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導かれし者

ブクマ増えてて嬉しいです

 前世でやったゲーム(と言っても八歳だったから其処までやってなくて、お姉ちゃんがしているのを眺めていたのが多いけれど)の主人公達は自由だと思う。

 国から国へ基本自由に出入りして、その場所で起きる騒動には真正面から首を突っ込み、解決したらしたらでさっさと去っていく。


 そりゃあ例外も有るんだろうけれど、基本的にはそんな感じだし、単純に可能な事をするだけってのは羨ましく思うんだ。

 旅の第三者が関わらないと村や町が滅んだり、兵士が解決の役に立っていないみたいな質の悪い国は全然羨ましくないけれどね。



「”君は手を出さない方が良い”でしたっけ? 神様が直々に忠告しに来られる程ですもの、厄介な敵なのでは? 私、不安ですし守るだけはして下さります?」


「で、でもネーシャさんは皇女ですし、強い敵が相手なら戦場に赴く必要があるんじゃ。それと私も不安で……」


「……実力主義は何も指揮能力や戦闘能力だけを指してはいませんわよ? まあ、身分の高い者が出向いて武勇を示せば士気向上やら後の政治的利益に繋がるので有り得ますが、あれだけ大勢の前で力を示したアリアさんにもお声が掛かるかも知れませんし……何より力を示したいのでしょう? 守って貰っていては無理ですわよ」


 氷の馬に引かれて進む馬車の上、氷の車体に乗ってもお尻が冷たくならない様に用意されたクッションに座って進む僕達三人……いや、四人。



「……」


 僕を挟んで座り、一見すればにこやかに、けれど互いに抜け駆けを同盟締結早々に狙ったからか空気が冷たい、氷の馬車のせいだと思いたいんだけれど其処は魔法によるものだからか涼しい程度。

 だから僕の両側から来る寒さは心情的な物なんだよなあ、って思いながら見つめるのは馬の背に乗った人の後ろ姿だ。


 アンノウン様の神獣であるリゼリクさん、彼が何故此処に居るのか、僕達に同行しているのか、それはアンノウン様からの提案だった。







「何か暑そうだよね、あの格好」


 覆面に全身を覆う黒一色、砂漠地帯が多いアラビアンナイト的な地域のエワーダ帝国じゃ暑いと言うより熱いだろうに汗を拭く仕草すら見せず、時折背中に哀愁と居心地の悪さを感じさせている。


「ママー! 見て、変な格好!」


「しっ! お仕事なのよ、きっと」


「哀れな……」


 こんな如何にも普通の身分じゃないって感じの馬車で移動しているからか不審者扱いは警邏の兵士に数度呼び止められただけ、喋れない顔見せれないの二つのせいで詰め所まで任意という名の強制連行される所を僕達で何とかしたけれど、同情しか感じないよ。






「あら、そうですわね。所でロノス様、少し進んだ先に些かセクシーな衣装ばかりのお店が御座いまして、実はヴァティ商会の管轄なのですが異国の貴族として私が着ている姿を評価して下さいません?」


「セクシーな衣装……」


 踊り子みたいな姿のネーシャ、特に腰回りを思い浮かべてしまう僕。

 胸囲は何人かに負ける彼女だけれど、腰回りのセクシーさは僕の知る他の子達に負けていない。

 少し華奢な感じも全体的にするし、育ちの良さも感じるから余計にセクシー系の衣装が……。


 思わずネーシャの方に体が向いた時、背中に当たる柔らかい物、アリアさんがくっついていたんだ。

 力が最近強くなったから密着する力だって強いし、だからって柔らかさは変わらない。


「……むぅ」


 何も言えないけれど気に入らないからむくれている、それが分かったからか空気が余計に……。




 温かい物が押し当てられてはいるのに背筋が冷える空気の中、僕達がやって来たのは女性向けの服が並べられた高級店、なのに僅かな店員を除いて人の姿は無し、因みに男は僕だけさ。



「それではロノス様、私達が何を選ぶのか……待っていて下さいませ。……アリアさんとどちらを脱がせたいのか色々と迷うと思いますわ」


「脱げと言うのなら私は自分から……」


「じゃあ、僕は一旦出て行くよ」


警備の人さえ女性だし、ちょっと居辛いから退散退散っと。


 まーだピリピリしているしさ。


 店を出て端の方で立っていたリゼリクさんに会釈をする、周囲の人は見えない振りをしてあげていたけれど、その優しさは余計に染みるよ?







「何かなあ。どうもなあ」


 ちょっとあの空間に戻るのは覚悟が必要だからと店の周りを一周しようと入った路地裏、ガンダーラは皇帝のお膝元だけあって大通りから離れても汚かったり柄の悪い連中がたむろっている事なんて無く、人の気配こそ無いけれど綺麗な感じだ。


「落ち着くには丁度良いかな? ちょっとだけ目を閉じて……おっと、誰か来た」


 壁に背中を預けてちょっとだけ時間を潰す気だった僕の耳が近付いて来る足音を捉え、目を閉じて腕組みをするのを止めておく。

 足音は横道の向こうから聞こえて来るし、出て来たら腕組みをして目を閉じた男が立っているとか驚くだろうからね。

 こんな場所で待ち合わせをする人も少ないだろうし、一瞬でも怪訝そうな目を向けられるのも何か嫌だった事もあり、仕方無いので店の前の屋台でも眺めようと決めた時だ。


「あ、あの! 聖騎士様ですよね!」


 多分足音の主だろう女の子の声が立ち去ろうと向けた背中に掛かる。

 驚きと嬉しそうな感じが混じった様な声の振り返れば、帝国では珍しいシスター服の女の子が口元に手を当てていて、目をキラキラと輝かせていた。


 帝国の信仰でメジャーな神様に仕える人の格好はピラミッドの壁画に描かれていそうなのとか、前世で見た映画で出た砂漠の国の神官や神子って感じなのに目の前の彼女はシスター服、それでも信仰の対象は幾らか候補が上がるけれど、目の前の相手みたいな反応をする連中を僕は何度も目にして来たんだ。



「うん? まあ、そんな風に呼ばれてはいるけれど、何か用かい? ……随分と奥の方に教会が有るんだね」


 多神教なのがこの大陸の共通の宗教だけれど、どの神様を信仰するかは国や地方で大きく違う。

 ギヌスの民が自由を司るアンノウン様を信仰し、聖王国では聖女が国を興したから光の女神であるリュキを主に信仰しているみたいにね。


 そんな訳で主に信仰されていない神の信者は迫害や肩身の狭い想いこそしていなくても教会とかが不便な場所に有ったり、広場とかでの宗教的儀式だってし辛い。


 だから彼女は……推定リュキ信者のシスターは今の聖女であるリアスの兄であり、”聖女”を守る”聖騎士”の僕に会えて嬉しいんだろうね、仕事で地方に行くと、聖王国でさえリュキ信者ってこんな反応するから分かった。



 だからかな? 普通に返答したけれど心の中じゃ少し冷めていたのはさ。


 普通にゲームに似た世界に転生しただけなら(普通とは?)ゲームでそうなっていたからって全て同じだとは決めなかった……よね? 僕とリアスって八歳と六歳だったし、何かの拍子にそうなっていたかな?


 でも、テュラになったお姉ちゃんから話は聞いて、ゲームと同じ言動思想の相手と出会って……正直リュキは好きになれない、アンノウン様にさえしている様付けをしない程度にはね。


「私、聖女様や聖騎士様と一度で良いからお会いしてみたかったんです。きっとこれも女神のお導きですね!」


 僕の心情なんて知らずに感極まった様子の彼女を観察すると少し分かる事がある。

 先ず、寄付金や補助金が不足しているのかシスター服が随分と古い。

 洗濯はしているのか清潔な感じだけれど解れを直した跡が少し有ったし、清貧にしてもちょっとね。


 髪は薄赤茶色を肩まで伸ばしているけれど頭にシスターのアレを被っているから詳しいのは分からなくって身長はアリアさん位か。

 そして聖職者相手に品が無いけれどスタイルの方はお尻がね……大きかった。

 小柄な彼女の身長に合っていない少し大きいサイズなのにお尻と胸の辺りだけピッチピチでちょっと目に毒というか、口には出せないけれどエッチな本で悪漢に襲われそうな見た目だけれど僕には分かる。



 あの胸、詰め物だな。動きがちょっと変だしさ。

 本当にデカい人のを何人も知っているし、何なら触ったから分かるのさ。


 ……いや、絶対に口には出せないけれどさ、うん……。



「そうなのかい? 喜んで貰えたら嬉しいよ。僕が何かした訳じゃなくってもさ」


 だからといってリュキ信者にまで冷たくはしないけれど、嫌いな奴の親戚が其奴の友人扱いして来て、友達じゃないとは言えないって感じかな?

 リアスをゲームみたいにしたのもリュキ信者だったし、自国民なら兎も角、他国の民なら適当な所でサヨナラしたいなあ……。


「僕とは偶然会っただけだし、何かお勤めの途中だったんじゃないのかい? 僕も人を待たせているし、また縁があったら教会にでも顔を出すよ」


「は、はい! って、ご挨拶を忘れていました! この道の先の教会で女神リュキ様にお仕えしているラビアと申します!」


 慌ててペコペコと頭を下げる彼女に手を軽く振って背を向けて別れる。

 縁があったら、ってのは嘘ではないんだ、嘘ではね。


 多分そんな機会は無いけれどね。

 だって帝国貴族との付き合いとか結構忙しいし。


「こっちです! こっちに出たら大きい道に出ますし、詰め所に行けば兵士さんが案内してくれますよ」


 迷子の道案内をしてあげていたのか、いい子だな。


 あと、君の信仰対象、人間を滅ぼそうとして、その為の道具が今も暗躍しているよ。

 何なら一人は馬鹿で、もう一人は信じられないレベルでアホだから。







挿絵(By みてみん)





 ……なんて事は言えないから無難な事を言って別れようとした時、聞き慣れた情けない声が聞こえて来た。





「うっうっ、もう帰れないと思ったのじゃ。私様をよくぞ導いたのじゃあ……」





 そのアホが迷子だった……うわぁ。

応援待ってます


挿絵(By みてみん) 女神二人

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