尚、兄のゴリラ呼びに悪意は無い 故に辞めない
昨日、短編投稿しました 読んで欲しいです
”桃幻郷”、聖王国含む四ヶ国が存在する大陸より東に海を渡った大陸に存在する国で、仲はあんまり良くない……いや、敵対しているし、向こうも此方も攻撃を仕掛けている。
ギヌスの民が聖王国に受け入れられるより前に所属していた国でもあって文化的には東洋風……擬き、刀とかそういった感じの物も向こうから流れて来ているけれど、色々と高く売れるから商売としては美味しいんだよね。
「キュッキュッキュッキュキュユキュキュキューイ! キュキュキュイキュキュキュイキュキュキュキュキューイ!」
そんな連中に関わりのある人魚、シロノ曰く”マーメイド族”って部族らしいけれど髪の毛を一度抜いてみたら普通とは髪質が違うからって上機嫌だ。
ブチブチブチーって感じに髪を引き抜いている姿は行為こそえげつないのに可愛いなあ。
こう首の辺りに抱き付いてギュッとしながら頭を撫で撫でしながら首に顔を埋めてクンカクンカしたい、今すぐしたい。
……しようかな? でも、今はやりたい上にやらなくちゃならない事があるからね。
モフモフ撫で撫でクンカクンカしてフッカフカの羽毛でスヤスヤしたいけれど!
「お兄様、怪我の治療終わったわ! ほらほら、もう終わったのよ、見て……」
この中で今現在回復魔法が使える(という事になっている)のはリアスだけだし、頼んでみたら全員一斉に治療しちゃって凄いよね。
治療を終えた途端に誇らし気に胸を張りながら寄って来て、誉めて欲しそうにしてたのに途端に不機嫌モードで頬を膨らませて可愛いなあ……いや、この状況で可愛いと言っている場合じゃないんだけれど。
「ねぇ、リアス。どうしたら機嫌を直してくれるんだい? 兄妹で仲良くしたいんだ」
元々僕の不始末が理由だ、あれこれ言い訳はしたくないんだよな、女性関係の言い訳を妹にするのも何か違う気がするし。
「……じゃあログハウス迄お兄ちゃんに背負って貰って帰る」
ほら、それにリアスだって僕が嫌いになった訳じゃない。
ちょっと不満に思ったから素直になれないだけだし、僕がちゃんと”理想のお兄ちゃん”で居られてなかったから拗ねはしたけれど僕達の絆はこの程度じゃ壊せはしないんだ。
お兄様と呼ぶように注意するのは今回は止めて、お願いされるなり背中を向けてしゃがめば即座に飛び乗られる。
「キュイ……」
ああ、ポチも羨ましいんだね。
思い返せば直ぐに大きくなっちゃったけれど、卵から孵ったばかりの頃は僕の頭や肩に乗るのがお気に入りだったんだからね。
背中に妹の軽さを感じれば、聖女だのゴリラだのゴリラ系聖女だの聖女系ゴリラだの呼ばれていても本当は可愛い女の子なんだって確かめる迄もない事を再認識させられて、同じ様にお願いされて背負っていた小さい頃を前世も今世の両方を思い出す。
僕はお姉ちゃんに背負われていたけれど、この子は僕とあの人の二人に背負われていたんだって。
……矢っ張り寂しいのかな?
僕が他の女の子と仲良くしてて放置された気分になっていたり、お姉ちゃんと再会した事が切っ掛けで甘えん坊な部分を抑え切れなくなってさ。
「僕が守るって決めたのにな……」
「何を? お兄ちゃんって何時も私を守ってくれているでしょ?」
思わず出た呟きに背中の上から不思議そうな声が掛かる。
僕、リアスの事とは言っていないのに伝わってるな、これが以心伝心って奴か。
反対に僕はリアスの心を分かって居ないんだから情けない。
認めてくれている事は嬉しいけれど、僕にだって意地があるから認める訳には行かないさ、リアス。
体と心、二つとも守らないと、お兄ちゃんは君を守れていると誇れないんだ。
「うん、守ろうとはしているよ。リアスは大切で愛しの可愛い妹なんだからさ」
「だから守れているわよ?」
だから、本人は守れていると思ってくれているけれど、僕は自分がちゃんと出来ていない情けない奴だと思っているんだ。
「お兄ちゃんったら変なの。それよりもログハウスに帰りましょう。どうせだったらポチと競争する? ポチにはツクシを乗せれば良いし」
僕が僕を認めてやれる日が何時になるのか、少なくても今の僕には見当が付かなかった。
それにしても競争か、面白そうではあるし、ワクワクしているのが伝わるからやってみたくはあるんだけれど、そのリクエストには応えられないのさ。
早速提案を却下する事になっちゃった……。
「競争は今度にしようか。リアスも加わってさ。ほら、今日はログハウスに連れて行かなくちゃならない相手が居るだろう? 気にする事が無い状態で楽しもうよ」
「そうっすよ、姫様。人魚とか気絶したままの船員とか居るっすし」
さっきまでポチの唾液でベットベトだったツクシの髪は人魚にターゲットが移っている間に僕が唾液の時間を操って綺麗な状態に戻したんだけれど、髪型まではそうは行かなかったよ、ごめんなさい。
うっ、手櫛で直す最中に味方をしてくれたけれど目が怖い、絶対怒っているな。
「……はーい。じゃあ、今度絶対ね! 絶対競争するんだから!」
あらら、折角機嫌を直したのに残念な想いをさせちゃった、
でも、山積みの人魚とか治療したばかりの船員達を放置しても居られない。
それがちゃんと分かるんだからリアスは馬鹿なんかじゃないよ。
馬鹿なのは此処で始末しろとか庶民は放置しろとか目先の厄介事しか考えない連中の事なんだから。
「おい、夫」
「未だ違うけれど何だい? シロノ」
この船をどうするべきか、ポチに風を操って動かして貰うにしても制御が難しいから困っていたらシロノが何やら用がある様子、途端にリアスが不満そうに僕の肩に置いた手に力を込めちゃうし面倒な内容なら勘弁して欲しいと思っていたら、船を指差した後で自分の顔を指し示す。
「私が運ぶ。先に戻っていろ」
「え?」
運ぶって言ってもどうやって運ぶ気なのか聞く前に彼女は海に飛び込んで船尾まで泳ぐ。
そして船に手を当てたと思った瞬間、泳ぐ彼女に押された船は通常よりもずっと速く動き始めた。
「うわぁ……」
風の魔法は使っていないみたいだし、まさか素の力で船を押してるの!?
凄いって感心するよりも恐ろしさが勝るけれど、後はツクシに見張りを頼んだら大丈夫か。
先に戻っていろ、つまり後からログハウスまで来る気……うん、説明の為にも彼女には居て貰った方が都合が良い、立場も僕の婚約者だし問題は……多分無い。
他の問題が山積みだけれどね!
「ポチ、じゃあ競争しようか?」
「キュイ!」
空中に停止した空気の道を造りだしてリアスを背負ったまま飛び移る。
じゃあ、ツクシにスタートの合図を頼んで楽しい楽しい競争の始まりだ!
現実逃避? はっはっはっ……ナンノコトヤラ。
もう直ぐ訪れる問題から目を逸らしつつ僕はスタートの合図を待つ。
ポチには悪いけれど負ける気は無いからね!
「それにしても凄いな。……バタ足で船より高い水柱が上がっているや。船、大丈夫かな?」
シロノが推進力となった事で帆船は船首が持ち上がってしまう程の速度になっていて、船が壊れないか心配になってくる。
船の上の人達が心配だけど、きっとツクシがどうにかしてくれるさ!
「所でお兄ちゃん。……私だってその気になれば船を泳いで押す位出来るからね?」
僕がシロノを誉めたからか又しても拗ねた様子のリアス、そっかー、出来るのか。
まあ、リアスだからね。
「そうだね。リアスは強い子だから出来るさ」
「ええ! だって私はお兄ちゃんの次に強いもの!」
どうしよう……ウチの妹が最高に可愛い。