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最近投稿した短編
マッチョが売りの少女
30000000000000000000000000000000000000000枚のお札
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「トアラス、×××が死んだ。殺されたのだ」
拷問貴族ルルネード家、リュボス聖王国の闇の一部を引き受ける一族、それが私の一族、当然だけれども敵は多い。
スパイや裏切り者、組織犯罪者、私達の一族が恨まれるのは、まあ、そうなのでしょうね。
誰にも憎まれず恨まれず妬まれず、そんな人間なんて一切誰とも関わらず知られず山奥で生涯を終えるでもしないと無理でしょうし、私だって七歳の時には既にそれを受け入れていたのよ。
……でも、だからって一歳下の妹が殺されるのまで受け入れた覚えはないわ、ましてや陵辱と拷問の末の惨殺だなんてね。
家柄上、七歳だからって妹の無惨な死体を見せないとかは無かったけれど、急に呼び出された上で見せるとかは今でも父上の神経を疑ってるの。
「既に関係者は捕まえた。裏に誰が居るのかお前が聞き出せ、トアラス」
実際は私が任されたのは末端の末端もいい所の雑魚、私が感情に流されてしくじって挫折するなら親戚の子と交換するって腹積もりだったらしいわん。
結局どうなったって?
ええ、今現在もルルネード家の一員で、聖女のゴリ来……じゃなくて再来のリアス様ちゃんのお目付役を任されてるから分かるわよねん?
まあ、あの子は自由にするのが一番楽しそうだから名目上でしかないし、小言程度なら受け入れるわよ。
ああ、先に言って置くけれど、妹は妹、リアス様ちゃんはリアス様ちゃん、同一視はしていないから。
……正直、無駄な事はしたくないのよ、普通に無理じゃない?
あの子のお目付役とか無茶振りは困るのよ。
私は正直言って面倒な事は嫌いだし、拷問だって可能なら選ばして欲しい位。
「厄介な相手ね。一応聞くけれど人違いで襲ったとかじゃ無いわよね?」
リカルドの追跡途中に現れた巨犬、見た事も無い相手に面倒さから辟易する私は如何にも関わっていそうな女の子に出来るだけ穏やかに話し掛けるけれど殺意はビンビンだし敵意が凄いわん。
裏切り者を取り調べる時に感じた物を目の前の相手から感じているのは私だけじゃなくアンリちゃんも同じらしく、袖に隠した武器をそっと握り込んでいる、私とお揃いね。
「……」
此方の問い掛けには黙り、調子に乗ってペラペラ喋ってくれる相手だとは思っていなかったけれど、この反応は寂しいわぁ。
ドラゴンという飛行手段を持っている以上、何とか撤退する前に情報を集めたいし、せめて会話の糸口でも掴めれば良いのだけれど……。
「あら? あらあら、私とした事が失礼だったわね。トアラス・ルルネードよん。トアラスでもルルでも好きな風に読んで頂戴な」
「アンリ・ヒージャだ」
リアス様ちゃんと違って察しが良いから助かるわね、彼。
彼……彼、よね?
私の名乗りに続いて名乗る後輩の顔を目の前の敵から意識を向けつつ横目で観察する。
腰回りは服で、喉仏の辺りはチョーカーで見えないし、女の子なら女の子だって直ぐに分かるから、女の子だって思わない以上は男の子なのでしょうけれど……うーん。
まあ、別に良いわね。
今は目の前の相手の情報よ。
「確かサマエルって子が来ていたらしいけど、貴女の雇い主なの?」
「……違う。あのアホとシアバーン様を一緒にしないで」
「あらあら、随分と嫌っているのね。怒りで震えるだなんてどれだけアホなのやら」
試しに話題にしてみたんだけれど、まさか本当に反応してくれるだなんて。
正直ちょっと驚きね、神獣……神によって創造された存在であっても組織は一枚岩じゃなく、将の名を冠する者が相手でも嫌悪感を隠そうとしないだなんて。
「もう良い、凄く不愉快。寒いし、痛いし、どちらにせよ人の子は皆殺しだから。冥土の土産に教えてあげる。私はスキュラ」
最初は全くの無反応だった少女……スキュラの怒りが伝播した様に巨犬達もうなり声を上げているし、拘束中の一匹は毛皮がズタズタになっているのに気にせず激しく暴れている。
「そうなの、スキュラちゃんって呼ばせて貰うわねん。教えてくれて有り難う」
「……気安く呼ばないで。不愉快だから」
調子に乗ってペラペラ喋ってくれるタイプじゃなかったけれど、重要な事を怒りに任せて喋ってしまうタイプではあったってわけね、彼女。
「死んで」
スキュラが私達に向かって右手を振り抜くと同時に左右と上から巨犬が迫る。
途中、凍った仲間を砕いて解放しようとしたけれど、残念ね、芯まで凍っているわ。
「”メタルネット”」
でも、断面が震えて凍った部分が徐々に砕けて行っているから再生までそんなに掛からないでしょう。
アンリ君に目配せすれば、口笛に反応したタマちゃんが正面を向いたまま後ろに待避、一ヶ所に集まった頭に向かって有棘鉄線で編まれた大きめの網を放てば四匹纏めて捕らえれちゃった。
じゃあ……本体を叩きましょうか。
「アンリ君、続けてくれるかしらん?」
「了解した」
五匹は拘束、一匹は再生に手間取って残りは二匹。
空中を激しく飛び回って猛追から逃げつつ小声で頼むなりタマの背中から飛び出した。
「ピッ!」
鳴き声と同時に私は両手で目を覆い、足下を電撃が通り過ぎて眩い電光で周囲を照らす。
ちょっと計算外、眩しさが予想以上で目を庇ってもチカチカしたんだけれど、もう相手の位置は頭に入っている。
「”アイアンプリズン”」
巨大なアイアンメイデンがスキュラの背後に扉を開いた状態で現れて、目眩ましを食らって目を押さえている彼女を中に閉じこめた。
パタンって扉が閉まって行く音を聞きながら回復した目で見てみれば扉は完全に閉まってはいなかった。
「寒いとか言ってたけれど、矢っ張り繋がってたのねん」
ええ、当然予想通りよ、だから下の部分に何かが挟まってちゃんと扉が閉まらないのも分かっていたわ。
海への落下が始まった私の下にタマちゃんが滑り込んでくれたからびしょ濡れは回避、このモヒカンが台無しになるし海水ってベタベタするから嫌いだし助かったわ。
お礼に撫でてみたけれどバチって来たから主以外に撫でられるのは嫌なのね、この子。
「海に隠れた部分がどれだけ長いのやら」
未だ目が眩んでいる巨犬達から一旦距離を取ったけれど、相手の姿が一部しか見えないのって嫌よね。
喋ったけれど実は切り離し可能で壊されても平気な部分だったら無駄遣いしちゃった事になるし。
「あの犬と繋がっているだろうからな。八匹だし、足首から下にタコの頭があるのではないか?」
「成る程、ウツボダコみたいに脚が犬になっているのね。有り得そうだわ。……さてと、思った以上に面倒な敵さんねぇ」
閉まる力は継続中だってのに内部から無理矢理こじ開けられて、最後には扉が飛んで行っちゃうんだけれど、内部の突起物がひしゃげているのはちょっとショック。
鋼鉄製の鎧すら貫通するのよ、なのにスキュラったら服に穴が空いただけで血が流れた形跡すら無いんだもの。
「……無駄。私にはもう貴方達の魔法は効かない。だから大人しく死んで」
「大人しく死ねと言われて死なないわよぉ。……それと有り難うね?」
この子、結構口が軽いわ。
私は相手の能力のタネの糸口を掴み、ヒントをくれたからお礼を言うけれど通じていないのか首を傾げるだけ。
足が痒いのか指先で掻いていたわ。
「スキュラちゃん、私が魔法で攻撃するのにわざわざ近寄る理由は考えた? まあ、これ以上は教えてあげないわよん」
さてと、このまま戦いを続けようかしらねぇ?