魔王蹂躙
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速っ……拙っ……死……。
眼前に迫り来る槍の切っ先に私の思考は急加速、時の流れを操っての状態と合わさって明確な死のイメージを感じ取りながらも何をすべきなのか判断する事が出来た。
まあ、何て事はない、槍が脅威ならば槍を破壊してしまえば良いだけですよね。
槍に意識を集中、掛かった時間は0.06秒、それだけあれば槍の時間を急速に進めて朽ちて消え去るまで進めるのは可能でした。
神殺し殺しが私の魔法の邪魔をしようが、時の力を与えられて生まれた人間と、時の女神によって創造された私とでは出力が大きく変わる。
……いえ、認めましょう。
彼、潜在能力は私に匹敵、もしくはそれ以上、されど女神に力を与えられても潜在能力を解放しきった訳では無い。
「……ふっ」
私に到達するまで残り十センチ程、槍の崩壊は既に始まり私には届くはずもないと思えば笑いが出る。
あの一撃には驚かされましたが……既に受けた傷は戻しているので存在しません。
そして武器を失った今、武器を持っている私に勝てる筈が……なぁっ!?
槍が半壊した瞬間、魔力を込めて発動寸前で抑えていたらしい魔法が放たれ空中で槍を押し出す。
崩壊が終わる前に私に迫る槍はバラバラになった破片によって面積が広がり、熱せられた破片が私の眼前に襲い掛かった。
「ぐぁっ!?」
目をやられては不味い、そう判断した私が腕を交差させて顔面を庇えば腕や隙間から顔面に突き刺さる熱せられた金属片。
粉末状になり直ぐに消え去るも苦痛は残り、その苦痛を消し去ろうとした私の脇腹に老人の爪先が突き刺さる。
これは比喩ではなく、金属が仕込んであるが鋭利ではない靴の先端が勢いの強さによって皮を突き破り肉に食い込んでいた。
衝撃は着弾面から反対側に突き抜け、砕けた骨の破片が内臓に次々に突き刺さる痛みに武器を手放しそうになる。
「”ヘルファイヤ”」
衝撃が完全に伝わりきって私の足が地面から離れる直前、肉に食い込んだ靴の先端から灼熱の蒼焔が迸る。
蹴りの衝撃に炎の勢いが更に加わって私の体が木々を薙ぎ倒しながら飛んで行き、靴の先端が触れた部分を中心に骨の髄まで炭化するのを感じる中、私は逃げ出したかった。
もう良い、十分頑張ったから背を向けて逃げ出しても構わないのだと、ノクス様とてそれを非難はなさらぬと。
……いや、駄目ですね。
人間を殺せと言う存在意義、魂の根幹に存在するその感情は消えはしないのですから。
何よりも私にその命令を下したあの方は私になら可能だと思って命じたのでしょう。
それなのに圧倒されたまま負けを認めて逃げ出す?
「……有り得ませんね」
体の七割が黒く焦げた炭になり、木を薙ぎ倒しながら飛んで行く最中に腕が砕けたとしても時間を戻してしまえば良いのです。
私ならば魔力の消耗すら時間を戻し、体力も魔力も瞬時に万全の状態を保てる。
なら、私が負けを認めなければ負ける道理が存在しない。
「覚悟が決まったか。技術も能力もあるが経験が皆無、その様に妙な力の持ち主であったが……」
「ええ、生まれれ直ぐに封印されましたので、それが明確な弱点です。ですが御老人、貴方の御陰で私は更に一歩進む事が出来ました。……お名前をお聞きしても宜しいですか?」
最初は森の番人として、次は最初に与えられた命令の為、その両方で私は自らが勝った場合のみ考え困っていました。
その実際は手も足も出ず、命を奪う事ではなく奪われる事によってノクス様を傷付ける所だったのです。
言われた通り、私は振るう為の力と技術は持っていても、それは生まれつきの物、挫折も敗北も苦戦も体験していない私ですが、この戦いを乗り越えれば更に成長出来るのだと確信している。
「……ゼース・クヴァイルだ」
「そうですか。では、ゼース殿。お命頂きます」
静かに名乗る彼に向かい人外の全力で太刀を振るえば発生するのは風の刃、それを更に加速させてゼース殿に向かわせる。
さあ、どの様な対処を……真っ直ぐ突っ込んで来ただと!?
次々に放つ風の刃に対し、ゼース殿は一切怯まず正面から此方に向かい、風の刃は真上に逸れて当たりはしない。
「まさか風を操っている? いや、違う。まさかそんな……」
風が触れる寸前に青く光るゼース殿の手の平。
私が時を操り消しされない一瞬、本当に一瞬だけ高密度の炎を出して上昇気流を発生させているんだ!
あの一瞬で、しかも連続で神業めいたコントロールを行い、臆した様子も見られはしないのですから、あれだけの領域に足を踏み入れるにはどれだけの努力をすれば良いのか見当も付かない。
「ここは一旦姑息な手段をば……」
自らの周囲の光、風の流れ、地面の状態、その全ての時間を操って完全に姿を消す。
こうなれば五感のどれを使っても私を見つける事は不可能。
さて、一旦体制を整え…整えて……あれ? こっちを見てません?
これ、かなり集中力がいるから何も出来ないから、見破られたら意味が無いのですが、矢っ張り目で追われている気が……。
「まさか直感……? そんな無茶苦茶な……」
こうなれば正面から切りかかる!
「覚悟は決めたが、それだけでは私には勝てぬ。ロノスも、貴様も……」
振り下ろした刃は真横に振るった拳で叩き折られ、咄嗟に後ろに飛ぼうとするも足を踏まれその場に縫いつけられる。
肋骨の隙間を狙って叩き込まれる手刀は私の肺の中の空気を押し出し、鳩尾への拳によって再生させた内臓が潰れるのを感じ取り、顔面に叩き込まれた拳によって歯がへし折れた口の中に突っ込まれる指。
「”ヘルファイヤ”。”ヘルファイヤ”。”ヘルファイヤ”。”ヘルファイヤ”。”ヘルファイヤ”……”ヘルファイヤ”」
口の中から全身を駆け巡る灼熱、時間を戻しても戻しても間に合わず私の全身は炭であり続け、胸倉を掴まれたかと思うと真上に向かって放り投げられる。
再生する時間が出来たと空中で万全の状態に戻る中、目を再生させ視界が戻ると視界に入ったのは私の爪が変化した大太刀の切っ先。
空気を停止させて壁に……いや、間に合わないでしょう。
眉間に突き刺さり後頭部まで貫通する刃、そのまま仰向けに地面に落ちれば私は自らの刃によって地面に縫い付けられていました。
「……はははっ、流石に降参ですね。グゥの音も出ませんよ」
「その状態で生きているとは驚きだな」
笑いながら負けを認める私を驚いた様子もなく見下ろすゼース殿の腕には森全体を焼き払えるだけの高密度の魔力。
降参しなければアレで私を焼き続けていましたね。
意識だって激痛で途切れていたでしょうし……流石に精神が壊れれば自分で戻せませんよ。
「じゃあ、これ抜いて頂けますか? 痛いので。凄く凄く痛いので」
「そうか。良いだろう」
あっ、ちょっ、そんな乱暴に……あばばばばばばばばっ!?