鈍感フィルター(妖精姫相手のみ発動 理由・幼少期からのツン)
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「ええっ!? トアラスがお仕事するの!? あの男、ちゃんと話したんでしょ?」
リカルドの来訪によって出発が遅れたセイレーン族の隠れ里への訪問、尋問に参加させて貰えなかったから暇を持て余したリアスは中庭でハルバートを振り回して時間を潰していたんだけれど、レキアの希望で日光浴をしながらのマッサージの最中に説明をしたんだけれど、ちょっと不思議そうにしているなあ。
……その変についてはこの子も習っているのに。
「おい、指が止まっているぞ」
僕の膝の上にハンカチを敷き、その上に寝転がったレキアが顔を上げて睨んで来たから人差し指を腰に当ててゆっくりと力を込める。
結構頑丈だから余程加減を間違えない限りは怪我とかはしないだろうけれど、友達に怪我とかさせたくないしね。
「お仕事って言っても本格的な物じゃないさ、今回の様なケースだとね。隠し事や虚偽、誰かに何かを吹き込まれている可能性は有るし……」
「一般人に紛れて潜伏している本業の可能性も有るからな。それでも奴なら調べるのは容易だろう。……っと言うか、奴は貴様の派閥だろうに何故分からぬ?」
「……さあ?」
何が分からないのか、何で分からないのか、それが分からない……って厄介だよね。
「おい、何をやっている。手が止まっているぞ。肩を揉まぬか」
手の平で指をペチペチと叩かれ、僕は慌ててレキアの肩に指を伸ばすけれど、今の大きさじゃ人差し指ではマッサージは難しいかな。
仕方が無い、ちょっと難しいけれど小指でするか。
「ちょっと動かないでね、レキア。力はこんな物で良いかい?」
「あっ、くっ……ふぁ……。そう…だな……。悪くは無い。いや、寧ろ良いな。これは褒美を多めにくれてやらねば妾の沽券に関わりそうだ」
小指の先を小さな肩に押し当てて慎重に力を入れて行けばレキアの口から気持ち良さそうな声が出て、珍しい事に素直に認めるまでして来る。
それにしても結構凝ってるな……。
レキアは肩も背中もガチガチとまでは行かなくても随分と固まってしまっていて、僕は書類仕事を大量に終わらせた後の自分に重ねてしまった。
僕は屋敷に帰ればマッサージを頼める使用人が居るし、パンドラだって事務仕事が大変だからって部下の中にはマッサージを習っているのも居る。
見様見真似の僕のマッサージでさえ効くんだ、レキアは相当こくししているな、これは。
「……ねぇ、レキア。今度から定期的にマッサージが欲しい? 見真似程度の僕じゃなくって、ちゃんと習っている人のをさ」
基本一人で領域の管理をするのが妖精の姫達の仕事だし、マッサージを目的に祖国と持ち場を行き来するってのは本人の誇りがゆるさないだろうけれど……普段から僕を乗り物にする辺り、背中の羽で飛ぶのって相当疲れるんだろうと思うよ。
そんな友人の助けになりたいと思っての申し出だったけれど、断られる可能性も考えていた。
意地っ張りだからなあ、レキアってさ。
「そうか。貴様が言うのなら言葉に甘えよう」
「うん?」
「何だ、その反応は? 言い出したのは貴様だろうに」
ありゃあ、まさか素直に受けるなんて思ってなくて、何度か勧める内に渋々受け入れるって思っていたのに速攻か。
これは素直になった……つまり僕を信用してくれているって事で良いのかな?
「但し、但しだ。当然なのだが妾に触れて良い男は貴様だけだ。特別扱いをしてやろうというのだ、有り難く精進せよ」
「え? 僕がしっかり学んでマッサージするの? 別に男じゃなくてもマッサージとかは出来るじゃないか。メイド長とか他のメイドに教えているし、既に本職に匹敵する腕前らしいよ、あの人」
「ぐっ! そ、それはだな、貴様が……」
あれ? レキア、何か変だな。
悔しそうにしながら何か言いたそうにしているけれど内容が思い浮かばない、そんな所かな?
「ええい! 其処は”分かった、君が満足するように頑張るよ”とでも言う所だろう!」
だって仕方が無いじゃないか、他にも学ぶ事が多いんだからさ。
膝の上でバタバタと手足を振り回して抗議して来るレキアのマッサージは継続しつつどんな風に落ち着かせるべきなのか迷っていたけれど全く思い浮かばない。
流石に理不尽だし、もう甘い物でも与えておけば良いんじゃないのか、そんな風に考えていると……。
「お兄様、ちょっと違うわよ。レキアったら甘えているだけで、マッサージを大好きなお兄様にして欲しいの」
「大好っ!? いやいやいやいや、待てっ!? 誰が誰を大好きだというのだ、このピカピカ女っ! 妾はロノスの事など好きだっ! ……じゃ、じゃなくて、嫌い……では無くて……そうだ! 友だ! 友として好きなのだ!」
まさかリアスが他人に呆れ顔を向けるだなんて驚きだけれども、信じられない事に溜め息混じりの言葉をレキアに向けていた。
言葉と表情の意味を理解出来なかったのかポカンとしていたレキアだけれど、普段呆れる対象に呆れられたんだからプライドが傷付いたのだろう、真っ赤な顔でリアスの顔近くまで飛び上がると指を突きつけながら怒鳴り始めた。
「アンタねぇ、ツンデレもその辺にして置きなさいよ? じゃないと横からかっ浚われるんだから」
其処にトドメの一撃、まさかリアスの二段構えの口撃、そのお陰でレキアの真意を僕は悟った。
「そうか。レキアはちゃんと僕の事が好きで居てくれたんだ。まあ、友達だから不思議じゃないけれど、僕も君が好きだからおあいこだ」
「……おい、肩に乗せろ。マッサージはもう良い、報酬の歌を聴かせてやろう」
僕がレキアの要求の理由が友達にもっと構って欲しいからだと納得したみたいに、彼女も僕の言葉に何か納得する物でも有ったのか、普段は取らない事が多いのに許可を求めて僕の肩に座ると静かな声で歌い始めた。
何時もの少し偉そうな声とは違って心に染み渡る優しく美しい歌声、それに目を閉じる事で集中すると体の疲れが溶け出し、最近の神獣や家族関係で鬱積した物が心から消えて行くようだった。
「相変わらず凄いわよね、このツンデレ妖精の歌って」
歌声に混じって聞こえるリアスの呟きや、花に届く甘い香りに目を開ければ足下が花畑になって色取り取りの美しい花が心を和ませる。
これら全てがレキアの歌によってもたらされた物であり、王国貴族が妖精を飼いたがった理由の一つだ。
可愛らしい見た目だけでなく、心身を癒す歌声まで持っているからこそ狙われた、抵抗する力だって持っているし、それでも油断や策略、純粋さにつけ込む等で捕まった妖精はクヴァイル家によって助け出されたけれどね。
「……あれ?」
ただ、ちょっと歌の内容で気になった事が有るから呟いたけれど、頬をペチンと叩かれたから黙る。
そうだね、今は歌に集中する時間だ、考え事は後にしようか。
……この歌、確か愛を伝える為の歌だった気がするんだけれど、何故選んだのかって理由への疑問より、歌を楽しむ方が重要だしさ。
”何を”歌ってくれているかじゃなく、”何故”歌ってくれているのか、その方が余程大切……っ!?
花の香りに混じって届いた濃密な甘い香り、魔力を込めたそれは沖の方角から潮風に乗って届いていたんだ。
ゆっくりと臨海学校を楽しむ時間はこれで終わりを告げ、争いが始まろうとしている……。