再会?
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実は帝国に来るのは初めてだった僕はちょっと楽しみにしていたんだ。
砂漠の国って訳じゃ無いけれど、町並みは絵で見る限りはアラビアンナイト系の建物だし、特有の料理にだって興味があった。
聖王国では虫料理が普通だったけれどサソリは棲息していないから料理の種類は多くないけれど、アマーラ帝国では鳥肉と対して変わらない認識で料理も豊富、だから屋台巡りが出来ない今回の旅はちょっと残念かな?
王侯貴族のパーティーで出される様なご馳走も美味しいけれど、屋台や大衆食堂の料理だって美味しいし興味が引かれる。
食べ歩きなんて正式に領地を引き継いだら、それが建前だけの立場で実権を握られていたとしても気軽に出来やしないから、夏休み中に個人的な旅行とか行きたいな・・・・・・。
「若様、既に観光ガイドは手配し屋敷に送っています。今回は部屋で旅行の計画を練る暇は無いでしょうが、何とかか帰還後のスケジュールを調整しておきますので」
「パンドラ、もう手を回しているの? 凄いな……。流石だよ」
「おや、意外ですか? 私と若様は長年文通を続けていますし、ずっとお側で過ごせていなくても若様の事は理解していますからね。ええ、ずっと側に居なくても若様の喜ばれる事は理解しています」
「……」
そっと手が重ねられて笑みを向けられる。
頭は良いと思っていたけれど凄いな、パンドラは。
僕は旅行の予定が立てられそうだし旅行の予定を楽しみにするんだけれど、レナがちょっと無言で怖い。
これがマウント取りって奴なのか……。
こうして僕が少し気まずい思いをしている中、馬車は王城に到着した。
城門前では係りの兵士が入場の手続きをしていたんだけれど、さっきまで屋根の上で姿を消していたマオ・ニュは何時の間にか馬車の中に。
何時の間に入り込んだのか、其れは今更だよねと思っている間に兵士がやって来たから僕達は身分を証明するんだけれど……。
「クヴァイル家の方々ですね? 此方へ……どうぞ」
僕達が誰なのか聞いた時はちゃんと敬意が感じられたんだけれど、マオ・ニュの姿を見た途端に一瞬だけれど目に浮かんだのは嫌悪と侮蔑、お祖父様は何も言わないし、僕も此処で騒ぐのは得策じゃないから何も言わない……けれど、気に入らないのは気に入らない。
「駄目ですよ、ロノス君。ちょっと詰めが甘いんですから私に任せなさい」
何かやってやろうか、そんな風に魔力を高めようとした途端にマオ・ニュに軽く止められる。
確かに彼女の言うとおりだけれど、それでも僕は……。
「……獣人如きが馬車に乗りやがって。地べたで四つん這いにでもなっていろ」
あー、駄目だ。
なまじ強くなって五感も優れているから聞こえた呟き、流石に何もしないって選択肢は無い。
レナもパンドラも聞こえたのか眉をひそめるし、お祖父様は無反応でマオ・ニュはニコニコと動じていない。
本人が動かないのに僕が動くのは変なのかも知れないけれど、我慢しちゃ駄目な時はあるだろう!
「めっ、ですよ? ちょっと落ち着きなさい」
あの兵士の足下の時間を操作して転ばして、気が付かれる前に証拠を隠滅する、そんな風に考えていた事なんて気が付いていたんだろう、軽く窘める様に止められた途端に聞こえて来たのは例の兵士の悲鳴。
糞みたいな奴だと感じたんだけれど、其奴が鳥の糞の集中爆撃を受けていた。
……うわぁ。
周囲一体の鳥が集まったんじゃないかって位に空を無数に飛び交い、寸分違わない正確さで兵士に糞を降り注がせるんだけれど、当たっているのは見る限りじゃ鎧から出ている肌の部分にばかりだ。
あっ、転んで仰向けになった所で顔に集中砲火が・・・・・・おぇ、見ていて気分が悪くなった。
にしても、どれだけ調教と訓練を重ねればアレだけの事が出来るんだろう?
「マオ・ニュ、費用と効果が見合ってなくない?」
「あら? 私が何かしましたか? 別に魔法を使った訳でも調教した鳥を事前に放っていた訳でもありませんよ? ……只、私は今回御館様のパートナーとして出席している訳ですし、あの程度の駄犬に侮られるというのは御館様を侮るのと同じですから」
「その通りだが目立つ真似は止せ。あの程度に手間を掛ける価値があるのか? マオ・ニュ」
「はっ! 申し訳有りません」
お祖父様の静かな言葉にマオ・ニュは丁寧に頭を下げる。
うん、それで何をしたらあんな事に?
「だから私は何もしていませんよ? 疑いの目を向けるだなんてショックですね。そういう事で納得して欲しいのですが、敢えて言うならば不幸な事故。鳥に八つ当たりで送った殺気が偶々誘導するように迂回して届いて、あんな風に脱糞するようになった、それだけです」
「……うん、きっと偶然だし、下品な話題だから此処で終わろうか。それでマオ・ニュ、本当に大丈夫かい?」
「うふふふふ、ロノス君は本当に優しい子に育ってくれて嬉しいです。ええ、実力主義と自分達と大きく違う相手を根拠無く見下して安心する行為を混ぜている馬鹿共、そんな連中を気にするのなら老人子供無関係に殺せませんよ?」
「う、うん。あくまでお祖父様への侮辱でもあるから怒っただけなんだ。……所でレナスを物騒だってさっき言ったけれど、マオ・ニュの”死神”だって同じ位に物騒だよ?」
「……え~? 私はナイフを投げて瓦礫の隙間に隠れた子供を殺しますが、レナスは山の上から大岩を投げて町を瓦礫の山に変えますし、物騒さでは完敗だと思いますけれど、ロノス君ったらレナスの味方ばかりで意地悪ですよ。レナスが乳母なら私は名付け親なんですから」
「同じだと思うんだけどなあ。あっ、その名付けの理由だけれど知りたいな」
自分でも名付け親だって話題が不味いと思ったんだろう、マオ・ニュが”しまった”て顔をするけれど僕は見逃す気は無いよ。
だってマオ・ニュが慌てるなんて珍しいからね。
「あ、あの……」
ここぞとばかりに追求をする僕、マオ・ニュはお祖父様に視線で助けを求めるけれど知らん振り、お祖父様も理由を知っているみたいだけれど、これは”自己責任だ”って事なのかな?」
お祖父様が止めるのならば止まったけれど、止まらないのなら追求しよう。
教えてくれないならレナだって知っているし、話す他無いだろうから……。
「う、うぅ……あっ!」
追い詰めた、その瞬間に馬車が止まり、これ幸いと馬車から出るマオ・ニュ。
これはまたの機会か、此処まで来れば本人から聞き出せる・・・・・・と思ったのに馬車が止まったし、会話は一時中断か、出て来ないのも変に思われるし、知り合いがお待ちだ。
……あれ? ちょっと違和感が……気のせいかな?
服装は白のタキシードに赤い蝶ネクタイ、男装だけれど様になっているな。
吸血鬼に多い灰色をした髪を太い三つ編みにして背中に垂らした高身長、全体的にスラッとした感じの彼女は一瞬だけ僕西線を送るけれど直ぐに隣のネーシャの方を向いて話し掛ける。
その時、他の種族よりも鋭利で少し長い犬歯が姿を見せたけれど、最近は相手に噛みつくんじゃなくって注射器みたいなので抜いて病気とかの検査をしたのを飲むらしい。
一度血液由来の病気が爆発的な感染をしたらしいし、相手に怪我をさせない配慮だとか。
吸血鬼、その名前だけなら恐ろしい感じがするんだけれど、今は別に他の種族を家畜だと見下している訳でもなく、文明レベルだって他の国のを取り入れているから古い生活レベルを保っている訳でもない。
只、他の種族の血を取り入れないと栄養失調みたいな症状が出るのと妖精族みたいに特有の魔法が使えるだけさ。
ああ、国の名前は”ラヴンズ・フルコール”、国王もこの国名を名前にする所は変わっているね。
そんな吸血鬼、しかも招待客ならそれなりの地位だろうに睨みもしない。
うちの国とは仲が悪いから拍子抜けだけど、などまあ、共通の友好関係の相手を前にイザコザも起きないでしょ。
僕が近付くとネーシャは談笑していた彼女に断りを入れて立ち上がり、杖の先を滑らせてぐらついた。
「きゃっ!? ……あっ」
周りの人が支えようと手を伸ばすけれど先に彼女が転びそうになり、僕が正面から受け止めた。
危ない危ない、こんな時に加速できると助かるよ。
「大丈夫かい? ほら、ゆっくりと座って。……ネーシャ?」
正面から受け止めた僕にピッタリとくっつき、離れようともしない……初対面の彼女。
ネーシャじゃない、それだけは確実だ
「……ああ、成る程」
誰だか直ぐに分かったぞ……。




