人の振り見て我が振り直せ
漫画、きました!
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姫の居場所を知らないか、そんな事を初対面の相手、それも人ではなくモンスターに話し掛けられたらどうするか、そんなの警戒一択だ。
馬鹿っぽい? 見た目が間抜け? そんなの安心する理由にはなりはしない。
水着コートの露出狂や馬鹿みたいな連中でも神獣将なんだ、だから警戒したんだけれど、僕達の警戒を威嚇と取ったのか巨大犬は全身をビクッと跳ね上げたと思うと途端に涙目にまでなった。
……ジョロジョロと水音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。
「お、おびょぉおおおおおおおっ!? 拙者を殺す気で御座るかぁあああああっ!? 命だけは、命だけはお助けぇえええええええっ!!」
「……大丈夫ですね。掃除に秒は要りません」
力が抜けたし、マオ・ニュの言葉もあって一旦は警戒を解く。
まっ、他の客のペットだったら殺すのは不味いしね。
「申し遅れたで御座る。拙者の名はボタモチ、姫の忠実な家臣で御座る! ……それで、姫の居場所を知らないで御座る?」
窓越しに首を傾げながらそんな事を言って来るのは本当に不細工な巨大な犬、ボタモチだった。
………キナコのが一番好きだったな、僕は。
ギヌスの民の所に行けばぼた餅を出してくれるし、ちょっと今度行くのが楽しみになって来た。
「……家臣? 失礼ですけれど種族は?」
団子を真上からベシャッと潰したみたいな形の鼻や凄く垂れているけれどキラキラ光る瞳、顔の皮が少しダルダルな感じで全体的にはブルドック。
そしてデカい、声は可愛らしい、総合評価ブサ可愛い!
そんな相手が急に窓から話し掛けて来たんだし、マオ・ニュだって訝しげな顔を隠せないでいるんだけれど、僕だって目の前の間抜けな顔の犬を誰が配下にしているんだって話だよ。
迷子になっているみたいだし、窓から他国の相手に何処の姫かも言わず確かめずで話し掛ける馬鹿みたいだけれど……。
「拙者の種族? イヌ、イヌ……イヌガ……何とかで御座る!」
犬が……? そして自分の種族を忘れているのか、本格的に馬鹿なんじゃないか?
うーん、自信が有りそうだけれどこんなのを家臣にするとか、ペットの間違いじゃないの?
本人が家臣だと言い張っているし、敢えて言うのもどうかとは思うから僕は口にはしないけれど、多分この場の誰もが思っているんだろう。
「失礼ですが、家臣としてどの様な仕事をなさっているのですか? 今の貴方ではそう簡単に情報を渡して良いのか疑念が残りますのでお教え願います」
疑問に思う材料ばかりが出る中、情報を引き出すべくパンドラが動いた。
こんなのだけれども帝国なり他の国なりで姫と呼ばれる立場に仕えているのなら少しは情報を持っているだろう。
だから情報を引き出す為ではないって建前を持って尋ねたんだけれど、僕もボタモチがどんな仕事をしているのか気になる。
だってポチにも応用出来るかも知れないしさ。
「むっふっふっ! 拙者が姫より任されている仕事を教えて欲しいとな? 良いで御座ろう、どうせ所属を伝える必要は有るのだし、物のついでで御座るよ! 先ず、姫や陛下達が遠くに投げたボールを咥えて持って来るので御座る! 矢の回収みたいなもので御座るな」
「うんうん……うん?」
「他にはその場で伏せてクッションの代わりを務めたり、拙者も大好きな散歩のお供、差し出された手に前足を乗せたりで御座る!」
「……いや、それって」
”取って来い”や”お手”、犬の散歩とかじゃないのかな?
家臣と言うよりは……。
「そして拙者、何と役職持ちで御座る! 陛下も姫も拙者を撫で回すなど頻繁に報奨を受けるのだから並の地位ではないで御座るよ。寝る時だって主に姫の寝室で警護役として眠るで御座るからな」
ボタモチは勢い良く鼻息を出しながら自信たっぷりに話しているし、頭の中じゃ自分は家臣の中でも筆頭的な地位なんだろうね。
主と触れあう時間が長く、誉めて貰える回数も多い、其処だけ聞けば重宝されて側に控えさせられている忠臣何だろうけれど……。
「君の役職名って”ペット”や”飼い犬”じゃない?」
「何とっ!? よく分かったで御座るなっ!? そう、拙者は姫様にペットという大役を任せて頂いているので御座る。姫様からちゃんと”凄く重要な役目さ。君は私達一家の大切なペットだからね”と言われているし、ショタナイ殿からも陛下のペットである事が羨ましいと妬まれているで御座るよ」
「そーだね、ペットは凄く重要な役目だよね。飼い主に癒しと愛嬌を振りまくっていう代役は難しい仕事だし」
こうも得意そうに語られたら本当の事を教える気が無くなるよね、ペットは家臣じゃないって言えない。
ペットは家臣じゃなくって家族だよ、本来は。
「それで、その忠臣がどうして姫様とはぐれたのですか?」
「ううっ、それが馬車の中でお昼寝していたら姫様の姿は無く、置き手紙を寝ぼけて食べてしまったからどうすれば良いのか途方に暮れてしまって……」
「それで探しに来たと。……下手に動き回るよりも馬車で待っているべきですよ。ロノス君もそう思いますよね?」
「え? うん、そうだね。”待て”もペットの仕事の一つだし」
「むむぅ。拙者をペットだと見抜いた洞察力の持ち主の意見ならば正しいので御座ろう。では、此処でさらば! 後でお礼に大きい骨を持って来るで御座る!」
ボタモチは嬉しそうに尻尾を振りながら城門の方向に宙を踏みしめながら向かって行き、後に残った僕には余計な疲れが残った気分だ。
「取り敢えず得た情報はロザリー・フルゴールのペットは馬鹿だって事だね。喋るけれど凄い馬鹿」
ポチの爪の垢を飲ませる……のは勿体無い、可愛いけれど味方じゃないし。
……何か他人のペットを見ていたら自分のペットが恋しくなった。
僕もポチを連れて来れたら良かったのに。
宙を歩き人語を使う不思議な生物、イヌが……何とか。
あのボタモチ自体はそれ程驚異にはなりそうにないけれど、他にも独自の生物が居て戦闘に利用可能だとすれば注意の必要が有りそうだと間抜けと触れあって緩んだ空気を締め直す。
「ロノス君、宰相ショタナイがラヴンズ王のペット希望のヤバ目の人という事は忘れていませんね?」
「正直忘れたいけれど、他にもインパクトが強い人だったからわすれられそうにないや」
国によって文化や風習、民の考え方は違って来るけれど、宰相に選ばれる人材がアレなんだ、変人が数多い国だと認識していた方が良いのだろうね。
「しかし随分と甘やかされた感じのペットだったね。躾はちゃんとしないと駄目だよ。ペットは可愛いけれど、甘やかし過ぎは駄目だって」
「え? ロノス君、それってジョークですよね?」
「若様、鏡は其処に有りますよ?」
「え?」
「「え?」」
いや、どうしてそんな反応をするんだい? 二人共、変なの……。
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