才女の好み
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「若様、私は幸せです。この様な我が儘を聞き入れて頂いて……」
ベッドが軋む音……はしない、何せクヴァイル家の将来を背負う才女の使っている物だ。
まるで宙に浮いているようなマットは全身を優しく包み込んで疲れを奪い去っていく様な感覚の中、僕の腕の中で幸せそうな顔をするパンドラ。
僕の胸に顔を埋め微笑む姿は思わず抱き締めたくなる。
「それで本当に良かったの? ”添い寝をして欲しい”だなんてさ。僕は役得で嬉しいけれどさ」
「……私も偶には誰かに甘えたくなるものですよ? でも他の誰かには立場上甘えられませんし。……嫌ですか?」
「だから役得だって。嬉しくて仕方が無いよ。愛しい君をこうやって抱き締めて良いんだからさ」
不安そうにするパンドラを強く抱き締めて頭を優しく撫でる。
まあ、普段から張り詰めているから誰かに甘えたいってのは僕も共感するし、普段からお世話になりっぱなしな僕に出来るなら構わない所か嬉しい限りだよ。
間近で感じるパンドラの匂いと柔らかさに僕からすればご褒美、許されるなら頻繁にこうしたい所だ。
ああ、でもちょっと意地悪しちゃおうか?
昔から文通はして来て、彼女は気付かれていないと思っているみたいだけれど……。
「何度も言うけれど本当にこれだけで良いの? 他にして欲しい事があるんじゃない? ちゃんと言って貰えた方が僕は嬉しい」
「ぴゃっ!? し……シて欲しい事……」
あれ? 何か勘違いされた?
本当に他の何でもしてあげたいと思っての言葉だったけれど、パンドラは驚いた様な声と共に強く抱き付いて顔を隠す。
何を恥ずかしがっているんだろうと疑問に思った僕は今の状況を確認して速攻で気付かされたんだ。
一度は路地裏で迫られている僕が着替えを目撃して、ベッドの中で抱き締めての発言、下心が無かったとは言わないけれど……どう考えても誘っていると勘違いされる内容だ。
「い、いえ、私は添い寝だけで十分でしゅのでっ!」
その結果、実はエッチな事を考えていたらしいパンドラの執着心は臨界点を突破、舌足らずの子供みたいになっちゃっていて、今どんな顔をしているのか見てみたい気すらした。
……駄目かな?
ちょっと顔を上げさせて真っ赤に染まった顔を見てみたいし、ちょっと先を期待しても……。
媚薬効果のお香は火を付ける前に密閉したけれど、僕は直前に匂いを直接嗅いでしまっている。
添い寝なんてその状況でしちゃって、こうして抱き締めているのは僕と結婚する相手で好みの相手。
まあ、欲望のままに襲って良い相手では無い、理性で耐えきるんだ、ロノス!
「そう、それなら……」
”別に良い"と会話を切り上げて後は落ち着くまで天井でも眺めていれば気分転換になるだろうし、パンドラも寝ちゃったらベッドから抜け出せば良い。
今は落ち着く事が優先だ。
ちょっと意地悪して恥ずかしい思いをさせたし、パンドラもこれ以上は限界だろうさ。
故に僕がすべきなのは落ち着くのを待つ事、そう思っていたのだけれど。
「た、確かに姿見に映る痴態を見せられながら抱かれてみたいとは思いましたけれど……」
……うん?
「それに抱かれながらはしたない女だと言葉責めにされたり……」
え? ええっ!?
「縄が食い込む程強く縛られて抵抗出来ない状態で全身をまさぐられたりとか……」
いやっ、ちょっと……。
「組み伏せられて服を力尽くで脱がされて強引にとか首輪を填められて犬扱いと……か……。あれ? 私は一体何を口走って……」
あっ、察した。
お香の匂いは少し嗅いだだけで効果が出る位に強烈で、持って来た道中で移り香があった所に密着。
凄く興奮して性癖を暴露した所で正気に戻ったと、そんな所だ。
石の様に固まって動かないパンドラ、もう恥ずかしいとかの次元を超越してしまったのだろう。
うわ言らしい事さえ口から出ないし、逆に悪戯心が湧き出す。
ちょっと苛めてみたいと感じてしまった。
「大丈夫だよ、パンドラ。君、昔から願望が手紙の中に漏れていたから。”縛られたい”とか”多少乱暴な方が良い”とか、別の事みたいに書いていたけれど、今の言葉からして。……それで、僕に何をして欲しいんだい?」
そっと耳元で囁く。
一瞬身を竦ませた彼女は暫し固まり、次に枕元の引き出しに手を伸ばすと中から布を取り出した。
少し分厚い黒い布、鉢巻きみたいに細く長い。
向こうが全然透けて見えない。
目隠しには十分……つまりはそういう事か。
「あの、これも……」
「手枷……これを君に付けろって?」
目隠しと手枷で自分を拘束して欲しいのかと尋ねれば声には出さず、静かに頷く。
そっか、うーん……パンドラの性癖を侮ってた。
ちょっとした遊び程度の真似事かと思いきや割と本格的だよ。
「分かった。じゃあ、この状態だと難しいから一旦起きあがってくれるかい?」
「……ひゃ、ひゃい!」
声を上擦らせながらも期待と緊張を感じさせる顔でベッドの端に座って僕に背中を向けるパンドラの髪をずらし、綺麗なウナジに指を這わせる。
さっき頭を撫でた時に少し触れただけで反応して熱い吐息を吐き出したから思ったけれど、やっぱり弱いみたいだ。
「ひゃんっ!?」
うん、可愛い、凄く可愛い。
さっき撫でた時には声を押し殺していたんだろうけれど不意打ちには対応出来なかったんだね。
ビクッと体を跳ねさせて、次はプルプル震えているんだけれどもう一度撫でようとするんだけれど睨まれたし、残念だけれど目隠しをする。
手枷は……少し迷った。
ツルツルしたドーナツみたいな輪っかを繋げた木製の輪っか、穴の大きさには余裕があるし内側には綿を入れた布を張り付けているし、触ってみた限りじゃ手首を痛めたりはしなさそう。
でも、流石に手枷はな……。
「あ、あの、若様……」
「まあ、どんな頼みだって聞くって約束だしね。痛かったら言ってよ?」
少し戸惑った様子のパンドラ、多分僕が拘束趣味にドン引きしているとでも思ったんだろう、手枷を填めたらホッとした様子だ。
手枷を填められて安心するのも妙な話だから人の趣味って分からない。
「それで次は? 何をして欲しいのか言ってごらん」
パンドラを後ろから抱き締め、ベッドに寝かせながら耳元で囁けば彼女がドキドキしているのが伝わって来る。
恥ずかしいんだろう、答えられないけれどさ。
何も言わないから僕も腰に回した手に力を込めるだけでそれ以上は何もしない、何か言いたそうだけれど、これはこれで楽しい。
真面目で恥ずかしがり屋のパンドラがこれ以上の要求が出来るとは思えないけれど、言いたくても言えないって彼女の姿に覚える妙な感覚。
成る程、これが加虐趣味、パンドラの嗜虐趣味の正反対か。
悪い気はしない……でも。
……さて、このまま抱き締めているのも悪くはないんだけれど、焦らすだけってのもな。
軽く脇腹を撫で、続いて太股から二の腕と次々に撫でる場所を変えて行けばパンドラは声を押し殺そうとするけれど腕を拘束されているから塞げない。
「うなじの反応が一番良かったけれど脇腹も敏感みたいだね……」
「ん……んんっ!」
「じゃあ、同時に……は止めておこうか」
「え……?」
指先が触れた途端に反応したから敢えて指を離し、パンドラが身構えるのを解くのを見計らって再び触れる、それを繰り返す事数度、そろそろ撫でるのも悪くないかな?
「それにしてもクールで知的美女な君がこんな風になっちゃうだなんて良い意味で驚きだよ。……どうせなら手枷はベッドに繋げれば良かったよ」
体の向きを変えさせ、そっとキスをした後でうなじから腰、そして脇腹まで五本の指で優しく一筆書きになで上げればパンドラは声を押し殺しながらも軽く痙攣した。
その後で惚けた顔だったけれど、下半身の違和感を覚えたのか戸惑う顔だ。
「……あれ? 若様、もしかして……」
「気が付いた? じゃあ、今日はその状態で過ごすかい? ……冗談だよ」
何をされたのか分かったみたいだね。
見た目じゃ分からないけれど今の彼女は恥ずかしい状態だ、意地悪で言ってみればそれだけで耳まで真っ赤になっているし、本当にさせたくなる。
「じゃあ、このまま君を組み伏せて……」
耳元で囁く途中、少し強い力でノックされる。
居留守でも使おうかと思ったけれど、再びノックの音が響き、数秒後にドアの一部が弾け飛ぶ。
分厚い板を拳が貫通し、そのまま鍵を外したと思ったら扉が開いてレナが一礼の後に眉一つ動かさず入って来た。
「おや、お楽しみの最中でしたか。ですが今は急を要する事態ですので中断下さい。邪魔をしたお詫びに私も加わりましょう」
「……何用かは知りませんが出て行って下さい、レナさん。それと若様と私の逢瀬に貴女は不要ですので次の機会を待つ事ですね」
「おや、奥手な貴女では若様の手を煩わせるだけでしょうし、気まずい事にならないように手を貸してあげると言っているのが通じませんでしたか?」
「己の性欲を若様を使って解消したいだけの貴女が何を教える気なのやら」
手枷と目隠しをしたままなのに正確にレナの方に顔を向けたパンドラが布の下で睨んでいるのは冷静そうな声にも関わらず伝わっては来る。
二人の間に火花が散る中、僕の耳に遠くから響く軍馬の嘶きが届いた。
「おっと、言い争いをしている場合じゃありません。旦那様……ゼース宰相閣下のお帰りです」