現実逃避×2
気が付けば二千六百八十越えてました
ブクマ十人追加で二千七百ですね!
「此処には寄る価値が微塵もありませんので素通りで良いでしょう。汚物にまで堕ちた凡愚と、それに集る蠅の巣窟です。掃除に巻き込まれでもすれば私達にも帝国側にもうま味がありませんので」
朝食を食べてから出発したけれど、相変わらず揺れる馬車の屋根から天地逆転の姿勢で顔を出したマオ・ニュが指差したのは高い塀に囲まれたそれなりに大きい都市、言っている事の意味は離れても分かるキンキラリンの城が教えてくれた。
趣味の悪い城だけれど、確か皇帝の従兄弟がこの辺の支配者じゃなかったっけ?
馬車の揺れは街道が荒れているのを教えてくれたし、外から見える豪華な外観の建物と本来お金を掛けるべきなのに掛けていない所を見るとマオ・ニュが言うのも納得だよ。
「しかしネペンテス商会ね…‥こんな所で聞くだなんてさ」
「神獣とやらの将なのだ。寧ろ王国でのみ行動する理由は無い。無論、王国が一番動きやすいのであろうが」
「腐っていますからね、外も内も。今はナイア様が王妃になられて改革を押し進めてはいますが、それでも末端全てに手は届きません。何せ調べる者達全てを一新する訳にも行きませんし、何か理由を付けて少しずつ交換するしか無いですから」
「パンドラちゃんは王国出身ですからね。帝国も実力主義だと言ってはいるものの、現皇帝の以前は内輪でのなあなあっぷりが有りましたし、腐敗は何処でも起きて、其れを狙うのは何時でも居るから困ります」
まあ、だからこそ今や王家より力を付けたクヴァイル家の力を削ぐ気でいるんだけれどね、お祖父様は。
僕に複数の相手を娶らせる理由と共に昨夜の嫉妬から来た出来事に僅かに背筋がゾッとする。
うん、暫くは色仕掛けが一切意味をなさないね、多分だけれど……。
「さて、私は既に知られていますけれど……レナちゃん、ガンダーラに到着したら自分がレナスの娘だとは口にしないように。”武神”だの”鬼神”だの物騒な異名で呼ばれる彼女ですが、レナちゃんは只のメイドでしかないと思われますからね。面倒は避けましょう、鬱陶しいのが出ないように」
「ええ、今回私は若様や御館様のパートナーとして出席する訳でもありませんし、大人しく仕事モードで控えておきましょう。花嫁衣装ではありませんが角隠しで」
「ああ、帝国での獣人とかの扱いは……」
マオ・ニュは側頭部の角を、レナは角を出現させた際に生えている額の辺りを指先でコンコンと軽く叩きながら笑っているけれど、帝国内での獣人や鬼族の扱いは正直言って悪い。
ネーシャの時みたいに身内さえも足が不自由だからって切り捨ててしまう程なのに、身体能力がヒューマンよりも優れている獣人を格下だと扱う、矛盾してるよね?
「王国は妖精を小さく見栄えが良いからとペット扱いにしようとしましたが、アレは妖精の能力を正確に認識していなかったからですが、帝国の場合は生まれ付き優れている相手だと認めたく無いのでしょう。故に下等扱いで安心しようとしているのですよ。現皇帝のカーリー様はどうにか獣人との和平を考えてギヌスの民に接触していますが……」
「怨みも恩も忘れないって部族だからね」
だからこそ僕がどう付き合って行くのかが重要なんだよなあ。
お祖母様がナギ族の前族長だったから身内みたいに扱ってくれるけれど、それに甘えて蔑ろにしていたら見限られるだろうし。
「吸血鬼族か。お祖父様、今後の関係はどうします?」
「向こうがどう出るかだな。流石に建国時からの敵対関係だ。クヴァイル家の力が強いとしても、勝手に進めればそれこそ王家の権威が下がってしまうからな。パーティーで会った時、お前が取るべきと思える対応をしろ」
「僕に任せるって事ですね。陛下に謁見する予定も有りますし、今回は挨拶程度で済ませますよ。向こうの出方次第ですけれども」
吸血鬼族と聖王国との険悪な仲の理由は初代聖女と……初代魔女の因縁にまで遡るけれども僕の周りの人は数百年前に個人がやらかした事で対立するのに辟易しているけれど、ギヌスの民や妖精族と違って友好的にしてもメリットはそれ程でも無いし、今のままでも行動範囲が離れているから問題無い。
偶に吸血鬼族が聖王国で犯罪者になっても公平な裁きを受けさせているし、本当に今回のパーティーで軽く顔を合わせる程度が妥当だと、この時の僕は思っていたんだ。
いやいや、まさか吸血鬼族にあんなのが居るなんて思わないさ、実際にこの時点の僕は考えもしなかったんだ。
変態にあったばかりだし、変なのがそこら辺りにゴロゴロしているって思いたくなかっただけかも知れないけれど。
「此処がガンダーラ……さっきの都市とは似ているようで全然違うな」
ろくに整備されていなかった街道から一変、ちゃんと資金を投入しているのか綺麗に舗装され、所々で詰め所や砦らしき建物を見掛ける事数度、ヘルホースに驚かれる事はあっても特に問題無く目的地にたどり着いた先で僕は街並みを眺めていた。
黄金の都、そんな風に呼ばれるだけあって城は品性を失わない程度に輝いているし、行き交う人の顔にも活気がある。
街の中だからかアレキサンダー達も速度を落として馬車用の道を進むけれど、パーティーに参加するって仕事じゃなかったら馬車から降りて見物しながら歩きたい所だ。
まあ、今回は馬車の中から眺めるだけにしておこうか。
「吸血鬼族の皆様は既に到着しているのですね。しかし一定範囲だけを夜に変えるマジックアイテム……”夜の帳”でしたか? 外から推測した範囲を更に広げられるなら宴の趣向に使えそうですね」
「蛍とか花火とかかい? 吸血鬼族特有の道具じゃなくって王家秘蔵のアイテムだから手に入れるのは難しいけれど、面白そうではあるね」
城の端の方では来る途中に見た一部だけが夜になっている光景が見えるし、他にも何かしらの使い道が有りそうだから確かに興味深いけれど…‥。
「それにしても…‥」
凄いなと思うのは店らしき建物の看板、彼方此方で見えるのは同じマーク、ネーシャの今の実家であるヴァティ商会の物だ。
国でも有数の規模とは知っていたけれども実際に目にすると驚いてしまうな。
やっぱりネーシャは本当に凄い所のお嬢様だったんだな。
足を理由に次期皇帝の座を双子の妹に取られたって話だったけれど、お嬢様としての仕事はちゃんとやれていたし、養子に出した先が下手な貴族じゃなくって大商会だった皇帝の采配は正解だったみたいだね。
親だから理解したのか、皇帝としての能力かは別としてさ。
「……それにしても残りのお見合いの中止はネーシャ様の希望が強かったと耳にしましたが随分と臨海学校で仲良くなられたのですね。色々とあったみたいですし、色々と…‥」
うっ、レナったら完全に見抜いているな、これは。
そう、今回の招待は向こうの都合を押し付けたお詫びもかねているんだけれど、其れを通すのにヴァティ商会は幾ら使ったのやら。
そして本当に色々あったよ、本当に…‥。
「最近は私とはあまり出掛けませんし、乳母兄弟としては寂しいものです。臨海学校もツクシに先を越されましたし。……機会があれば色々と仲良くして頂きたいですね」
「じゃあ、リアスも連れて遊びに行こうか」
「おや、お分かりになっている癖に。ええ、ですが姫様と若様と私の三人での行楽は悪くありませんし、下調べはお任せ下さいませ」
ヴァティ商会が関係するらしい店が多い通りを抜ければ次はバザーみたいに露天が軒を連ねていて、前世でお姉ちゃんに連れられて行ったお祭りのバザーを思い出す。
欲しいゲームが安く売っていないか探したり、見つかったけれど前世のリアスが欲しい人形を買うには僕のお小遣いも合わせなくっちゃ買えないから諦めたっけ。
普段なら臨時のお小遣いをコッソリくれるお姉ちゃんも、欲しいゲーム(魔女の楽園)を買ったばかりだったりでお小遣いがピンチだったから助けてくれなかったけれど、あの子が喜んだから構わなかったよ。
それに結局友達が飽きて貸してくれたから、妹の笑顔が見れた分得だったよね。
つまり妹の為に我慢するのを損だと思った事は前世も今も一度も無い、それだけリアスは可愛いって事さ。
「おや、姫様の事を考えていますね。レナさんの誘惑は放置して」
「おや、卑猥な疑いはお止め下さいませんか? 私は遊びに誘っただけですよ?」
「……どうだか」
……さて、到着するまでリアスの事だけを考えていようか。
両側は気にしない気にしない~。