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普通は逆です

 ……思えば僕にとってこの世界は何処か現実では無かったのかも知れない。

 仮にロノスとしての十年分の記憶が曖昧で今みたいに混ざった状態で無いのならば更にゲーム感覚で生きていただろうし、今だって付き合いの深い相手以外はゲームの知識ってフィルターが掛かっている。


 心の何処かでは”ごっこ遊び”をしていて、結局は自分に都合の良い展開が待っていると慢心していたんだろう。

 でも、隠し通せると思っていた事を叔母上様にあっさりと見抜かれ、前世の自分と比べて格段に高いスペックによって覚えた万能感が幻だったって改めて思い知らされた。


 ……やれやれ、お祖父様はリアスを扱いやすい様にしていたけれど、自覚が無いだけで僕もだったか。

 お釈迦様の手の中に居た孫悟空の気分だよ。



 ゲームに登場した人との交流が有ればもっと早く気が付けた筈だし、その交流で僕はゲームとこの世界を切り離して見ていると思っていた。

 いや、思い込んで居たんだよ

 ロノスだけの時に出会って交流を深めた相手じゃ中途半端に認識して居るだなんて気が付きもせずにね。


 でもさ、今みたいに”ゲームのキャラ”としか認識していなかったアリアさんと出会い、交流して……惹かれていた。

 これが恋心なのかどうかは分からない。


「僕の周囲、変な子ばっかりだからなぁ……」


 リアスは前世からずっと兄妹だから除外。


 チェルシーも友達の婚約者だし、一切そういう目で見ていない。


 レナ……は冗談で色々と誘惑するけれど乳母姉だし、心情的に殆ど身内だし。

 ……まあ、完全に姉として見ている訳じゃないからドキッとはするけどさ。

 例えるなら家が隣のお姉さんとか年上の従姉的な?


 レキア……うん、僕を嫌ってるから除外。

 僕は別に嫌ってるよりは少し苦手って位だけどさ。

 友達程度にはなれたら良いけどね。


 お祖父様が選んだ僕の婚約者は……手紙の遣り取りはしているけれど滅多に会わないし、家の政務を取り仕切る権限を与える為の婚約だしさ。

 いや、嫌いではないけれどレキアとは別のベクトルで苦手。

 でも僕には必要な存在だし、お祖父様達が徹底的に教育したエリートだから信頼出来る相手だ。


 後は一度貞操を狙って来たあの子だけれど、軽いトラウマなのに政略結婚の相手候補だし……うっ、トラウマが蘇りそうだ。

 根は悪い子じゃないんだけれど物の考え方が部族特有の物だし、彼女の部族って聖王国にとって重要な存在な上に、お祖母様の件も有るし。

 それに素直に好意を向けられてるからな……。


「交流らしい交流をしているのはこの程度か。残りは家の代表としての交流だし、個人的感情はそれ程強くない」


 兎に角、僕がアリアさんに肩入れする理由は何となく分かった。

 これで僕が一人としか結婚出来ないとか、婚約者が居るから他の女性との交流を慎むべき立場だったら諦められるんだけれど……お祖父様は国の統制の為に大きくなったクヴァイル家の力を、そろそろ殺ぎたがっているし、寧ろ大勢優秀な子を引き込んで国の利益にしつつも領地を分譲させたがっている。


「いや、でもなぁ……」


 この世界の貴族じゃ多妻なんてその辺に居るけれど、恋もした事の無い僕じゃ想像も出来なくって先延ばしにし続けた問題に向き合う事になったらしいけれど、流石に覚悟するにも他にも色々あってキャパオーバーだ。


「た、助けて。助けて……レナス」


 思わず呟いたのはこの世で最も尊敬して頼りにしている存在である乳母の名前だ。

 前世では共働きで、今世では僕が幼い頃に死別して実の母親には縁遠かったけれど、前世ではお姉ちゃんが、今世ではレナスが居るから寂しくはなかった。


 母として僕達を育て、叱り、守ってくれた存在で、僕もリアスもレナスが大好きだ。

 ……修行時は母じゃなくて師匠になったけれど、それも鬼師匠に。



「帰って来たら相談しよう」


 何せ忙しい身だから此処三年は滅多に会えなかったけれど、相棒的立場の人とレナスのどっちかが屋敷に来るとは聞いている。

 どうか”話が通じなさそうで通じる方”のレナスであって欲しいよ、色々な理由で。

 もう片方? ”話が通じる風に見えて通じない方”だよ。



「……あー、でも”ウジウジ悩んでんじゃないよっ!” って拳骨喰らうかも」


 その様子が想像に容易い上に考えただけで頭が痛くなって来た……。


「ああ、他にも当初の予定通りって言えば予定通り何だけれど、まさかあの二人がね……」


 数日前なら安心しただろうけれど、今となっては複雑な事だし、腹立たしい事でもあるんだけれど、あの二人がまさかの手の平返しをしたのには驚きだ。


 報告が終わり、ちょっとお茶でもして帰ろうとしたら、まさか二人まで加わるなんてアリアさんも動揺していたよ。その上……。



「……隣良いか?」


「隣に失礼する」


 あの王子と眼鏡、それぞれリアスとアリアさんに惚れたらしい。

 助けられて勇姿に憧れたとか褒めていたけれど……普通は逆じゃないのかな?



 ……あれぇ?






 ロノスが大いに悩んでいる頃、大海を挟む遠方の地にて正反対の女二人が向かい合って話をしていた。

 タイプは違えども二人揃って美女であり、並ぶ姿は絵にして残したいと思わせる程、街を歩けばすれ違った人の多くが思わず振り返る程だ。


 故に二人が居る場所が余計に異彩を際立てる。屍の山に血の海、誰が見ても戦場……だった場所、今は見る限り二人以外の命は屍に引き寄せられた鳥や蟲のみ。

 血の香りが漂うこの場所で、この二人だけは井戸端会議でもしているかの様だ。



「むっ! 何故かロノスを叱りつけて尻を蹴り飛ばしてやる必要がある気がして来たよ」


 一人は軍服を思わせる紺色のコートと帽子姿で長身の野性的な美貌を持つ三十路辺りの女。

 手にするのは巨大な刃を持つハルバートであり、大の男数人掛かりで持ち運びそうなそれを片手で軽々と持っていた。

 赤褐色の肌に残る古傷と逞しい腕と割れた腹筋が歴戦の戦士である事を示し、血の様な赤色のザンバラ髪の間からは天に向かって伸びる二本の角。それはまるで上質の珊瑚の様な光沢の赤であった


「リアスちゃんじゃなくってロノス君ですか? あの子、しっかりしてるのに?」


 対するは戦場よりも社交界の場、もしくは高貴な立場の客が来訪する店に居た方が似合うであろう、一見すれば少女に見える見た目の小柄な女だ。

 赤銅色の髪に小麦色の肌、紫の瞳とリュボス聖王国等では見られない容姿であり、何故か執事服を着ているものの性別を間違われない程度に曲線的である。


「出来が良いから躓いた時が厄介なんだよ、あのバカ息子は。ったく、手間が掛かる奴だねぇ」


「未だ決まった訳でもないのに随分嬉しそうですね、”レナスさん”」


「まあな。んで、そっちは終わったのかい? ”マイ・ニュ”」


「ええ、女子供残さず斬り捨てました。レナスさん、子供は見逃そうとしてましたけど駄目ですよ? 禍根が残れば憂いの種になります。それに差別はいけないので張り切って皆殺しにしましょう」


 屈託無く笑いながらマイ・ニュは手にしたナイフを一見無造作に投擲し、屍の山に潜んで息を殺していた少年の額に深々と突き刺さった。


「良かったですね、坊や。家族と一緒に居られますよ」






「……相変わらずだねぇ、アンタも。ああ、そうだ。大旦那からの連絡でさ、一旦ロノス達が滞在する屋敷に送って欲しいのが居るんだってさ。ほら、何って名前だっけ? あの眼鏡の嬢ちゃん」


「眼鏡の嬢ちゃんって、仮にも息子って呼ぶ相手の婚約者ですよ? ちゃんと名前で呼んであげないと可哀想じゃないですか。具体的に言えば家族も知り合いも皆死んでいるのに先程の少年を見逃して野垂れ死にさせる程度に」


 この時、二人は同時に同じ事を考えた。


 ”付き合いは長いけれど、相変わらず変な奴だな”と……。


 ロノスがそれを知ればどっちもどっちだと呆れただろう。


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