肉食系バニーガールと純情系狼娘
なんか伸びてる!? フォロワー多い人がRTしてくれたのかな?
我が生まれた時に遭遇した化け物……そう、神獣である我でさえも恐怖を魂の奥まで刻みつけた女が我を見逃す時に告げた言葉、それは先程の事のように思い出せる。
いや、違うな、頭の中に声が届いたのか?
……駄目だ、記憶が混濁する、何が思い出せる、だ。
「貴様がマロの弟子の相手をするでおじゃる。貴様の潜在能力、あの男を鍛えるのに丁度良い」
要するに我は踏み台、という事か。
血が染み込んだ布を取り出して我の鼻に届けた……屈辱だ、屈辱でしかない。
ああ、良いだろう、必ず弟子とやらを探し出し、我の糧にしてやろう。
……っと、思っていたのだが、狼の肉体から人型の肉体を手に入れた後から考えが変わる。
ああ、そうだ、奴の弟子とやらを屈服させて我の下僕にしても面白いであろうな。
「取り敢えず何を対価にしてやれば良い?」
「分からない」
だが、力で屈服するだけでは品が無い、鞭だけでなく飴もやってこそ真に高貴なる者。
故にロザリーに相談したのだが、相手が悪かった。
「……矢張り肉体か? この体は絶世の美女だからな。ミント、色仕掛けは何をしてやれば良いのだ?」
「さあ? 手を握らせたり頭でも撫でさせたら? キスはやり過ぎね、絶対」
ミントの方は少しはマシかと思って頼ったのだが夕食の準備をしている時に尋ねた時の反応がこれだ。
手を握る……頭を撫でさせる……素肌と素肌の接触……ふぁっ!?
出会ったばかりの男女がだな、流石に……いやいや、余裕を持って提示してやってこそ我の偉大さが通じ、弟子とやらも感涙を流し喜びの境地に達する事であろう。
しかしキス……そうか、それが駄目という事は最後の最後の行為、つまりは……子作りの方法なのだな!
我はフェンリル、群れで存在する……していた誇り高き神獣。
やがて子を成し正しき状態に戻るが……流石にキスをして、し……舌を絡ませて孕むのは早いだろうな、うん。
「良いな、良いな、貴様はっ! 滾る、血が滾るっ!」
全身を蝕む激痛、直撃こそ避けたが全身に衝撃波を食らって内臓も骨も何ヶ所かイかれてしまっているのだろう。
我にぶつかり、我を結果的に助けた盟友を肩に担ぎながら自らを追い詰めた男を睨み、舌なめずりをする
「ああ、良いな、良いな、貴様はぁああああああああっ! 必ず心身を屈服させ、我の下僕にしてくれる! よろこべっ! 我は貴様が欲しいぞぉおおおおおおおおっ!」
歓喜! 興奮! 心の底からの……魂からの欲求!
気を失った友さえ守りながらでなければどうなっていたか分からぬ程の欲求を叫び声に変えた時、それを打ち消す程の轟音が響く。
「そうか。なら、私の敵だ。敵は殺す」
声のする上方から叩き付けられるのは純粋な殺気、私を殺す為に殺す、戦いを楽しむ等々ではなく、それ以外の理由など含まれてはいない感情に闘争本能が刺激されてしまう。
ああ、今はねじ伏せて我が物にすると決めたばかり相手に集中したいのだ、浮気してしまいたくなるから別の機会にしてくれれば良い物を。
素晴らしい殺気を向けてくれた相手に視線を向ける。
褐色の肌に白い毛、そしてウサギの耳。
獣人……それも典型的な獣人の戦士ではなく魔法も使いこなせる器用な者か。
足下の空気が歪んでいる所を見ると高濃度に風が圧縮されているらしいが、肉体を見れば魔法の鍛錬にかまけて戦士としての物が疎かに成っていないのが見て取れる。
あの風の濃度は踏み込みに耐えられる程の物、空中戦だろうと地上と同程度に動けると見て良かろう。
ああ、ああ、何と素晴らしき相手の登場なのだ。
戦え、殺し合え、我の本能が告げる。
只、惜しむらくは……。
「貴様、我が許す。名乗れ」
叶うならば別の場所、他に集中したい相手が居ない時に出会いたかった。
ロザリーの奴が馬肉のすき焼きかステーキのどちらを食べるべきか迷い、片方を気にしているが故に食べている物に集中出来なかった事を嘆いていたが、さもありなん。
「シロノ」
素晴らしい物が同時に複数在る事が素晴らしいとは限らない、気がそぞろになって堪能出来ないからだ。
「そうか、我が名はハティ・スコ……急だな」
奴の名は知った、次は我の番だと名乗りの最中に振り下ろされる金棒。
咄嗟に頭との間に空いた腕を滑り込ませるが防御したという程の成果は得られない。
突起が肉を貫き、殺し切れない衝撃が骨を砕きながら腕を押し込める。
真下に弾かれる腕、多少威力を落としたものの我の額を割るには十分。
やれやれ、相手は誇り高い戦いを望むのではなく、我の死を望んで居るのを忘れていたか。
しかし、何故此処まで?
……ああ、そうか。
異様なまでの殺意、その理由に疑問符が浮かぶ我だが、思い返せば答えは得ていた。
ロノス・クヴァイルを屈服させて下僕にすると口にした事で我を敵と見なしたではないか。
再び振り下ろされる金棒を後ろに下がって避け、シロノの頭に向かってハイキックを叩き込もうとするが宙を蹴って飛び上がられてしまう。
だが、確信が持てたぞ。
この純粋な殺意の理由がな。
「あの男は貴様の男か」
成る程、それで我に殺意を……。
くだらん。
己の物ならば守れば良いだけ、奪われる方が悪い。
「そうだ。奴は我が夫になる。奴を組み伏せ、口付けを交わし、それから犯し尽くして子を宿す。故に貴様は死ね」
「……ふんっ、愚かな」
成る程、獣人の特性からして強い者を伴侶に選ぶのは当然だが、此奴は物を知らんと見た。
しかし、連戦での体力の消耗とダメージの蓄積は重大だ。
何か隙を見て戦略的撤退……いや、認めよう、逃走をせねば己だけでなく同胞すら危うい。
故に少しだけだ、知恵を授けてやるのはな。
「子とは口付けをし舌を絡める事で宿すのだ。貴様、他の方法があるとでも思っているのか?」
無知とは時に罪となる。
何も知らぬ小娘を見下すように自らの人差し指を唇に当てて口付けを示す。
喜べ、我を歓喜させた礼に一つ教えて…やった…。
何だ? 馬鹿を見る目を向けられている気が……。
いや、違う! 実際に馬鹿にされているのだ!
「貴様が馬鹿だ。子とは男の(自主規制)を女の(自主規制)に(自主規制)して、その後は(自主規制)すれば心地良くなるし(自主規制)するので(自主規制)すれば孕む」
「は?」
此奴…一体何を……?
「うっ!?」
混乱の最中、我の頭に意味不明の単語の情報が入り込む。
生まれて直ぐに言葉を発し、人を効率よく抹殺する為に刷り込まれた知識、それは少々特殊な我のは当然特殊であり、偶に知らぬ言葉の意味が……。
「うきゃぁあああああああああああっ!?」
(自主規制)!? (自主規制)!? (自主規制)!?
気が付けば生娘のような叫び声を上げ一目散に逃げ出していた。
今まで平然と口にしていた言葉、それを今頃得た物と照合した結果……。
「んにゃぁあああああああああああっ!?」
は、恥ずかし過ぎて死にそうだっ!
「逃がさない」
背後から空気を踏みしめて迫る気配、逃げられない。
死……。
「転移しなさい!」
我の頭を砕くまで後数ミリまで金棒が迫った時、ミントの声が響く。
咄嗟に言われるがままに転移を発動させて……。
「危機一髪……か」
すんでの所で転移が間に合い、ミントを担いだままの状態で少し高い場所から着地する。
咄嗟の転移故に座標の指定にミスを……。
視界が暗転し、意識が途切れそうになる。
「ちっ! 微かに当たっていたか」
後頭部に走る痛み、足がふらつき意識を保つのも限界だ。
まあ、良い、此処が我等の帰るべき場所なのだ、安心して気を失える……。
倒れる瞬間、ロザリーが慌てた様子で駆け寄って来るのが見えた。