閑話 その頃のゴリ……聖女
目指しますブクマ千(残り四十) 評価百人(残り8)
もう記念漫画を用意しちゃおうか(気が早い)
私は……前世の私は甘えさせて貰って育ったってのは分かっているわ。
今の私と同じ位の年頃のお姉ちゃんは仕事で留守がちだった両親に代わって幼いお兄ちゃんと私のお世話をしてくれていたし、お兄ちゃんだって私と二歳しか変わらないのにお姉ちゃんにベッタリ甘えるよりも私に甘えさせてくれる事を優先してくれていたもの。
だから前世の記憶が戻った時、貴族として守らなくっちゃならない物が多いし、前世みたいに甘えさせては貰えないって分かっちゃったから悲しくって寂しかった。
でも、お兄ちゃんは前世のお兄ちゃんでもあって、今も私が甘えて良い相手。
今も前もお兄ちゃんはお兄ちゃん、私を守ってくれるから、私だってお兄ちゃんの役に……。
だから聖女の再来とか言われて笑い転げそうになったけれど、受け入れて頑張っているわ。
いや、本当に有り得ないから。
私が聖女の再来って、目玉が水饅頭なのかって話じゃない?
歴史有る(らしい)神殿に集まった大勢の信者達、皆一同に祈りを捧げ、祭壇の上に立つ私は手を組んで祈りを捧げる格好をしながら微笑む。
モンスターや賊との戦いで傷付いた兵士を中心に傷付いた人達、回復魔法だって属性によって得意不得意が有るし、回復アイテムだって安くはない。
まあ、だからこそ聖女の力が有り難いって話なのよね~。
「皆様、ご安心下さい。神より授かった力によって祝福が舞い降りるでしょう」
目を閉じ、精一杯の演技をしながら微笑んだら空から淡い光の粒が雪みたいに降り注ぎ集まった人達を包み込む。
聞こえて来たのは神に祈ったり私に感謝する声、悪い気はしないんだけどね。
……あー、疲れた。
今日は(面倒臭い)聖女のお仕事、清廉潔白な聖女として振る舞う日、要するに私が凄く疲れる日なのよ。
ゴテゴテした法衣を着て丁寧な口調、動きだって大股でドタバタ動いちゃ駄目なんだし……はあ。
三日間殴り合いが出来る自信はあるけれど、聖女の仕事は精神的な疲れが来ちゃうのよ
如何にも聖女様って感じの大人しい笑みとか喋り方とか、演技力が必須だもの。
気を抜く暇も無いし、敵の群れに飛び込んでハルバート振り回して暴れろって方が百倍マシよね。
「聖女様、次は広場で聖歌の予定です」
与えられた個室でホッと一息、果実水をググッと一気飲み、コップをテーブルに叩き付ける。
聖女様の時は食事だって上品にしなくちゃならないし……いや、一応屋敷でもちゃんとしないと五月蠅いのよね。
法衣の襟を緩めて手で扇ぐけれど蒸れるし最悪よ。
あー、何時もの服が着たーい。
そんな私に容赦ないのねチェルシー。
て言うか聖女様って呼ぶの本当に勘弁して欲しいのよ、吹き出しそうになるもの。
尚、私が聖女だって事に笑いを堪えて居るのはチェルシーも同じである。
取り巻きの一人である大切な友人は私の苦労が分かっているってのに分厚い予定表を見せて来るし、気を抜きすぎだって目で訴えてくるんだから、もう!
次は何って?
聖歌? スイカ割りの間違いじゃなくって?
「うげっ!」
思わず出た声、すかさず睨まれる。
「ほら、口調口調」
「聖歌か。……聖歌かぁ」
「露骨に嫌な顔をしますね」
「だって……」
あの小難しい文章をトロ臭い曲に乗せて歌う奴でしょ? 私が歌う予定の奴って。
何て言うか、信仰もしていない相手に捧げる物だし、ぶっちゃけ授業で習ったけれど半分も意味を理解していないのに、歌った所で受け取った神は困るんじゃないの?
寧ろ歌ったからって届くのか疑問だったし、今度お姉ちゃんが会いに来たら教えて貰おうと思いつつ口パクで誤魔化せないか考える。
「スイカを食べるに変更は可能かしら?」
種を物凄く飛ばせるのよ、私。
「それを聞いて姫様の頭の中を交換したい気分です」
実の所、歌詞ってうろ覚えなのよ。
前回、直前まで練習する筈が寝ちゃってたから困った困った。
「……はあ。その表情からして用意して正解でした」
「スイカ?」
「……」
それを知っているチェルシーが差し出したのは五枚に渡って細かい文字で書かれた歌詞カード、この時点でバックレて良いかと思っちゃうわ。
「ほら、ちゃんと歌を練習しておいて下さいね? 前回はカンペで誤魔化せましたけれど、今度は流石に無理だと思うので」
呆れ顔のチェルシーだけど、前回は観客に見えないようにしながら巨大な紙に歌詞を書いて見せてくれたのは本当に助かったわよね。
だから今回は駄目だって言われても困るから励ますわ!
「どうして其処で諦めちゃうのよ。頑張りなさいよ、チェルシー!」
「姫様こそ歌詞を忘れないように頑張って下さい」
「うへぇ……」
机の上に叩きつける感じで差し出された歌詞を読みながら口ずさむけど、何だか眠くなって…‥。
「寝ない!」
「はっ!?」
あーもー! 聖女って本当に面倒じゃないの、歴代の聖女はよくやって来れたと思うわ。
「しかし聖歌って少し練習するだけで眠くなるし、子守歌に良いんじゃないの?」
「そういうのは恐らく姫様だけかと……」
私の言葉に肩を落とすチェルシー、その嘆きの声はノックもせずに足で乱暴に開け放たれた扉の音でかき消されたわ。
「レナス!」
「レナス様!?」
「よっ! 近くで用事を終わらせたから顔を見に来たよ。チェルシー、その馬鹿が何かやったら遠慮無しにぶっ叩いて構わないよ!」
「そうですね。偶にはそうしてみます」
ふふんっ! 私は頑丈だからチェルシーのヘナチョコパンチじゃ効かないもんねー!
「殴るのは良いけれど、拳を痛めないようにしなさいよ? まあ、後で私が殴り方を教えてあげるとして、用事が終わったって事は暇なのね? やったー!」
普段は忙しいレナスに存分に甘えるチャンスだとばかりに私はレナスに正面から抱き付いた。
この胸が脂肪よりも胸筋の割合が多い感触が癒されるのよね。
レナなんて娘なのに脂肪が多いんだもの、ふーんだ!
「ねぇねぇ、レナス! 耳掃除して、耳掃除」
「姫様、それならば私がしますよ?」
「レナスが良いのー! それかお兄様!」
「ったく、甘ったれだねぇ。ちゃんと練習するかい?」
「うん! レナスが付き合ってくれるなら頑張って聖歌の練習をするわ! だから……ね?」
私が上目遣いで顔を見れば頭をワシャワシャと撫でられて、そのままベッドの上でレナスに膝枕をして貰う。
あー、その辺! その辺が気持ち良いの。
レナスに膝枕をして貰い、小さい頃と同じみたいに甘える、これは凄く幸せな時間よね。
……私って甘えられる相手がお兄ちゃんとチェルシーとレナとレナスしか居ないからついつい寄り掛かっちゃうのよ。
だから聖女の仕事がどれだけ面倒で嫌でむず痒く感じても投げ出せない。
私に甘えさせてくれる人達、特にお兄ちゃんの力になりたいんだもの。
「お兄様は今頃何をしているのかしら? 今回の仕事が終わったら遊びに行きたいわね。旅行とかどうかしら?」
アリアとかも誘ってみたいわ、シロノの参加は断固拒否するけれど。
そうそう、アリアといえば例のドリルと何か相談しているのを臨海学校の帰り支度の最中に見たけれど……。
「ねぇ、レナス。聖歌は頑張るから今晩は沢山お喋りしましょ。それと久し振りにレナスの料理が食べたいわ」
さーて、私は私のすべき事を頑張るわよー。
お兄ちゃんに報告して誉めて貰うんだから!
「あっ、聖歌の後に夕食会を挟み教典の朗読会がありますので寝入らないで下さいね? 寝たら足を踏んで起こすのも大変なんですよ、寝たのも踏んだのも隠さなくちゃいけないので」
「が、頑張る……」
どうしよう、チェルシーの目がマジだし逃げたくなっちゃった。
仮病とか……医者呼ばれるだけね。




