意地悪
ブクマ期待しています
静かに降り始めた雨から、そして別れた時瞬間から待ち受ける様に逃げ込んだ洞窟の中、聞こえたのは雨音と二人の息遣いと鼓動。
「ロノス様、ロノス様、ロノス様ぁ・・・・・・」
先程純潔を失ったばかり所か物心付いてから異性に対して肌を必要以上に見せて来なかった私なのに、指と指、舌と舌を絡めて獣の如く相手を求める。
引っ込み思案で言いたい事の半分も言えず、ロノス様を少しでも引き離せばリアス様が怒るからデートも数える程しかしていないのに、こうやって外で殿方に跨がっている姿なんて昨日までの私が見たら恥ずかしさで気絶をしてしまいそう。
「ネーシャ、もうそろそろ・・・・・・」
「嫌・・・です・・・・・・」
もう何度目か分からない程に果て、体中が土や互いの体液で全身が汚れて体力もとっくに尽きて来た時、ロノス様が終わりを告げようとしたのを拒否する。
ふふふ、私がこんな風にはしたない真似をするだけでも驚いていたのに反抗までしたからロノス様ったら驚いてしまって・・・・・・。
これ以上は何も言わせないとばかりに唇と唇を強く重ねて体を密着させる。
これが終わって別れてしまえば、それが二人の今生の別れとなってしまうのを私は分かっている。
「好きです。愛しています・・・・・・」
あの日、手に入る筈だった全てを失い自分の価値に自信が持てなくなった私。
もう終わりなのだと全てを諦めて、婚約者が決まった時も役割を果たすだけの人形で良いと思っていたのに。
「ロノス様、私と何処か遠くに……」
「……」
あの日、二人に凄い所を見せたいという欲求から全てを失った私、だから何も望まずに与えられた役目をこなして生きて行こうと決めたのに、ロノス様が私に再び欲を与えてくれた。
貴女の側でずっと生きていきたいと、それだけ叶えば私は満足でしたのに。もうそれは叶わない。
私は彼の胸に顔を埋め、顔を見ないようにする。
拒絶の言葉の代わりに悲しい顔をするのが分かっていたから……。
これが私とロノス様の最後の時間、リアス様の……狂ってしまった最愛の妹の最後の我が儘に付き合い、その結果がどうでも自らの手で全てを終わらせる気だった彼の存在を深く刻み込む為の……。
「ネーシャ、もう休むかい?」
「……嫌です。もっと、もっとロノス様を私に下さい。生涯忘れられない時間を……」
意識を手放しそうになるのを堪え、この時間が永遠に続けば良いのにと神に祈るけれど叶う筈も無く、最後に軽い口付けを交わして私達は別れて、それでも私は願っていた。
私の元に戻って来てくれて、今回の事を恥ずかしく思いながらも笑い合える日が待っているのだと、心の底から願って、それは叶わない。
数日後、私の耳に届いたのは二人が死んだという知らせ。
忘れられたら、忘れた振りをしながら生きていく事が出来たなら良かったのでしょうが、私にその選択肢は選べなくて……。
「ロノス様、私も一緒に地獄に……」
……これが私の知らない私の記憶。
意識が飛んだ瞬間、本当に体験した事みたいに見ていた夢。
子供の頃の朧気ながら覚えている記憶よりもハッキリしているそれは毒を飲んで意識を失った所で終わり、本当に人生を終えたのでしょうね、あの私は……。
「ロノス様、うぁ。んっ……ぁ」
今の私?
周囲一体を黒一色で覆われた部屋の中、ランプの明かりだけが周囲を照らし、汗ばむような暑さは私が出した氷で室温を下げる。
そして私はベッドの端に座ったロノス様に抱き締められて体中を撫で回されていましたわ。
あ、あの一度だけで私に弱い所を熟知されて、腕も一緒に抱き締められているから抵抗も出来ませんし、夢の中のロノス様よりお上手じゃありません?
……既に何度も経験済みですわね、こっちのロノス様ったら。
「ロノス様、私がご奉仕を……ひゃん」
「うーん。今回は君に奉仕したい気分かな? もう少しネーシャの弱点を調べたい気分だしさ。例えば首筋でも……右側とか」
「くっ……」
少し誘惑して溺れさせる気でしたのに、私が快楽に溺れそうで……。
協力関係を結んだアリアを裏切って此処まで来ましたし、来た時には私が奉仕して夢中にさせる気でしたのに。
殿方って主導権を握りたいって思うものですし、相手には自分が優位であると錯覚させつつ本当は自分が手綱を握る。
純潔は保ったままですがその手の教育は受けていますのに、どうして此処まで一方的にやられているのやら、その疑問も押し寄せる快楽で頭が真っ白になった私は思考が定まらない。
「……ぁん」
声を出すのが悔しいので手で押さえたいけれど抱き締められていてはそれは叶わず、歯を食いしばって声を殺そうとするも声が漏れる。
しかも服の上から撫でられるだけで先には進まない生殺しですし、無様じゃありませんか、今の私って。
いっそ、服を引き剥がされて強引に犯される方がマシな気がしますけれど、それを自分の口から……ああ、もう!
「まどろっこしい!」
私、キレました。
もう恥とかプライドとか知った事じゃ有りませんわよ!
この状況で抱かないで撫で回すだけとかいい加減になさいな!
暴れようにも暴れられませんが、大きな声を上げれば驚いた様子で指の動きが止まる。
「どうしたんだい? 何か伝えたい事があったら聞くよ。ネーシャが何を言うのか知りたいな、僕」
「……分かってますよね? ちょっと意地悪が過ぎます……きゃっ」
反論中に太股の敏感な所を指先で撫でられて声が出てしまいますが、聞きたいんじゃなかったのですの?
むぅ、これは私の口から普段は言えない言葉を言わせたいのですわね……。
ロノス様の色情魔……私が籠絡する筈が、私がねじ伏せられてしまいそうで、もう完全に諦めた。
あれですわよ、もう優位になるとか忘れて今は楽しむ事だけ考えましょう。
「ロノス様……わ、私を犯し……」
突然鳴る腹の音、ふと思い出せば朝ご飯は一緒にお風呂に入る時の相談をアリアとする為に軽く済ませて、邪魔されたのが癪だったので座りながら出来る運動をしたんでしたわ。
「わ、私をお菓子が美味しいお店に連れて行って下さいませんか?」
……ヘタレ? 五月蠅いですわよ、仕方が無いじゃないですわ!
さっきまでの雰囲気も気分も全て台無し、盛りの付いた獣みたいな気分も全部吹っ飛んで気まずさだけが残る。
寧ろこの空気の中で誘える方って居ます?
「あー、僕もお腹が減ったし、何処かに食べに行こうか。ほら、歩けるかい?」
「実は足腰が立たない状態で……」
それに下着が少し……は流石に口には出来ない私。
「だから抱っこをお願いします……いえ、忘れて下さいませ。本当にお願い致しますわ」
ええ、お姫様抱っこをして欲しいとは思いましたが、皇帝の養女として帝国にいるのに大勢の前でその様なのは……。
「だから少しだけゆっくりしてから出掛けましょう。部屋の空気を入れ換えて、太陽の光を浴びてゆっくりと。……だからエッチな事は駄目ですわよ」
分かっていらっしゃるとは思いますけれど、警備の兵士だって巡回しているのに変な声を聞かせられませんわ。
だから一応釘は刺しますが、言うまでもない事でしょう……ですわよね?
返事がないのに不安になりつつも後ろから抱き締められている状態では顔を見れない。
その無言、少し恐ろしいのですが……。
「当然じゃないか。わざわざ言うとか実は期待していたのかい?」
抱き締める腕の力が緩み、体を反転させてロノス様のお顔を見ればニヤリと笑っていて、私を不安にさせて楽しんでいたのだと良く分かる。
「もう! ロノス様ったら」
仕返しとばかりにポカポカと叩くものの痛いとは思っていないのか平気な顔、それが少し悔しい中、部屋の周囲の時間停止が解除されて入って来るのは太陽の明かりと新鮮な空気。
そして熱気と反対側の壁に磔にされた城のメイドの姿でした……。