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オタクは話したい?

総合二千八百突破!? 応援感謝&ブクマ大募集!


挿絵(By みてみん) ゴリラ魔女

 会場は静寂に包まれ、近くにいる人の鼓動の音さえ聞こえて来そうな程。

 当然の結果として、驚愕や困惑を理由として、沈黙の理由は後者が多いけれど、僕達だけでなくカーリー皇帝や吸血鬼族達もアリアさんの勝利に驚いた様子を見せていないし、ちゃんと見抜いていたって事か。


 僕の中で警戒度が上がる中、庭から聞こえて来る巨体が倒れ込む音、両断されたマウンテンバイソンが右側に倒れ込み、折り重なった左右の隙間から中身が見えて血臭が漂った時、小さな悲鳴と共に気の弱い貴族が数人倒れ込み、それを打ち消すかの様に銅鑼の音が響く。



「見事! 皆の者、勇猛果敢なる強者に称賛を!」


 続いて響くカーリー皇帝の言葉、誰かが恐怖を明確に口にする前に彼女にこう言われれば会場の空気をそちらには持っていけない。

 賛辞の途中で倒れないように見計らっていたな、多分。


 空かさず僕達最初から分かっていた一部が拍手を始めればマオ・ニュがアリアさんに呆れ顔を向けていた

 圧倒だったけれど、それだけじゃ駄目だって事だ。



「今の、皇帝陛下の言葉の途中で倒れられていれば悪印象が増したでしょうが、倒れたという事へのショックが皇帝陛下の言葉でかき消されましたね。……パンドラちゃん、引き入れるのならば戦いへの印象操作も教えて下さい」


「はい、分かっていますよ」


「……え? 引き入れるって既にマオ・ニュにまで伝わって……いや、当然か」


 マオ・ニュはレナスと並ぶ聖王国最強の戦士、更に言うなら内外共に恐怖担当だけれど、僕達がアリアさんに任せるのは闇属性の汚名を覆す功績……英雄の其れだ。


 ゲームでは色々有りながらも少しずつ認められていったけれど、クヴァイル家の後ろ盾があれば行動もしやすいし、結果はちゃんとついて来てくれる……とは言えないけれど。

 だってネットとか無いから情報伝達に難あるし……。


「そう言えばマオ・ニュって噂では高身長でグラマーな美女かクールな美少年ってなってたよね」


「人の噂なんてそんな物ですよ?」


「高身長でもグラマーでも無いもんね」


「美少年要素には否定無しですか? せめて”美少年じゃなくって美少女だよね“……いえ、忘れて下さい。もう直ぐ三十路になるのに少女って、少女って……」


 カーリー皇帝の言葉に賛同するように周囲からはアリアさんへの賛辞の言葉が聞こえるけれど、正直言って薄っぺらい口だけの内容だった。

 皇帝陛下が誉めているから貶せないし、一緒に居た僕や招待したネーシャまで侮辱するのは避けたいし、腰を引かせてはいるけれど取り敢えず誉めておこうって空気に流されているだけだろう。


 まあ、何となく怖い物だった闇属性の力がどれだけの物かを知らしめるのが今回の目的だ、じゃないと功績について話を聞いても疑われる。


 力を恐れはするけれど、その大きさは認めたくないってのが心理だ。


 ……所でマオ・ニュが此処までダメージを食らった所を見るのは初めてだ。

 自嘲の笑みを浮かべ、ハイライトが消えた瞳で虚空を見つめるけれど、ちょっと反論させて貰うなら男装ばかりしているから美少年だって噂されるんじゃないのかなあ。




「だ…大丈夫。マオ・ニュは十代半ばにしか見えないから! お肌だってレナスと違ってピチピチだし。……後半はレナスには秘密ね。絶対殴られる」


「戯れは其処までだ。背筋を正し気を引き締めよ」


「はっ!」


 お祖父様の言葉でマオ・ニュの表情が瞬時に凛々しい物へと変わる中、僕は他にも表情が大きく変わった人物……ロザリーに気が付いた。

 趣味思考があっち側の人みたいだし、もしかしてアリアさんを恋愛とかそっち方面で気に入ったのか、そんな心配は目を見れば一瞬で吹っ飛ぶ。

 ギラギラと光る瞳、楽しそうに歪んだ口元、そして存在しない刀の柄辺りに持って行った手は抜刀術の構えを連想させる。

 ああ、予想以上に面倒な相手だったという事なんだね。


 あの瞳を、口元を、手元に無い獲物を求める動きをする人種を僕はよ~く知っているんだ。

裏の仕事の時に出会った敵組織の構成員や傭兵、聖騎士なんて恥ずかしい異名の僕に挑む在野の戦士、親戚も所属する部族、そして最高に可愛い愛しの妹……最初の二つと並べたら可哀想だ、最初の二つは忘れよう。


 その人種はこう呼ばれている……。





「……バトルジャンキー?」


 そう、戦い大好きな連中、アリアさんの力を見ちゃってウズウズしたって感じだ。

 ラヴンズ王の方はそんな娘を見て胃の辺りを押さえているし、リュミイエモンとかいうアンノウン信者は何とか宥めようとして、ショタナイは値踏みする目でアリアさんを眺めていた。


 これから引き抜き工作にも注意するべきか。

 予想はしていたけれど、時期が随分と早い、周りを過小評価していた代償だな、これは。


「みたいですね。吸血鬼の姫は随分とお転婆の様で……」


「リアスちゃんと同じバトルジャンキー系お嬢様なんですね。お嬢様としてはどうかと思うけれど」


「その言い方だとリアスも問題っぽいよ?」


 あの子は向上心が旺盛で力を試したいだけさ、何を言っているんだか。

 身内だから評価を厳しくしているみたいだし、僕は甘くしてあげなくっちゃね。


「甘やかしたら駄目ですよ、ロノス君」


 何で?






 目の前の存在を須く切り捨てんってばかりに血が滾っている様子に周囲も気が付き始める。


 あ~あ、パティ姫なんてすっかり怯えちゃってるよ。

 ネーシャと同じ顔だけに違和感を覚えるし、思わず見比べればニコニコと笑みで返して来る。

 双子でも育った環境が違えば顔だけ似ていても全くの別人だな、我ながら直ぐに見分けが付く筈だよ。


「姫様、一旦お化粧直しに参りましょう」


 放置はもうこれ以上無理だと判断したらしいショタナイが肩に手を置こうとしたけれど、その手は空振ってロザリーの姿は自然な足取りで人混みを優雅に避けながらカーリー皇帝の前に。


「これはロザリー姫、何用だ?」


「野暮な事は聞かずに準備をお願いするよ。マウンテンバイソンはもう一匹居るんだろう? 聖騎士君に挑戦して貰い、次は帝国の騎士に相手取らせる予定だったのだろうが……私に譲って欲しい」


「相も変わらず悪癖は直らず、か。生半可な者ならば即座に追い出す所だぞ」


「分かっているさ。後で罰でも何でも受け入れる。でも、今は本能のままに暴れたい気分なんだ」


 完全にスイッチが入ってしまったらしく、立場を忘れたという態度で要求をして来るロザリーだけれど、友好国の姫だから無碍に扱う事も出来ないのだろう、溜め息を吐き出したカーリー皇帝はラヴンズ王へと視線を向けた。


「済まぬな、カーリー殿。愚娘がこうなった以上は……」


「……仕方が無い。ラヴンズ殿に頼まれればな。……もう一匹の檻を持って来い。無論、先に力を示した勇者の帰還を待ってからだ」


 何だかんだで却下されると思いきや受け入れられるなんて予想以上に結び付きが強いという事か。

 これはラヴンズ・フルゴール国と揉めた時、帝国が向こうに回る可能性が高いかも知れない。


「ふふふ、御館様はちゃんと考えてらっしゃいます」


「?」


 僕の懸念を見抜いたらしいマオ・ニュが人差し指を唇に当てて微笑みながら小声で告げているとアリアさんが戻って来た。


「ロノスさん、勝って来ました。秒殺です!」


 友人でも地位が違うから、パーティーの席ではネーシャにはちゃんと様付けで呼んでいた彼女は大勢の目があるのに親しげに話し掛け、手をブンブン振って僕に駆け寄って来る。

 


 尚、胸も凄く揺れていた


「……あっ! 学園でもないのに飛んだ口の効き方を!」


 っと思ったら慌てて頭を下げる彼女を落ち着かせるんだけれど、当然演技だ。

 うん、これで僕との仲を更に印象付けたな。



「……」


 お祖父様は一瞬だけ視線を向けるけれど一言も発さずに視線を外し、アリアさんを咎める様子を見せない。

 これは仲に反対する気がないって事で良いのかな?



「始まりますよ、二人共。ロザリー姫の力を存分に見せて貰いましょう」


 マオ・ニュの言葉に続いて響く銅鑼の音、庭に降りたったロザリーの前に解放されるマウンテンバイソン。

 同族の血の匂いが死体を片付けても残っているのか酷く興奮した様子。

 鼻息荒く、角で地面をひっかくは先程よりも荒々しいし、大きさも僅かだけれど二匹目の方が上だろう。


 そんな相手を前にロザリーが手を上に向ければ刀を運ぶ蝙蝠の群れが近寄って彼女に刀を渡す。

 さっき持っていたのとは別の刀だけれど、間違い無く妖刀の類だと此処からでも分かる負のオーラが鞘に収まった状態でも感じ取れた。


「ああ、其れともう一つ。彼女の持つ妖刀の……」




七巻半(やたらず)っ!? おい、どうしてその刀が此処に有るんだっ!?」


「わっ!?」


 聞こえて来た驚愕の声に思わず僕も驚かされる。

 だってラヴンズ王が手摺りを掴んで身を乗り出しながら酷く狼狽した感じだったんだ。







「何故って、この手の余興が有るだろうから借りたんだよ。良いじゃないか、刀ってのは使ってこそだろう?」


 ロザリーが父親の叫びを飄々と受け流しながら抜き放った瞬間、負のオーラに加えて途轍もない瘴気が刀身から放たれる。

 まるで毒ガスを出しているとされた殺生石、刃の先が僅かに触れた地面はその場所を中心に草が一瞬で枯れ果てた。




「……マオ・ニュ、あの二人がどうして揉めているのか分かるかい?」


「あの父娘、魔剣や妖刀のコレクターなのですが、方向性が違っているらしいですよ。ラヴンズ王は芸術品として後生大事に飾って眺めるのを趣味として、ロザリー姫はさっき言っていた通りに優れた武器を使うのが好きらしくって……」


「成る程。父親のコレクションを勝手に持ち出して使っているって所か」


 マオ・ニュとしては持っている妖刀の力を知りたかったって所だろうけれど……。



「良いじゃないか、父上。私のコレクションを今度貸し手あげるから……さっ!」


 それは一瞬、会場の殆どがロザリーが一瞬でマウンテンバイソンの背後に納刀した状態でワープしたみたいに見えたんだろう。

 勿論実際は凄く速く動いたんだけれども……。



 マウンテンバイソンが両断され、先程同様に崩れ落ちる音が……しなかった。



「腐ってる……」


 そう、マウンテンバイソンの死骸は完全に腐り、ベチャリという音が僅かに聞こえただけ。


 あの妖刀は一体……。





「妖刀・七巻半(やたらず)。大山を七と半巻きする程に巨大な百足のモンスターの毒牙から造られた刀だと聞いておりますわ」


「ネーシャ、知ってたんだ」


「……あのお二人、趣味の話になると口が軽くなって舌に油が回るので長時間の……本当に長い話にさえ耐えればペラペラ話してくれますわ」


 ……そうか、大変だったみたいだね。



 遠い目をするネーシャの姿を目にし、僕はそっと肩に手を置いた……。

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