮から難しいし、だからといって想いを受け取らずに距離を開けるには待っているであろう未来が厄介過ぎる。


 だってシアバーンが復活したし、復活するであろう神獣を統べる三匹”獣神将(じゅうしんしょう)”の残り二匹への対応も、連中が復活させようとする”光神の悪心”への対応も古い文献からして闇属性が必要なのはゲームと同じだしさ。


 もっと詳しい情報はパンドラの報告書待ちだけれど、ちょっと調べただけでも知識と符合する事ばかりだ。


 ”ゲームの知識があれば大丈夫”だなんて考えは捨てた筈なのに、こうもゲームの知識と同じ様になって行くだなんて皮肉だよ。



「ちょっと聞いているの!?」


「聞いているよ、リアス。うん、ちゃんと考えるからさ」


「まあ、即座に答えを出すのも失礼な話だし、ちゃんと考えるのよ? 私はお兄ちゃんが出した答えなら応援するし、それでやって来る困難だって私達兄妹だったら大丈夫なんだから! ……って、頭を急に撫でないでよ」


「矢っ張りリアスは頼れる味方ただと思ってさ」


「あ、当たり前よ! お兄ちゃんもっと私を頼りにして良いの! 私は守られるだけの存在じゃないんだから! もうこうなれば神だろうが何だろうが私達でぶっ倒すわよ!」


 何と言うか、リアスと話をしているとウジウジ考えるのが馬鹿みたいに思えて来るんだ。

 自信満々に(平らな)胸を張る姿は見ていて微笑ましい。

 まあ、アリアさんには悪いけれど現状維持が一番だろうね。


 ……彼女を取り巻く状況を考えれば悠長なばかりじゃ駄目だけどさ。




「一応先にパンドラに報告しておいた方が良いんじゃないかしら? 告白されましたって」


「だよねぇ……。相談せずに話が進んだ場合を想像もしたくないよ。失望されたくは無いからね、彼女にはさ」


「その程度でしないだろうけれど、かなりの駄目出しは食らうでしょうね。何せ恋文にすら出すんだから」


 本当はパンドラだけじゃなくて親しい人全員が対象なんだけれど、彼女は僕よりずっと頭が良いのに僕を立てて当主として立派にさせようと手を尽くしてくれている。

 将来も僕を支えてくれる筈だし、お祖父様と同じ位に尊敬しているんだ。


「だから最低限の事はするよ。報連相はしっかりとね。……取り敢えず今必要なのはテュラが接触した時の対応と……避けられるだけの揉め事は避ける事だ」


「じゃあ、朧気な記憶を取り戻す為に帝国のダンジョンに潜る方法を考えるとして……舞踏会が肝になるわね」


 やる事が決まったなら、後は不測の事態に向けて力を高め、情報と味方を集めるだけ。

 ……情報?



「あっ! 居たよ、アリアさん以外の闇属性! 裏設定を語ってたのを思い出した! 好感度を教えてくれる占い師だ!」


 この世界に、そしてこの街に居るかどうかは分からないけれど、居て味方に引き込めたなら頼もしい。

 じゃあ、放課後早速探しに行こう!






「さてさて、昨日は随分と手酷くやられましたし、封印の解除にも力が足りない。何か利用可能な者は居ないでしょうかねぇ?」


 ロノスが重要な情報を思い出した頃、彼から受けたダメージが残っている様子のシアバーンは、レキアが管理する場所以外の妖精の領域に姿を見せていた。

 木々をなぎ倒し地面をひっくり返して掘り起こしたのは巨大な石版。

 古代の文字が掘られたそれからは光の力が鎖の様に雁字搦めに巻き付いていた。


 シアバーンが手にしたのはアイザックの見張りに渡した球体の内、リザード・ホーリーナイトの体内から消えた物であり、先程まで闇の力を内包していた。


 シアバーンの指先が光の鎖にそっと触れる。

 ほんの僅かだけだが鎖が欠けていた……。









「ああ、味方が復活するまで幾ら必要なのか。その時まで私一人とは少々骨が折れそうですが……うん? ああ、居たじゃないですか。力を欲している”お客様”が。アヒャヒャヒャヒャヒャ!」




挿絵(By みてみん)

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