蹂躙疾走
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森の中、計十二個の蹄が蹂躙する、踏破する、踏み荒らす、どれだけの大木も悪路も悪路も陸の覇者であるヘルホース三頭の前では鎧袖一触、一切の問題も無く突き進む。
人間の足が入っていない大木が深く生い茂った森の中、どの様な悪路であろうとも平地同然に走り抜け、立ちふさがる大木も岩も正面からの突撃で完全粉砕、これって全部身体能力のみでやっているんだから恐ろしい。
……リアスとどっちが上だろう、多分今やってる事ならあの子でも可能だろうし。
とまあ、ヘルホースは一切の問題無く走り抜けている、ヘルホースは、だけれども。
「きゃあっ!」
正面からなぎ倒されて地面に転がった大木を踏みつけた車輪が大きく跳ね、パンドラがソファーからお尻を離した状態で僕にしがみつく。
彼女は僕より背が高い上に跳ね上げられた状態で抱き付いたからスレンダーな全身に対して唯一脂肪が集まっている胸が僕の顔に触れる。
柔らかい双丘に頭を挟まれて正直良い気分だけれども、お祖父様の前だから流石に表情は変えない、内心は見抜かれて居るだろうけれど、表情を変えていないからか指摘はされない。
まあ、だらしない顔をしていたら”愚か者が。貴様は家名を汚す気か?”と淡々と告げられるし、命を狙われる可能性が上がっただろうね。
祖父と許嫁と乳母兄弟との旅って文字に起こしたら楽しそうなのに、全然安らげないし楽しくない。
「パンドラさん、落ち着きなさい。この程度で慌ててどうします」
一方、お祖父様と僕とレナはこの程度の揺れには動じず、お祖父様が居なければ慌てた振りをして密着したであろうレナは来客用の顔で窘めるだけ。
流石お祖父様、色ボケ淫乱メイドを有能なクール系メイドに変貌させるだなんて。
「若様、パンドラさんがお怪我をなさらぬように支えて差し上げては?」
「うん、そうだね。お祖父様、構いませんか?」
「許可は要らん」
「じゃあ、腰に手を回すね」
「は、はい」
お祖父様の声は一切此方への関心を感じさせないし、実際に問われたから答えただけだろう。
これだけ揺れているのに一切の淀みなく書類を読み続けて僕達を一瞥もしないし、寧ろ答えてくれただけ気を使ってくれたとすら思えて来た。
あれ? お祖父様の中で僕の価値が少しは上がっている?
前までは従うしかないのが互いに分かっていたから殆ど事務的な対応だけで、答える必要の無い質問には答えもしなかったのに。
ちょっと戸惑いながらもパンドラの腰に手を回して抱き寄せて支えようとするけれど、丁度のタイミングで窪んだ地面に車輪が入ったのか大きく揺れて僕の手は彼女のお尻に触れてしまった。
……あれ? 妙な手触り……あっ。
この時、僕は咄嗟に表情に出さなかった自分を誉めてやりたいし、パンドラだって気が付いたのか僕にしがみつく形で顔を押し当てて表情を隠す。
多分今の彼女は凄くパニックと羞恥が入り混じった顔になっているんだろうなあ。
えっと、お祖父様の急なご帰還のせいで途中で終わった情事の途中、僕は彼女にある悪戯をした。
一枚一枚脱がされて行くのだと恥ずかしがりながらも覚悟を決めた瞬間を狙って虐めようと思って……ショーツの時間を高速で進めて塵も残さない状態にしちゃったんだ。
つまり今の彼女はロングスカートの下はノーパン、ブラは残しているけれど、上だけ着ているとかってエッチじゃない?
とまあ、Mが入ってる彼女の性癖に合わせる形で僕も楽しもうとしたんだけれど、今の状態でノーパンはなあ。
お祖父様に何を言われる事やら……。
怒鳴りつけて拳骨の一つでも落とすようなレナスの対応なら耐えれば良いだけ、落ち度は僕にあるし。
でも、お祖父様の方は淡々と切り捨てる確率を高めるだけだし、実の孫だろうと百年に一人の聖女だろうとプラスマイナスでマイナスになるなら躊躇無く排除しに来る人だ。
だから絶対にバレないようにしないと!
……あと、真面目で優秀な美女がノーパンなのを隠そうとするってシチュエーションは良いと思う。
いや、本人には悪いんだけれど、執着心に耐えてると思うと……うん。
何かパンドラと一緒だと性癖を歪められそうだけれど、犯そうとする割には発情期には敏感過ぎて弱々になるシロノとか乱交になっちゃう夜鶴とか他にも歪めてくるのが多いんだよな、僕の周囲。
ははっ、実は乙女ゲームじゃなくってエロいゲームに似た世界だったりして……。
お祖父様の手前、お尻を撫でるのは憚られるから腰の辺りをしっかりと支えるけれど、大きく跳ねて手が下に行きそうな度にパンドラがビクってなるのも、実はこの状況に少し興奮しているのも密着しているから伝わって来るんだ。
お祖父様が居てのこの状況だけれど、お祖父様が居なければ言葉で弄くって楽しめたと思うと惜しい。
後で言おうかな……。
「しかし旦那様、何故旦那様自らがこの森に入られたので?」
邪な方向に向かっていた思考を遮る冷静な声、レナの問い掛けにお祖父様は書類の束を捲る手を止めて此方に視線を送る。
確かにお祖父様にしては軽率だと思うけれど、同時に報告に上げた神獣の戦闘力や僕と同じ時属性の可能性、後は今まで妙な報告が上がっていないから別の場所から移って来たか封印が解けたばかりの可能性。
つまりは将来不明で危険かも知れない奴が別の場所……国境を抜けるなら良いけれど聖王国の中央に向かわれても困るし、実力を考えても……。
「人材、時間、費用の損害を抑える為だ。詳細はロノスから聞け」
僕がちゃんと分かっているのが分かっているお祖父様はそれだけ告げると書類に再び視線を戻す。
レナもそれ以上は聞く気が無いみたいだし、僕から説明を……っ!
咄嗟に馬車の時間を操作、加工前に戻され始めた車輪の時を進めて相殺する。
「お……」
お祖父様に馬車を止めてくれるように頼むより前、合図も無しに馬車が停止、反動で倒れそうになるけれど耐えた。
「ひゃっ!?」
思わずパンドラのお尻は触っちゃったけど、わざとじゃないからね?
「それにしても合図もしていないのに止まるって事は……」
「この程度で驚くな。引く馬車の異変を感じ取って最適な行動を取ったまでだ。お前も言葉が通じるからと指示無しで動く訓練をペットにさせないのは怠慢であるぞ」
「……うっ」
何故止まったのかを聞こうとしたら僕を叱りつつお祖父様は立ち上がり、手の平に収まる大きさの金属片を見せて扉を開いて飛び出した。
老化を止めてはいるけれど、それでも結構な年齢なのに元気な人だな……。
そんな風に分かりきった事に驚きつつも仕事はしなくちゃとばかりにお祖父様が持った金属片の時間を戻せば森の中でも振り回しやすい短槍が姿を見せる。
何をしろとは言われてないけれど、僕にだって何を求められて居るのかは分かるさ。
「……にしても」
仕掛けて来たんだから向こうはこっちを認識しているんだろうし、友好的ではないだろう、例え此方が森の木を薙ぎ倒し、来た方向を見れば一直線の荒れ道が出来上がっているとしても。
これ、森の番人的な存在が居たら絶対怒る……獣の生態が変わっても困るから直しておこうっと。
僕達に続いて手斧を持ったレナと杖を構えたパンドラが馬車から出て来る中、アレキサンダーが森の一角に視線を向けて軽く鼻を鳴らす。
「ああ、ノクス様に似た気配がすると思ったら時属性の使い手がやって来たのか。元に戻したから森を荒らしたのは……いや、それって”返したから泥棒しても許される”みたいな感じなのか? 初めてのケースだから困ったぞ」
一斉に視線を向けた方向から聞こえる静かな中性的な声。
まるでその場所に映像を流していたのを消したかのようにアルビノの少年らしき……神獣が腕組みをしつつ首を傾げていた。
尚、全裸である