帝国の恥部
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漫画乗せてるよ
これは臨海学校での会話、アマーラ帝国の文化についての事なんだけれど……。
「悪趣味? パーティーの会場が?」
「ええ、私も父のお供で一度だけ出た事があるのですが、事前に情報を得ておいて良かったと思いますわ。……そもそもあの部屋を考えた皇帝は、いえ、これ以上は国の恥なので止めておきましょう」
「悪趣味なら直ぐに止めても良いんじゃないの?」
「伝統とか色々有るのと、悪趣味な皇帝陛下は部屋を使えないようにするとか内装を変えたら呪いが掛かるようにしているとかで、今は何とか魔法を解除しようとしているそうですわ。……他国の者も招待する宴をしなくちゃならないとは本当に、本っ当に迷惑ですわね」
この時、恥だからと教えて貰えなかったけれど、招待されたからってメイドに尋ねてみれば゛初回の招待客は途中で知らせると会場には入れないのです“との事。
「さて、どんな内装なのやら……」
あっ、実の祖父だけれど話し掛け辛いから何度か来ているお祖父様には訊けなかったけれど、メイドに尋ねていた時の様子から悪趣味なのは本当なんだなって思ったよ。
……マオ・ニュがパンドラに下着がどんなのか質問していたのが気になるなあ。
レナがするなら分かる、僕に聞かせる目的で彼女はするだろうと確信を持って言えるから。
だけれどもマオ・ニュだ、そんな質問をするのを見たら小言でも殺気と同時に飛ばすタイプなのに余りにも不自然。
つまりは会場と関係が有るという事だろうけれど、下着が関係する会場ってどんなのだろう?
まさか服が透けて見えるとか……は流石に無いな、ちょっと期待しちゃうけれど。
そんな風に考えつつ扉を開ければ即座に理解、ネーシャやマオ・ニュの言葉の意味が分かったよ。
「成る程、こういう事か。確かに……」
悪趣味だ、その言葉を飲み込んだ僕の予想では、城の外観からして全面純金性でピカピカ輝いているものだった。
うん、確かにピカピカ輝いてはいる、それは当たっていたけれど、まさか……。
「全面鏡……いえ、鏡のように映り込むまで磨かれた大理石ですか」
「床を見ないのが帝国流のマナーだとも聞いていたけれど、そういう事だったか。お祖父様が微妙そうな顔をなさる訳だ」
「……言えばお前が参加出来なかったからな。レナは不参加故に伝えておいたが、知らない者は混乱している。ロノス、下を見ぬように。下手な誤解を招く……つけ込む隙を見せるな」
鏡同然の床をドレスで歩けばどうなるか、それは此処に来て初めて知ったらしい女性達がスカートを押さえて隅の方に集まっている事からも丸分かりだ。
そりゃ貴族の女性が下着を他人に見られる機会なんて普通は無いよ。
男性の視線を気にしてスカートを必死に押さえているし、この場で露骨に視線を床に向ける真似は誰もしていない。
不自然なまでに視線を上げてうっかり見てしまうのさえ防いでいたし、僕もしている。
首をちょっと痛めそうだな。
マオ・ニュはズボンだから気にする様子も無く、獣人への侮蔑の視線だって例の兵士みたいにあからさまには表にしないけれど、僅かに含まれているのは僕以上に本人が感じているだろう。
「おやおや、皆さんが私をチラチラ見て来るから照れちゃいますね」
こんな風に平然としているのは慣れなのか、それとも本当に気にしていないのか、彼女の表情からは読み取れない。
「ふぅ。皆さん、視線には気を付けている様子ですね」
「パンドラ、落ち着いているね」
パンドラ、君は普通にしているけれどまさか見られる事が快感になって……。
「レナさんに帝国ではドレスの下に履く物だと聞かされて"スパッツ”とやらを受け取って良かったです」
僕の視線から言いたい事を察したのか心外だとでも言いたそうな彼女はスカートを持ち上げて見せようとはしないけれど、見られても大丈夫だとは伝えて来る。
スパッツか……帝国の文化圏内のドレスはフワッとしたズボンみたいな奴だけれど、堂々と歩いている人達は周囲が知っていて用意したのかな?
まあ、スパッツにはスパッツの魅力があるし、こんな床で普通の下着にしろとか言わないよ?
言うのは馬鹿だ。
それでも言わせて貰えるとすれば色々台無しだから、全部こんな悪趣味な部屋にして、それを更に強制する魔法を掛けた当時の皇帝が悪い、結論!
「帝国の王侯貴族か他国民でも一度来れば知っていても入れるそうですが……いえ、止めておきましょう」
「そうですね。ロノス君もパンドラちゃんも無駄話は此処までです」
僕はこの部屋を用意した時代の皇帝が知らずに来て恥じらう女性の姿を見て楽しんでたのかと思い、パンドラも同意見だったみたいだけれど今は帝国だ、流石に皇帝を悪く言うのは駄目だろう。
例え子孫であり、建前上は皇族じゃないネーシャさえ悪趣味だと口にしてしまう程だとしても。
自分の代の後でも此処を使わせる為に随分と魔法を使っているみたいだけれど、何処までも無駄な事に金と人手をつぎ込んだなあ。
あっ、でも少し気持ちは分からなくない。
二人っきりの時とかなら誰か相手に同じ様なシチュエーションを試しても……おっと、雑念だな。
護衛らしい騎士と共に此方に向かって来る相手の姿に気を引き締める。
お見合いをした相手が数名、そしてネーシャを引き連れてやって来たカーリー皇帝だ。
「悪趣味な場に招待して済まぬな、ロノス殿」
「いえ、個性的な場所だと思いますよ、陛下」
ああ、大勢の前で悪趣味な場だと認める辺り、皇族の共通認識なのか。
それにしても先祖が作った部屋を悪趣味だと皇帝が認めるなんてな。
「まあ、後で余興を開くが、その際にロノス殿も良ければ後で時魔法を見せてくれれば嬉しい。ネーシャも大勢の前で未来の夫の活躍を見せたいだろうしな」
「ええ、私もロノス様のお力を大勢に見て頂きたいですわね」
……成る程、いい加減どうにかしたいって思っていた所だったんだな。
貧困国でもないのに、まさか皇帝が一切宴を行わない訳にも行かないのだろうし、僕の力は使って欲しいけれど国の恥だからどうにかするように依頼するのも立場的に、って所か。
「……」
僅かに視線をお祖父様に向ければ静かに頷く、どうせ正式な婚約を大勢の前で発表するんだし、力を見せるついでに今後付き合いの増えるであろう帝国の恥部を解決しろって所だね。
「了解しました、陛下。微力でも宴の余興の足しになるのなら力を発揮いたします」
「そうか。血が繋がらないとはいえ娘に良き夫が出来るのは喜ばしい。夫婦として仲良くやってくれ」
「ふふふ、陛下ったら。未だ私は学生、夫婦になるのは卒業後ですわ」
「ふむ、ならば子は数年先か」
「ええ、ロノス様次第ですわ」
実は血が繋がっているけれど、事故で足が不自由になったから凡庸な双子の妹を選んで姉の方を追い出したっていう親子の会話なんだよな、これ。
端から見れば微笑ましいのになぁ……。
双子が禁忌扱いとか血の繋がりを無かった事にするとか、聖王国とか日本での価値観からすれば思う所が有るんだけれど、彼女達は帝国の住人、僕が何か言う立場に無い。
後先考慮せずの感情論の発言をしまくっても好転するのはご都合主義な物語の中だけ、現実では状況を考えられない馬鹿だと評価されて周囲に迷惑を掛けるだけなんだから。
だからこの場では何も言わない事にしていたら、横から声が聞こえて来た。
「おや、この面白い部屋を普通にしちゃうのかい? 勿体無いとは思うよ、私は」
「姫様、皇帝陛下は彼との会話の途中ですよ」
「分かっているさ。でも、何も知らずにお気に入りのドレスで着飾り、見せない下着にまで気合いを入れて来たのに床が鏡みたいになっているからと驚き恥じらう子猫ちゃん達の姿が余りにも可愛らしいのが悪いのさ」
白いタキシードと胸元の赤いバラで着飾ったドロシーは肩を竦めながら語るけれど……状況を考えられない馬鹿のお守りの人は大変そうだなあ。
いや、それにパーティー会場にどうして刀を持ち込んでいるんだろう、彼女。
それに随分と禍々しい感じがするけれど……。
「所で彼女はどうしてパーティー会場でキグルミパジャマ?」
「アンノウンを信仰しているからね、彼女は」
ああ、成る程。
これは深く突っ込んだら駄目な奴だ。