表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/393

僕の生まれた理由

 リアスとリザード・ホーリーナイトとの戦い、いや、戦いとは到底呼べない蹂躙を見て僕はホッとする。

 あの子、変な所で調子に乗るからコッソリ見学して居たけれども今回は杞憂で終わって何よりだ。


「此処は学園関係者以外立ち入り禁止の筈だけれど、特別許可証は持っているのかな?」


 問題は僕と同様に物陰に隠れて戦いを見学していた見るからに不審な人物……こうして実際に見ると信用に値する様子が皆無の相手だな。


 黒い布を巻いて顔を隠す……まあ、これは良いだろう。

 でも、全体の雰囲気が合わさって凄く不審だ。


「おやおや、それはビックリ! 私、知りませんでしたよ」


 只でさえ不審な姿をしているのに、それ以上に怪しさを増幅させるふざけた態度で目の前の男は僕と向かい合う。

 それも聞いただけじゃ一般人を装った演技をしながらも、首の口を一切隠そうともせず、両手の指の間全てにナイフを挟んで構えながらね。



「レキアが怪しいって言った筈だよ。君、神の眷属が何しに来たのかな?」


「今後の仕事の為に情報を集めに来まして。さぁ~て、さぁ~て、どうも警戒されている様子ですし、此処は神の眷属として重要な使命を持って生まれて来た人の子に試練を与えに来た……ってのはどうですかねぇ?」


 明らかな不審者を発見しても無反応なのは妙な話だと思い、リアス達にモンスターをけしかけた事への怒りも有って接触したけれど、どうやら悪手だったらしいね。


 大きく腕を振るって投擲されるナイフを明烏で叩き落とし、納刀するなり一足飛びに距離を詰め、着地と共に抜刀。剣閃煌めき、片腕を斬り飛ばす。


「おおっと!? 全力を出せない状態な上に本気を出さない気だと思って油断して居ましたよ。これは予想以上に予想以上だ」


 右腕を斬り飛ばしたのに苦痛に喘ぐ姿も見せず、後ろに飛んで距離を取った奴は逆に余裕綽々で僕を見透かして来る。

 手の内を晒す気は無いし、今の僕じゃ全力を出せないのも全部本当の話であり、僕からしても目の前の相手は予想以上に厄介な相手だ。


「……化け物め」


「ええ、そりゃあ人間の皆様を滅ぼす為に創造された三体の怪物の内の一体ですから。申し遅れました。私、ネペンテス商会所属の商人で名をシアバーンと申します。以後お見知り置きを。時の使い手であらせられる”ロノス・クヴァイル様”」


 思わず口から漏れだした言葉にシアバーンは動じず、断面が肌と同じで真っ白で血の一滴も流れ出てない腕を胸元に持って行っての丁寧なお辞儀。

 今なら首を斬り飛ばせる? 


「……いや、駄目だ」


 あからさまが過ぎる隙だらけの仕草、そして腕を切り飛ばした時の感触が今踏み込むべきではないと僕に告げる。


「その刀……明烏(あけがらす)ですか。ならば対になる夜鶴(よづる)をお使いなさい。明烏では同じ属性を持つ私には効果が薄いですよ」


「手元に無いのを分かってて言ってる?」


 間違い無く此奴の性格は最悪だ。


「ええ、言っていますとも。では、続きと行きましょうか」


 斬り飛ばした腕の断面が盛り上がり、瞬く間に再生を果たす。

 おいおい、四肢欠損が問題無いって勘弁して欲しいんだけれど!?


 再生しただけでなく、シアバーンの腕は蛇を想わせる軌道を描きながら伸びて僕へと迫って来る。

 何時の間にか手首から先は剣と槍になっていて、明烏とぶつかり合えば響くのは金属音だ。


 上下左右から変則的な動きで迫り、斬り飛ばしても即座に再生する腕は斬り飛ばした部分も意志を持つかの様に蠢いて僕へと襲い掛かる。


「これは斬ったら余計に厄介になるか……なら」


 柄を持ち替え、刃の向きを変える。

 斬ったら厄介なら、斬らずに迎撃すれば良いだけ。



「安心しなよ。峰打ちで叩き殺すからさ」


 飛びかかって来た手を全て殴打して叩き落とし、迫る腕を強めに弾き飛ばす。

 この程度なら魔法は使わなくても大丈夫だし、僕の勝利条件は此奴を倒すだけじゃない。


「安心する要素が全くありませんが? 妹さんを襲ったのを根に持って……来ますね。どうやら遊び過ぎたらしい」


 近付いて来るリアス達の足音、到着まで後僅か。

 さて、此処で退いてくれたら助かるんだけれども……。



「最後にちょっとだけ本気を出して帰らせて貰いますよぉ」


「……だよね。何となくそう来ると思っていたよ」


 伸ばした腕を元に戻したシアバーンは腕の前で二本の腕を捻り合わせる。互いに絡み合う腕はやがて一つになり、シアバーンの胸から生える毛むくじゃらの豪腕となっていた。


 指は三本でどれも太く短く、どう見ても人外の腕だ。

 だが、腕の長さは先程伸ばしていた状態と同じ程で、その肘を曲げて構えている。


「ああ、そうだ! 試練を乗り越えた者には祝福がないと駄目ですねぇ。この一撃で一歩も退かなければ面白い事を教えて差し上げますよぉ!」


「君と僕とじゃ笑いのツボが別だと思うけどね。まあ、良いや。来るなら……


「それではっ!」


 ”来たら?” と告げる前に僕に向かって撃ち出されたシアバーンの拳は威圧感に依るものか、はたまた光の屈折でも操作する魔法の類なのか本当よりも巨大に見える。


 確かに”良いや”とは口にしたけれど、少し卑怯じゃないかな?

 いや、ルールを守るべき試合じゃないし、人外に人間の常識を説いても仕方が無いか。


 迫り来る拳は目に見える巨大さのせいで芯が捉えにくく、下手に受ければ殴り飛ばされるだろう。


 そっと目を閉じ静かな心で構えれば刃に何かが触れたのを感じ、そのまま真下に受け流す。

 軌道を変えて地面に突き刺さる拳はそのまま無理に前進を続けるが、僕は既にその上に飛び乗って駆け出していた。


「人の腕に乗るとか失礼じゃないですかねぇ!?」


「人じゃなくて怪物だって自分で言っただろ!」


 いい加減終わらせないとリアス達が来ちゃうし、他の人に説明するには面倒だ。

 明烏を振り上げた僕に対し、シアバーンは余裕を崩さない。


「なんて屁理屈をっ! ですが明烏は刃に光属性を宿す妖刀。私には効果が薄いと分かっているでしょう!」


「ああ、そうだね! 刃で切っても殴っても効果は薄いだろうさっ!」


 斬っても突いても意味が無い? それがどうした!


 刃が駄目なら柄が有る!


「ぐぎゃっ!?」


 顔面に描かれた白い目玉模様の中央目掛けて柄頭を振り下ろせば骨が砕ける音が響き、オマケとばかりに踏んづけて背後に飛べばシアバーンが顔面を押さえて悶えていた。


「さて、これで試練は突破って事で良いのかな?」


 どうせ今のじゃ大したダメージは入って居ないだろう。

 実際、僕が指摘するなり痛がる素振りをピタッと止めて両手を左右に広げての溜め息だ。


 腹立つなぁ……。


「ノリですよ、ノリ。最近では商売でもユーモアが必要でして。さてさて、もう来そうですし……貴方がその力を持って生まれた理由。それは……妹さんと闇属性の彼女を殺す為ですよ。アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」


 リアス達の姿が遠目に見えた時、シアバーンは愉快そうに告げるとその場でクルッと一回転、瞬く間にその場から姿を消した。



「あっ! お兄様だわ!」


 シアバーンに気が付かなかったのかリアスは僕の姿を確認するなり嬉しそうに駆け寄って来る。

 アリアさん達も居るのに僕に抱き付いて誉めて欲しいと全力でアピールしてるし、此処は誉めてあげるべきかな?



「頑張ったみたいだね、リアス。決闘はどうだった?」


「楽っ勝! 秒殺だったわ!」


 ああ、本当にこの子は元気で可愛いなぁ……。




「羨ましいな……」


 所でうちの可愛い妹に色目を使ってる野郎はどんな心境の変化が?

 あれかな? 吊り橋効果的なので、モンスターから庇いながら戦う姿に惚れちゃった?




 この子が魅力的なのは全面的に肯定するけど、お兄ちゃんとして絶対に許す気は無いんだけどね!






感想とか待っています


ストック切れそう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ