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慢心の代償

 決闘後に起きたリザード・ホーリーナイトの襲撃を報告後、僕とリアスは屋敷へと戻って行った。

 本来ダンジョンに生息するモンスターは周囲の土地の魔力の量と質によって決まるから、学園ダンジョンは周囲に魔力に干渉するアイテムを設置して難易度を調整しているんだけれど、想定していない個体の出現は教師陣を大いに騒がしたよ。


「アイテムに不備が有ったのではないか!? ため込んでいた物が急激に逆流したとか……」


「わ、私はちゃんと管理していました!」


「しかし、実際に死骸を調べた限りでは……」


 最初はリアス達の勘違いではないかと疑い、責任の押し付け合いや何者かが持ち込んだのなら誰が調査するのかと面倒な事を押し付け合う。

 まあ、何でもかんでも押し付け合って情けなくは見えるけれど、他国の貴族まで集まってるのがアザエル学園の特徴なんだし、僕だって同じ立場なら責任は回避したいと思うよ。


 兎に角会議は踊るが進む様子は無く、マナフ先生も皆を落ち着かせようとするけれど時々声が挟まるだけで止まる様子が見られない。


「あの、先ずは死骸を調べて、資料で……」


 付き合いの短い生徒になら侮られても、既に年単位で付き合っているのなら実力は認められてはいる筈だし、そうでないと見た目子供で学年主任にはなれないだろう。

 これは本人の性格の問題だね。


「少しお黙りなさい。私から質問が有りますので」


 このまま無為に時間ばかりが過ぎて行くと思われたその時、ずっと黙して流れを見守っていた理事長……叔母上様が口を開いた瞬間に空気が変わる。

 

 嫌っている筈のルクスでさえ先程から向けていた敵意が別の物に変わっている。

 それは何かと問われれば、僕は迷わず恐怖だと答えるだろう。


 より重々しくなった空気の中、言葉を発する事を強制的に防がれた皆の視線は彼女に注がれ、今まで以上の緊張感が支配しているこの部屋で次の言葉を向けられたのはリアスだ。


「……リアス・クヴァイルさん。出現したのは古文書に記されたモンスター……”神獣”に似ていた、それで宜しいですね?」


「うん、そうよ、叔母様」


「学園では理事長と呼びなさい。此処では叔母と姪ではなく、理事長と生徒です」


「は、はい。ごめんなさい……」


 叔母上様の言葉を受けたリアスは何時ものノリはどこへやら、すっかり怯えちゃってしおらしい態度を見せている。

 お祖父様の娘だけあって性格とかがそっくりなのは知っている筈なのにうっかりしてるなぁ。


「……そうですか。では報告書の提出をお願いしますね。では帰って結構。今回の事は他言しない様に。先生方にも箝口令を敷かせて頂きます。マナフ先生、調査が済むまで現場の封鎖を」


「は、はい!」


 此処で誰も異議を唱えないのは怖いからか実力からか……両方だろうね。


 因みに僕はシアバーンについては報告していない。

 あんな存在、下手に口外すれば混乱しか招かない上に、光属性で常識外れの怪物……いや、神の眷属だなんて誰が相手するんだって話だし、大体の予想が付く。


「あの、何か?」


「いや、何でも無いよ」


 僕の視線に気が付いて不思議そうにするアリアさん。

 光属性に対抗するならば彼女に任せるのが最適解で、何かあれば物語の通りに行かないで……下手をすれば世界が詰む。

 でも、そんな事を遠回しに言っても通じる訳が無いし、今の彼女は”もしかしたら王女かも知れないが、今は功績も何もない上に忌み嫌われる闇属性”でしかない。


 ……せめて使い潰されないだけの価値を示さないと行けないんだけれど、流石に此処まで大きく事件に関わり過ぎた。

 ”原作に関わらずに物語の流れのままに”とかそんな事は言わないけれど、あまり派手に動けばお祖父様がどう出るか。


 まあ、今はこっそり動いていれば大丈夫……かな?


「ああ、それと……分かっていますね?」


 部屋から出て行く時に誰に対してかはハッキリ言わないけれど、間違い無く僕にだと、叔母上様の視線が告げている。



 ……僕はこの時まで自分なら何とかなると思っていたけれど、この瞬間に思い上がりだと思い知らされた。

 僕が何か隠していて、それにアリアさんが関わっていると間違い無く見抜かれている。


 前世の知識、そしてロノスとして自分の頭の良さを自覚していたけれど、それは誰から受け継いだのか失念していたらしい。

 僕なんかよりずっと経験を積んだ海千山千の怪物を相手にしなくちゃ駄目なんだから。



「リアス、此処から先は油断禁物だ。”僕達の力なら大丈夫”そんな風に思わない事だよ」


「なんで? まあ、私はお兄様に任せるわ。それが一番だもの」


 僕の忠告にもリアスは事の重要さを気にした様子が無いし、これは僕がどうにかしないと駄目らしい。

 ああ、ゲームのリアスも完全に追い詰められるまで事態を把握せずに好き勝手に振る舞っていたし、その辺の教育を間違えた気が……。



 いや、それがどうした。

 相手は神様だって分かっていた筈で、僕達が動けばゲームの知識なんて役に立たなくなるって知っていた筈じゃないか。

 守るんだろう? 大切な前世からの妹を……。


「あのぉ、ロノスさん? 私、決闘に勝ちましたし……」


「ああ、そうだったね。まあリアスの報告書を手伝うから約束については明日にでも話そうか」


「はい!」


 元気そうに返事をするアリアさんだけれど、これは演技だってゲームで知っているし、それを踏まえて見る程に違和感を覚える所だらけだ。

 でも、だからこそ本当の感情だって分かる時も有るし……あれ?




 いや、確かに最初はリアスが関わったし、あまりゲームと変わり過ぎたら困るから調整程度の筈だったのに、それにしては深く関わり過ぎじゃないのか?


 卒業後は関わらないから楽に付き合える友達候補?

 いやいや、それなら厄介事をもたらさない人で良いのに……。



 裏からこっそりと力を貸すでなく、リアスが深く関わるのを諫めもせずにアリアさんに関わろうとする理由、それが分からない……。



 人を滅ぼそうとする神の事。


 力も頭も僕以上の上に油断出来ない身内の事。


 それらを抱えてリアスを守り抜きたいのに一体何故?



「あれ? レキアに返したと思ってたのに忘れてたのかな?」


 結局この日の内に答えは出ず、夜になって眠ろうとした時に荷物の中から一輪の花を発見した。

 他人の夢の中に入り込める力を持つ”夢見の花”、ちょっとだけ気になった僕は枕元に花を置き、この日はそのまま眠る。


 さて、どんな夢を見るのやら……。




 柔らかな日差しが降り注ぐ昼下がり、そよ風が運ぶ花の香りが春の訪れを告げる。

 花畑で寝転がってウトウトしていると頭を乗せている膝の持ち主が頬を撫でて来た。


「あっ、起こしてしまいましたか?」


「大丈夫少しボケッとしていただけだからさ」


 ああ、どうやら僕はアリアさんの夢の中に入っているらしいと何となく分かる。

 多分花の力の一つじゃないのかな?


 口は勝手に動くし、体も自由に動かせないから夢の中の僕と感覚を共有している感じらしいし、何となくだけれど物の感じ方だって違う気がするのは、この僕は本当の僕じゃなくて彼女の夢の中の僕だからだろうな。


 何故かアリアさんの姿を目にして声を聞くだけで幸せなんだ。


「あ、あの……」


 勇気が足らずに告げたい想いを口に出来ない彼女の気持ちを僕は知っている。

 だって、彼女が夢に出した僕と彼女の関係がそういう物だからだ。


 本当だったら僕から何か言うのが優しさ何だろうけれど、今は少し照れている彼女の顔を眺めていたかったんだ。

 まあ、あの二人が知れば責められるだろうけれど、今は二人っきりで野暮な目なんて無いんだから別に良いよね?


 ……っと、夢の中の僕に少し影響されている気がするな。

 ちょっと今直ぐにでも夢から出ないと駄目な気がして来たぞ。


 でも……。

 この瞬間が妙に心地良いんだ。

 これが恋って奴なんだろうね……。


 間違い無く夢の中で僕とアリアさんは恋人だ。

 それが偶然の産物なのか彼女の望みが影響されたのかは分からないけれど……。


「あ、あの! 私……ロノスさんが好きです」


「僕も君が好きだよ、アリア」


 精一杯の勇気を絞り出した彼女の想いに応え、起き上がるなり彼女の肩を抱き寄せて唇を重ねる。

 最初は驚いた彼女も一切抵抗せず、そっと目を閉じた。


 僕は今、本当に幸せな時間を僕は過ごしている。





「……ヤバいな。アリアさんに深く関わる理由が分かった気がする」


 分からずに居た方が良かった気がするけれど、それでも僕は自覚してしまった。

 僕は彼女に惹かれ始めているんだ。

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