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祖父との旅路

ブクマ増えてます もうすぐ千……の前に九百五十

「旦那様、お茶が入りました」


「うむ」


「若様もどうぞ」


「ありがとう、レナ」


 途轍もない勢いで進む馬車の中、三頭の馬の工夫によって殆ど揺れを感じないからかレナが煎れてくれた紅茶の表面に波紋は殆ど広がっていない。

 普段の過激で大胆に淫靡で有る意味無敵な彼女は何処かに行き、今だけは……そう、今だけは貞淑で冷静で有能なメイドとして振る舞っている。


 うーん、屋敷でも偶にはお仕事モードのレナは目にしたけれど、直ぐに僕に対してセクハラするし驚き反面、こうして見ていると彼女が美人だって再認識しちゃうな。

 (今だけは)僅かに微笑みを浮かべた知的クールなお姉さん、長袖ロングスカートの上品なメイド服を内側から押し上げる胸部、女教師物の官能小説と入れ替わっていたメイド物に出て来るメイドがあくまで仕事と言いながら真面目な感じで性的なご奉仕をしていたけれど、普段のレナならノリノリで舌なめずりをしながら目をギラギラ光らせそうなのに今の彼女は小説の方に近いイメージだ。


 ……普段は普段で良いんだけれど、中身が外面と剥離するにも程があるだろう。




「宴だ。アマーラ帝国の皇帝より誘いがあった。養女全員の嫁ぎ先が決まったとしてな」


「……成る程」


 おっと、前置きも主語も無しに聞きたかった事だけを教えられるとは、別にビックリしないけれど。

 普段がちゃんと大切な所以外を端折らずに口にする人なんだけれど、僕に対しては説明しなくても分かるだろうって判断からこうなりがちだ。

 まあ、会話はキャッチボールとか言われても困るだけだし、目的さえ分かれば別に良いんだけれど……。




「じゃあ、ネーシャとは正式に婚約か」


「無駄が省けたな。これ以上無駄な時間は要らん」


 書類に目を通しながらお祖父様は淡々と告げ、僕の方を見向きもしない。


 無駄、無駄ねぇ、確かに何人もとお見合いをさせられたけれど、公にされている皇女……皇帝陛下の実の娘に瓜二つなネーシャが右足が不自由でも帝国の双子に関する考え方、どう見ても扱いが他の見合い相手と違う事を考えれば誰を選ぶべきなのかは丸分かりだ、養女になる前の家の格だってヴァティ商会が飛び抜けているしさ。


 未だ残っていた筈のお見合いが中止になったと耳にし、先ず感じたのは嬉しさ、続いて恐ろしさも少々だ。

 いや、形だけとはいえ僕がこれ以上お見合いするのが嫌だから向こう側の責任で取り止めにして相手をネーシャで確定するとは聞いていたけれど、まさか此処まで早いだなんて行動力が凄いな。

 一応は皇帝に義理の娘として迎えられるだけの家柄が関わっているし、皇帝だって持ち掛けた話を自分から変えるのは何も無しじゃ済まないだろうに、どれだけのお金や力が動いたのやら……。


 打算なども有っただろうけれど、嫉妬から此処までする彼女の行動力は結婚後こそ注意すべき物だろう。

 其処までしたのが僕への好意が動機だという事に嬉しさを、嫉妬深さと行動力に恐怖を覚える、僕。



「大勢の妻を迎えるとはそういう事だ。私は都合によりお前達の祖母だけだったが故に助言はやれんが、関係する家の者に相談する体制を整えておけ」


「は、はい……」


 心を読まれた……いや、表情の変化で察したのか考えていた事への助言を貰えた事に驚きつつ、今更だがお祖母様とは上手く行っていたらしい事を思い出させられた。


 この国益第一主義で必要ならば危険性程度の理由で身内をも始末する人と夫婦として上手く行けていたあの人って本当に……。

 あっ、そうだ、普段は雑談なんかする時間は無いけれど、お祖母様を一体何者なのかと考えたから思い出したよ。



「お祖父様、メイド長の名前を知っていますか?」


「知らん。アレは優秀だ、名を知る必要性が無い」


「まあ、そうですけれど……」


 そう……なのかな?

 見た目は二十代だけれどもお祖父様の代から仕えている使用人で名前も実年齢も出身地さえも知らないけれど、優秀なら……あれ?


「どうかしたか?」


「いえ、何故か違和感が……」


 有能なだけで十分、素性は無関係だと言われれば納得するには十分……な気がする。

 その納得に何故か納得が行かないってだけだ。

 まるで疑問に思わないように操られて……考え過ぎか。




「……そういえばパンドラさんはメイド長のお名前をご存じなのですよね? 旦那様もご存知ないのにどの様な経緯で?」


「うへ?」


 さっきから僕達の会話を聞いていただけのパンドラにレナから投げかけられる突然の疑問、予想していなかったのか変な声を出した彼女に僕とレナの視線が向くけれど、お祖父様は本当に不要だと思っているのか視線は書類にのみ向けている。


「え、えっと、リ……」


「「リ?」」


「り、理由がありまして口止めされていますのでご容赦を……」


「そう、じゃあ良いや。メイド長には世話になっているし、本人が知られたく無いのなら」


「私も無理に聞き出したと知られれば怖いので止めておきましょう」


 僕とレナの言葉にあからさまにホッとした様子のパンドラは胸をなで下ろす。

 それにしても名前を隠すだなんてどんな理由が有るのやら……。




「無駄話は其処までだ。気が散れば私の時間が無駄になる。私の時間を消費するに値する内容のみ許可しよう」


「りょ、了解しました……」


 お祖父様は外交も行うから他人と会話するのが苦手だなんて事は無い筈だけれど、同じく馬車で移動する孫や腹心の部下、レナス(右腕)の娘への言葉にしては随分と冷たいというか……。


 一部に限定したコミュ障じゃないのかな、この人って。



 それからは言われるがままに沈黙を貫いての移動時間がひたすら続く。

 他の貴族の領地を横断し、街の横を通り過ぎて道中特に何も起きずに後少しで帝国との国境近くまで辿り着いた時、大きな森の前で馬車の動きが突如止まった。

 そして馬車の壁越しに聞こえる三頭の嘶きを聞いた瞬間、お祖父様はゆっくりとした動きで書類に向けていた視線を森に向ける。



「……そうか」


 僕とポチは妖精族の魔法で、アンリとタマは秘伝の訓練法で本来通じない相棒の言葉を理解し、お祖父様も同様に経験と独自の理論による訓練で三頭と意志疎通を行う。

 理屈的には犬に芸を仕込み、何を言えば何をするか分からせるのと同じらしいけれど、その数段上の領域だ。


 ……僕がポチと同じ事をしようとしたとして、あの子が賢い良い子だとしても難しいだろう。

 ヘルホースとグリフォンの知能が大差無いにも関わらずだ。

 こういう所を見せられるからこそお祖父様との敵対は避けたい、リアスを狙われたとしても、ではなく、狙われないようにすべき相手なんだ。


 例えるなら苦痛の軽減等の対処療法しか出来ない病気と同じく、その状況になってしまった時点で詰みに近い。

 

 戦うとなった場合、どうにかする方法は有るけれど、そうすれば国がどうなるかも理解している。

 


「妙な力を感じる、か。パンドラ、調査隊を派遣しておけ」


「はっ!」


 ……蛇足だけれど、鳴き声だけで本来言葉の通じない相棒の伝えたい事を理解するとか格好良いと思う。



「……うん?」


 今、森の奥から感じたのはよく知った魔力の性質、面倒だから単刀直入に言うならば時属性。

 有り得ない……とは言わない根拠が現在敵対中の神獣共、光属性だからね、アホもバカも露出狂も。


「報告をするように」


「僕と同じ時属性……と思われる反応を森の奥から」


「神獣とやらか?」


「知られていない僕以外の使い手か勘違いでなければ」


 当然だけれどお祖父様には神獣について知らせてある、陛下には悪いけれど実質的な国のトップはこの人だからだ。

 僕の反応に何かあったと瞬時に悟ったらしいお祖父様に報告すれば数秒考え、指を鳴らせば馬車は森に向かって突き進んだ。




 ”蹂躙しろ”、今の指パッチンにはそんな指示が込められているらしい。




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挿絵(By みてみん) 商人

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