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このゴリラ、話を聞かない

昨日短編投稿しました

「ポチ! 音と匂いを防いで!」


 何か急に漂って来た甘い香り、ちょっと甘いってよりは甘ったる過ぎるって感じだったんだけれど、お兄ちゃんは急に顔を険しくすると海の方角に向かって高く跳びながらポチに声を掛けた。

 有刺鉄線とアイアンメイデンの塀を飛び越えて、ポチが真下に入り込んで背中でキャッチしたんだけれど急にどうしたの?



「近くで歌が聞きたいのかしら? 誰が歌ってるのかは知らないけれど」


「戯け者。人魚の歌について位は習っているだろう、馬鹿者め」



 戯け者って言った上に馬鹿者ってまで言ったぁ!?

 何よ、横から見てるとデレデレの癖にツンデレ拗らせて素直になれないツンデレチャンピオンの分際で!


 ……所でこの歌と匂いがどうしたって?


「人魚の……歌?」


「おい、まさか貴様……」


「だ、大丈夫よ! うん、知ってる知ってる!」


 えっと、誤魔化せている今の内に何とか思い出さないとアホとかまで言われちゃうわ!

 レキアが忌々しそうに呟いてて、お兄ちゃんが慌てて向かって行くんだもの、きっと良い物では……あっ!


「思い出したわ!」


「何だ、矢張り忘れていたのではないか。……まあ、思い出せただけ貴様(ゴリラ)にしては及第点か」


「何よ! ちょっと忘れてただけじゃない! ……所で及第点って何?」


「貴様は本当に……」


 レキアはガックリと肩を落としてわざとらしく深い溜め息を吐き出したんだけれど、流石に失礼じゃないかしら?



「まあ、良い。人魚が男を誘惑する際に魅力(チャーム)を使うのは知っているな? 今では邪道と嫌われると聞くが、それを広範囲にバラまくのがこの歌だ。歌に含まれる魔力が音と匂いで聞く者の精神を支配する。……ふんっ。くだらん真似をしているが、此処に居る男共はちゃんと対応しているみたいだな」


 ありゃあ、レキアったら随分と機嫌が悪いし、気に入らないっぽいわね。

 お兄ちゃんの為に歌っていたのを邪魔されたからね、絶対。


 窓が開く音に目を向ければログハウスに居た連中も気が付いたのか顔を出すけれど、全員揃って魔力を顔に周囲に留めて歌による魅了を防いでいた。

 聴覚と嗅覚の二つを塞ぐ、完全じゃなくたってこの行為を行う事が歌の力を防ぐ手段……だった筈。

 まあ、有る程度魔力のコントロールが出来るのなら頭に留めて歌の魔力を中和すれば良いんだけれど、あれって集中力使うのよね。


「てか、他の皆はちゃんと覚えてたんだ。……ねぇ、所で前から思ってたんだけれど」


「忘れていた方が問題なんだが……何だ?」


「お兄様が面倒な相手に好かれるのも天然で魅了の魔法でも使ってるのかしらね?」


「……馬鹿を言え。私が奴に惹かれたのは……何でもない!」


 はい、自爆貰いました。

 さーて、お兄ちゃんは行っちゃったけれど、何やら面白そうな気がするのよね。

 シロノが来てるって知ってイラッとしたし、この状況じゃセイレーン族の所に行くって雰囲気じゃ無いだろうし……。


「皆さん、落ち着いて行動しましょう。先ずは……」


「殴り込みね! じゃあ私もお兄様に続くわ! ”ホーリーウイング”!」


 ふっふっふ、先生の言葉を全部聞くまでもなく、私が何をするべきなのは分かっているわ。

 この歌を防ぐ為に鼻や耳を塞ぎながら行くのも頭を魔力で覆うのも何か起きた時の対応に困るけれど、女の私には人魚の歌は効かないもの、此処は私がバッと行ってお兄ちゃんの手助けをするべきね。

 思い立ったら吉日、光に翼を出してお兄ちゃんの後を追う気だったけれど、背中にツクシがしがみついた。


「ちょっ!? 姫様、何やってんだいっ!?」


 落ちたら危ないし、ビックリするじゃないに。

 あー、それは兎も角、背中に当たる薄い肉の感触は落ち着くわね、ペッタペタって感じで。

 それにしても急に何を言って……成る程。

 

「ツクシも来るのね? よっしゃ!」


「ええっ!?」


「じゃあ、最高速度で……出発っ!」


 耳元や後ろから何か叫ばれたけれど気にせずに加速、また加速、そして加速!


 最近お兄ちゃんったら妙にパワーアップしたみたいだし、偶には一緒に戦いたいし、アリアには悪いけれど今回は私とお兄ちゃんの共闘回!

 ツクシは……まあ、メイドだし?



「んぎゃぁあああああああああああああああっ!?」


「気合い入った叫びね、ツクシ! じゃあ、更に加速するわよ!」


 周囲の船が襲われるのを気にしたのか、お兄ちゃんったらポチに全速力を出させていったもんだから私も最高速度を出さないと追い付けそうにないわ。

 私の首にしがみついたツクシがブランブラン揺れているけれど歓声を上げる余裕が有るんだから余裕が有るみたい、だったら更に先へ、限界の向こう側へ……突き進むのみ!


 全力で飛ばしていると漸く遠目にお兄ちゃん達の背中が見えて来て、歌の発生源も近い。


「お兄様、どうしたのかし、らっ!?」


 更に遠くに人魚の姿が見えるし、船が沈没寸前で海に投げ出された人達に集まろうとしているのに助けに行かずにその場で激しく動いている。

 観察しようと動きを止めた時、五本の巨大な爪痕が海に深く刻まれながら向かって来た。

 流石にビックリしたけれど楽々回避、真横を巨大な斬撃が通り過ぎ、巨大な獣がその場で爪を振るったみたいに海が切り裂かれ一瞬だけれど海底が見えた。


「ななな……何だいありゃっ!?」


「え? 私だって手刀を思いっきり振り抜いたら似たような感じになるし、多分引っ掻くみたいな指の形で腕を振り抜いたんじゃないの?」


 多分魔法か何かで規模を底上げしているんだろうけれど、ツクシったら大袈裟よね。

 全力出せば手の届かない範囲を殴ったり切り裂いたりするなんて普通じゃないの?


「それは一部の戦闘民族のみっすよ!? ウチ……アタイみたいなちょっと強いだけの一般人は出来ないっす!」


 それを言ったらこの反応。

 いや、一般人って。


「別にこの場には私とアンタしか居ないんだし、言葉遣いは気にしなくて良いわよ。ってか、一人称だけ整えても今更じゃない?」


 地方の慣習らしいけれどウチでもアタイでも同じ気がするのよね、私にとって。

 どうも巨大な爪痕刻んでいる奴とお兄ちゃんが戦って居るみたいだし、此処は私も参戦して大暴れの時間よね!


 共闘共闘、お兄ちゃんと共闘!


「……あー、行く気っすか? 行く気っすよね。まあ、姫様が謎の相手を相手するのなら人魚は引き受けたっすよね。あの程度の数なら相手出来るんで……ぶんn投げて下さいっす」


「任せなさい!」


 ツクシ、此処でぶん投げろって選択肢が出る時点で一般人じゃないわよ、多分。

 そもそもクヴァイル家のメイドが普通な訳がないのに、そんなのの中で暮らしているから感覚が狂うのよ。


「せーのっ!」


 ツクシの背中に手を当てて腰を捻り、沈みかけてる船を見定める。

 メインマストが逆さまになって甲板に突き刺さってるし、あれは完全沈没数分前と見た。


「飛んでけぇええええええええっ!」


 その船の割と面積が残っている場所に向かってツクシを投げれば流石は猫の獣人、空中でクルリンパって感じで体勢を整え着地に備えていた。


 まあ、大丈夫でしょ。





「いぃやぁああああああああああっ!? ちょっ!? これ、予想以上に速っいぃいいいいいいいいいっ!?」


 ……まあ、大丈夫でしょ!




「さてと……お邪魔虫を速攻で倒さないとね」


 ツクシは大丈夫だろうとお兄ちゃんの方に向かいたいけれど、その前に空飛ぶ船に乗って雲に隠れてながらこっちを見ていた奴の相手をしなくちゃ。


 降りてきたその女は私に向かってカンテラを振りながら自信たっぷりに笑みを浮かべていた。



「こうして名乗るのは初めましてね、聖女さん。私の名はミント・カロン。ちょっと相手をしてくれるかしら?」


 ミント……何処かで聞いた名前ね。




「先に言っておくけれど、貴女の魔法じゃ私には勝てないから覚悟……」


「思い出した! ノーパンになった奴ね!」


 うん? 何か偉そうに言って途中だったような……。





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