死ねと言われて誰が死ぬ?
短編また投稿です 逆行物
そしてついにブクマ九百! 別サイトと合わせれば二千五百まで後少し!
「スキュラ、準備は良いですか? 君には期待していますよ、人魚共を動かす役目をねぇ! アヒャヒャヒャヒャ!」
シアバーン様、私を率いる将にして、アホと馬鹿でしかない他の神獣将とは違って頭を使える方。
ラドゥーンとサマエルだったら頭を使うという言葉に対して直ぐに諦めるか頭突きを自信たっぷりにする姿がハッキリ浮かぶ問題外。
でも、お強いから御二方を創造なされたリュキ様の判断には間違いは無い、有るはずが無い。
どうせ人間の愚かさに疲れて手抜きが入った結果があれなだけで、シアバーン様が居るから大丈夫だと思われたのだろうし、多分、きっと、もしかしたら・・・・・・。
「鬱陶しい。死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでっ!」
「動きが雑になってるわよ? ほら、こんな手に引っ掛かるだなんて」
私は神獣、偉大なる光の女神リュキ様の手で人間を世界より排除すべく創造された存在。
ネームレスでしかないけれど、海で戦うならネームドにすら匹敵する強者!
自分がネームドだと思い込んでいるビリワックみたいな馬鹿とは違う存在なのに、何で何で何で目の前の人間二人とドラゴン一匹すら満足に始末出来ていないの!?
「何をやってるの、役立たず!」
犬達は私の体の一部で武器でもある能力なんだけれど、私の意思で動かしている訳じゃない。
私の支持を受けながら各自が考えて動くから、向こうに翻弄されてしまっていた。
縦横無尽に飛び回るドラゴンに噛みつこうと牙を打ち鳴らしながら追い掛けるけれど掠りもしないし、遂には犬達の体が雁字搦めになってしまう。
こんな手に引っ掛かるだなんて本当に情けない!
金属製の網に絡められた子達や氷漬けにされて再生に時間が掛かる子も居て、私がちゃんと指示を送っているのに何をやってるの!
「あっはっはっはっ、随分と賢いワンちゃん達ね。ちゃーんと私達を追い掛けるなんて」
「おい、挑発は止せ。……泣かしたら可哀想だろう?」
「ピッピッピッピッピッ!」
ぐっ! こ、此奴達、人間とドラゴンの分際でっ!
ドラゴンなのに私を笑っているのが鳴き声で分かってしまう。
拳を握りしめて振るわすけれど、足にさっきから感じる痒みがそれを許さなかった。
痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いっ!
ガリガリガリガリと爪を立てて掻き毟るけれど痒みは収まらず、血が出ても寧ろ痒みは激しくなるばかりで犬達への指示も遅れて来た。
「ほらほら、こっちよん。追い付けるものなら追い付いてご覧なさーい」
「何をしているの? さっさと食い殺しなさい!」
犬達は伸ばせるけれど、頭の方で絡み合った状態じゃ戦うのは難しい。
でも大丈夫、氷漬けになっていた子が凍った部分を全部砕いて復活したから、絡まった子達の胴体を食い破らせれば復活よ。
……痛みはあるし、余計に足が痒くなって既に爪の先は滲んだ血で赤く染まっているけれど、今は目の前の敵を悔い殺すのが先。
四方から胴を伸ばしても翻弄されて雁字搦めにされるなら同方向から襲い掛かれば良い。
犬全部に一塊になって面積を広げさせて追い掛けさせた。
「ほら、これでも食べると良い」
大きく開けた口の中に赤髪がナイフを投げ込むけれど、あんなに小さなナイフじゃ喉の奥に刺さっても小骨が刺さった程度。
そんなの盛り上がる肉に押し出されるだけなのに苦し紛れに行動するって事は追い詰めている?
「なら、乗ってあげる。だから効かなくって絶望する顔を見せて?」
投げられたナイフを犬の全ての口で受け、平気だとばかりに刺さっても平気で動いているのだと口を開いた状態で追わせれば舌打ちをするのが聞こえた。
所詮は人間、この程度。
リュキ様は人間を滅ぼすのを途中で止めて、私達と一緒に憎しみの心を封印したけれど、あの方が間違える筈が無いのだから、絶対他の神が何かしたに決まっている。
怪しいのは側近だった時の女神ノクス、彼奴なんかのせいでリュキ様の選択が間違いだったとする訳には行かないから、切り離された心も復活させて人間も滅ぼして、間違いなんかじゃ無かったと証明してみせる。
「口を閉じていてくれた方が良かったのだがな」
「そんなに無駄な抵抗だって証明されるのが嫌? なら、もっと見やすいよう、にっ!?」
赤髪の言葉をあざ笑う途中、耳を塞ぎたくなる轟音と衝撃と熱、犬達の口内が弾け飛ぶ。
「爆…弾……?」
「ああ、爆弾ナイフだ。口を閉じていれば衝撃の逃げ場が無かったのだがな。ほら、追加だ」
犬の口内に発生した熱と衝撃から来る激痛に歯を食いしばりそうになるけれど、それ以上に強くなる痒みに耐え切れない私は指先を特に痒みの強い太股に突き刺して中をかき乱す。
痛いけれど、これだけすれば痛みで痒みが……幾らなんでも妙だと気が付いた時、意識を外した隙を狙って投げられた爆弾ナイフが私に迫っているのに気が付いて慌てて犬達を盾にしたけれど、これは気付かれたらしいわね。
「あら? 魔法は効かなくても他の攻撃は効果有るみたいねぇ。なら、どうとでもなるわ」
「黙れ、人間如きが私の能力の一つを理解したからと調子に乗らないで」
「嫌よ。調子に乗らせて貰うわ。だって貴女のお願いを聞く理由なんて無いものね」
私に怒りを向けられても平然と受け流す姿に腹が立つ。
だけど、流石に私も気が付けた事が一つ、この異常な痒みは目の前の男に何かされたからだろう。
「楽に死にたいなら教えて。私に何をしたの?」
「敵に情報をあげる程、私はお人好しじゃなくってよ? ……そうね、貴女が何の目的で来たのかを教えてくれれば考えてあ・げ・る」
わざわざ最後を一文字ずつ区切りウインクまでして来ても腹が立つだけ。
私の目的……教える必要は無い。
何かされた、それが確定しただけで十分。
「言わないし、言っても無駄。もう桃幻郷の人魚達が集まっている頃よ。貴方達が何をしても遅い。後は交わった男以上に栄養豊富な……」
「……あら、桃幻郷の連中が絡んでいるのね。所で貴女、馬鹿だって言われない? サマエルって子をアホだと言っていたけれど自分も大概だって自覚なさいな」
「無駄だと思うぞ、ルルネード先輩。理解出来ないからこそアホなんだ」
「……今、何て言った?」
あからさまな挑発に頭に血が登り、一斉に犬達をけしかけようとした瞬間、右腕にチクリと鈍い痛み。
これは……針?
精々爪程度の長さの針のような物が刺さっていて、あの男の手には小さな筒のような物。
多分アレに針を発射する仕掛けでも有るのかと思っている間に針は溶けるように消えて行った。
同時に途轍もない痒みが私の全身を襲う。
「あがぁあああああああああああっ!?」
痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いっ!?
痛みも怒りも痒みに塗り潰され、皮膚が破れ肉が裂けるのも構わず掻き続けるけれども痒みは増して行くばかり。
もう、他の事は何一つ……。
「先輩、何を打ち込んだのですか?」
「”ヒポポイズンタマス”が尻尾に持つ毒に他の薬品を混ぜ合わせた物を凝固させた皮膚の温度で溶けて吸収される針、とだけ言っておくわ。痛みを感じれば感じる程に痒みは増して行くの。皆、結構お話をしてくれるようになる便利な物よ」
「またえげつない物を……」