閑話 ブラコングは気に入らない
ブクマお願いします! 上からブックマークを是非!
私は今、二つの選択を迫られていた。
好きな物と嫌いな物のどちらを先に食べるか? いいえ、違うわ。
だったら粒あんと漉しあんのどっちを選ぶか? そんな訳無いじゃないの。
宿題を早めにするかギリギリまで遊んでいるか? 生憎一定以上のお勉強の時間は決められているし、お兄ちゃんもその辺には厳しいわ。
「これで、決着」
私に迫る巨大な拳、いいえ、巨大に見える威圧感を込めたシロノの拳。
威圧なんかはされていないけれど、この女って脳みそまで筋肉で出来ているからそれなりに戦えるのよ。
まっ! 私の方が強いんだけれど!!
「ええ、そうね。もう決着よ私の勝利って終わり方でね!」
私に迫られたのは避けるか衝撃を殺す受け方をするか……馬っ鹿じゃない?
そんな事をしていたらこっちの攻撃の威力が落ちるじゃないの、正解は第三の選択肢……ダメージ無視して攻撃を打ち込む!
逃げるのも損害を抑えるのも、そんな弱気な選択肢は私の中には存在しない、攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めまくる!
逃げ腰だなんて貴族令嬢として、聖女として、何よりもリアス・クヴァイルとして失格だわ。
数メートルの距離が互いの鋭い踏み込みで一気に狭まる、最後の一歩は私達でも体勢が崩れてしまいそうな程に崩れない程度の威力に止め、互いの爪先がギリギリ触れない踏み込み先を中心に半径十メートルの地面が激しくひび割れて隆起する中、私もシロノも回避も防御も気にせずに拳を相手の顔面めがけて振り抜く。
え? 何で戦っているのかって?
えっと、えっと……時間は少し巻き戻るわ。
「ぐへっ!」
「はい。今日の授業は此処までです」
夏休みでも私はずっと遊んではいられない、今日もクヴァイル家の歴史に関する授業が終わった途端にぐろっきー、暴れるだけなら半日だって平気なのに頭を使うのはマジでちょっと……。
「では、あと少しでお茶の時間ですが、その後で神話の授業ですからね」
「うん。ちょっと外で気分転換してくる……」
っと言いつつ逃げる準備を……。
「逃げたら駄目ですよ?」
何でバレたの!?
まあ、こんな感じで仕方無く妥協した庭での散歩、お気に入りの木の枝でお昼寝でもしようと思っていたらシロノが先に寝ていたわ。
私のお気に入りのサボり場でシロノが寝ていたの、だから木を蹴って叩き起こしても良いわよね?
「何のつもりだ?」
「ちょっと組み手に付き合いなさい、脳筋女」
大体、偉そうだったり、胸が大きかったり、お兄ちゃんを襲ったり、巨乳だったり、胸がデカかったり、私は此奴が大嫌い。
だからまあ、戦う事に、したって訳よ。
いや、戦う気じゃなくって……叩きのめす気だって方が正確ね。
だって、私の方が絶対に強いし。
「「ふんっ!!!」」
互いに大岩さえ粉砕する一撃を頬に叩き込み、衝撃を受けながらも迷わず振り抜く。
体を突き抜けた衝撃が背後の地面や木を吹き飛ばし窓ガラスを割って砕くけれど私もシロノも一歩も引かない意識も飛ばない痛みで呻きも怯みもせず、知った事かと腕を振り続ける。
「「らぁああああああああああああああああっ!!」」
あー、もう! 掛け声が被るとか最悪! 真似してんじゃないわよ!
諸々の怒りを拳に込めて、殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れっ!
腕が動く限り、意識が続く限り殴り続け、互いに渾身の一撃がヒットして地面に二本の跡を刻み込みながら後退した。
「……ぐっ!」
「はっ! もう限界かしら? 無駄な荷物をぶら下げているものね」
私は僅かにフラッとしたけれどシロノは数歩前に蹈鞴を踏んで、倒れそうになるのを何とか堪えた。
つ・ま・り! 私の勝ち~! いえ~い!
これも胸に余計な荷物を付けているから体幹が崩れるのよ、僅かだけれどラッシュの途中から威力が落ちたのは感じていたわ。
胸なんて戦いの時には邪魔になるだけ、だから胸が大きいからって調子に乗ってるから私に負けるんだと天才的頭脳で行き着いた結論を教えて鼻で笑ってやったんだけれど、脳筋女は何かを考え込むようにして片手で胸を持ち上げる様にして揺らしている。
……けっ!
「肯定、普段は動かない。激しく動く、揺れる」
「……は?」
え? 何? 自慢? 私は胸が大きいですよって自慢かしら?
「リアス、羨ましい。その胸、動いても邪魔にならない」
「よーし! ぶっ殺そう!」
語尾に☆が付きそうなノリで言いながら拳と拳をぶつけ合い、一気に魔力を練り上げる。
「庭での組み手で使うなって言われているけれど、これは組み手じゃなくって制裁だから大丈夫よね」
うん! 絶対大丈夫!
貧乳の代表として……私が代表的な貧乳って事じゃなく、貧乳の敵を見つけたからって意味で、目の前の無駄乳女をぶっ飛ばさなくちゃね。
「”アドヴェント”!」
「歓喜! 我も禁じ手を使用する!」
光を纏う私を目にして獰猛な笑みを浮かべ、私と同様に使用禁止を言い渡されている獣化を使い白い毛を生やした手足での四つん這い、筋肉も少し膨れ上がって瞳も血走った。
「フー! フー!」
「うわっ。理性が吹っ飛んでるんじゃないの? ……さてと」」
息遣いが荒く獰猛さが更に増えたシロノにドン引きした後、一瞬だけ瞳を閉じて意識を切り替え、敵じゃなく己の肉体にのみ集中する。
見えているけれど見ていない、存在を感じ取っているけれど認識しない。
只、己が放てる最高の一撃を放つ事のみを追求するべし。
足は根を張るみたいに地面にどっしりと構え、腰を落として右腕の拳を強く握り締めて腰を僅かに動かして全身の力を回転と共に拳に集める構え。
力を溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて、溜められるだけ溜め続ける。
「があっ!!」
私の構えが待ちならばシロノは攻め、四肢のバネを使って跳び、私を追い越して遙か上空へと向かい、空中に展開した風の壁を蹴って更に反動で加速、更に地面に着地すると同時に更に加速、更に更に更に更に加速加速加速加速加速。
私を檻に閉じ込めるように四方を跳ね回り、体が軋んでも速度を追い求めるシロノが最後に跳ねたのは私の正面、視覚から攻撃なんかしない、それは分かっていた。
「アンタって本当にそういう所だけは気が合うわよね!」
一連の動きを私は目で追っていない、気配を探ってもいない。
本能でどんな動きをするのか知っていた、只それだけ。
私も反動なんか考えず限界まで体を捻り、反動を気にせず光を噴射して威力を高めに高めた一撃をシロノが来るであろう場所とタイミングに目掛けて放つのみ。
「「!!!!!!!」」
避けない防がない、自分の一撃を相手に叩き込む事だけを考えて……いや、もう本能のままに……。
そして、その結果は……。
「アンタ達、ちょっと顔を見せに来たら何やってんだい? 使うなっつったよな? アタシ、確かに言ったよな?」
「レ、レナス……」
「レナス……さん」
私達の渾身の一撃は間に割り込んだレナの交差させた腕によって受け止められ、腕の動きだけで威力を受け流される。
それこそ私達に一切の反動が無いレベルで……。
「取り敢えず今から説教だよ。終わるまで続けるから今夜は眠れると思わない事だね」
「え? 今、お昼……何でも無いです」
ううっ、レナスには逆らえないのよねぇ……。