乳母兄弟は頼りになる……のか?
マッチョが売りの少女 浮かんだ謎タイトル 二次になるから投稿は出来ない 展開は浮かんだ
「相変わらずの様だな、貴様は。短絡的が過ぎるな。先ずは謝罪せよ、他者の頭を蹴りつける等な」
「力、入れていない。お前、キスしたくてもキス出来ないのを助けた。感謝すべき」
額がぶつかりそうな距離で睨むレキアと睨まれている理由が分かっていないシロノ、怒鳴り声でもないのにレキアの声には敵意が籠もっているけれど、シロノは全く気にした様子は無い、分かっていない筈がないのにさ。
妖精と獣人は別に仲が悪いって訳じゃ無い、元々ギヌスの民は海辺で暮らすし、溶性の生活圏は妖精の領域か其処に繋がる森、クヴァイル家って共通点が無かったら関わる事も無かっただろうに。
でも、この二人って本当に相性が悪いんだよなぁ。
「そもそも貴様と会う機会は数える程度だが気に食わんと思っていた」
「そうか。私、お前はどうでも良い」
ほら、プライドが高いレキアと唯我独尊なシロノじゃ相性が悪いんだからさ。
そんな風にやりとりしている間にレキアの大きさは元の大きさに戻り、一瞬怯んだけれど歯噛みしていて、小さいのもあって可愛い。
……小動物扱いしたら怒るんだから言えないけれどさ。
「何で貴様と妾のどちらが正妻なのかが納得行かん」
「同感、正妻なるの、私」
「ふんっ! その根拠の無い自信は何処から来ているのやら」
あれ? 何か変な流れになって来ている様な。
この、前から気に食わなかった、って感じを二人して出し始めているし、話を切り替えないと不味い感じじゃないだろうか?
「キュピ~」
こんな状況でもポチは鼻提灯を膨らませて眠っていて、見ているだけで癒される。
このまま眠ってしまいたい気分だけれど、このまま眠ってしまっても二人に叩き起こされる気がして怖い。
癒されたい、ポチやリアスに癒されたいし、夜鶴に甘えたい、彼女相手だったらどんな姿を見せても平気なんだし。
修羅場ってこんな感じなのも有るのか。
いや、どちらかと言えば僕じゃなくって立場を取り合っているんだから違うのかな?
じゃあ、下手に割って入らない方が良いかもね。
「……今直ぐにどちらにするか選べとか言われても困るし。決定権を持つのはお祖父様であって、僕が選ぶんじゃないから無理だって言っても無駄だろうな」
睨み合う二人を見ながらそんな言い訳を行い、ポチを枕からベッドに変更して全身で羽毛の感触を堪能する。
この空中に浮いてるんじゃないかって錯覚しそうな柔らかさは心身の疲れを取り除いてくれていた。
こんな風に家の力が通じない……いや、家の力を使う方が厄介な事になる相手の説得に慣れてないよな、僕って。
そういった経験を今後積むとして、今はどうやって穏便に済ませるべきなのか、下手に首を突っ込まない方が無事に終わるかも知れないし。
何だかんだ言って気位が高かったり血の気が多い二人だけれど、だからって安易に気に入らない相手に手は出さない。
力の振るうべき時ってのを弁えているんだよ。
どうするべきか悩み迷い、結果、僕以外の誰かなら何とかなるのではとの考えに至った。
「こんな時、レナでも居れば何とかなったのかな?」
この状況、第三者が入るには難しく、僕が入るにはややこしい。
リアスは説得に向いていないし、ツクシならクヴァイル家のメイドだ、将来従える相手の言葉なら耳を傾けるだろうけれど、ツクシは遠くから首を左右に激しく振って介入を拒否……さっき決めたボーナスの増額量を減らすとしよう。
実力的にはレナでも、問題も多いからって彼女の代わりに来たのがツクシだけれど、レキアとは古い付き合いで、実力者でありレナスの娘だからってシロノからも一目置かれているんだ、レナなら説得出来た筈。
……どんな風に説得するのか考えてみれば参考になるかな?
レナとは赤ん坊の時から付き合い、乳母兄弟なんだから何となく予想が出来る……。
「まあ、お待ち下さい。この場でお二人が争っても解決致しません」
争っている二人の間に割って入るレナ、妖精の魔法も獣人の拳も恐れず行動するだろう。
「此処は若様と夫婦の営みをじっくりねっぷり行い、体の相性で決めるべきです。お二人同時に若様と……いえ、言い出しっぺの責任としてご相伴に……私も審判の役割を兼ねて参加させて頂きます」
はい、余計に悪化する光景がはっきりくっきり浮かんだね、レナだから当然だよ。
乳母兄弟だから信頼しているし慕っているけれど、本当にレナはレナだからな……。
うーん、傍観して事の成り行きを見守ろうかな、それが良さそうだ。
今の僕の心配事は目の前の二人だけじゃない、シロノから伝えられたセイレーン族とウンディーネ族に受け継がれていた絆の証である二本一対の武器の名前が”夜鶴”と”明烏”だったって事さ。
酔った勢いで売り払ってしまっていた妖刀であり、現在は僕が主として認められたけれど、その条件が”能力を知っている上で忘れた状態で鞘から抜く事”だからな。
代々主に選ばれないかと人魚達が挑んでも無駄だった筈だよ……。
「返せと言われても返す気は無い。向こうは対価を受け取って手放して、どんなルートかは不明だけれどクヴァイル家に来たんだから」
分体を生み出す力を持った忍者の肉体を作り出す夜鶴と闇や光といった特殊な属性以外の魔法を扱えるようになる明烏、そんな物を人魚に渡す訳には行かないし、個人的な面からしても渡したくは無い。
特に夜鶴は部下として諜報とか暗殺とか護衛とか色々と世話になっている相手で……初体験の相手だ。
あくまでも魔力で形成されただけの肉体で、当然ながら他の誰かとの間のしがらみだって存在しない。
そんな事もあって分体含めて彼女には色々とね……。
明烏だって忠誠の”ち”も知らないって感じの戦闘狂で問題児、気に入らない事が在れば痛みを与えて抗議してくる困った奴だ。
それでもその能力は頼りにしている。
どちらも僕の愛用する武器であり頼れる部下、譲る理由は何一つ無い。
只、問題は力で手に入れようとした時じゃなく、僕が二本に選ばれた事を知った人魚がどんな行動に出るか。
正面から叩き潰せる場合が一番望ましいけれど、そんな風には行かない気がした。
「桃幻台の連中が何を企んでいるのか、それも不安だ。せめて部族間の揉め事が有耶無耶になってくれれば良いのにさ」
海は広くて深いからギヌスの民だろうと深く潜った人魚達を完全には補足出来なくても、他の連中は別だし大隊ならば深く潜ってもギヌスの民を誤魔化せる筈がない。
「まあ、全部はトアラス達が戻って、人魚達から話を聞きだしてからか」
何というタイミングの悪さで逃げ出してくれたよ、リカルド。
ウンディーネ族の隠れ里に案内してくれるならラッキー、何処かに消えるなら捕らえて兵士に引き渡す、只それだけだ。
「セイレーン族とウンディーネ族の争いを始めようって時に周辺の海域で人を襲うだなんて、まさか二つの部族を狙っての……? 駄目だ、ヒントが足りない」
そう、考えて備える事は出来たとして、実際に動いて解決に持ち込むには早過ぎる。
共倒れとかしてくれないかな……?
神に……取り敢えずお姉ちゃんに祈っておこうか、闇の女神だし。
「早く帰って来ないかな……」
戻って来たら話し合いの続きをするからと集まれる
この場から逃げ出すのも二人に捕まりそうだし、居なくなる口実が切実に欲しかったんだ……。




