服選び
次回ようやく絵が乗せられるかな?
「うみゅう……」
私は朝が弱い、起きたばかりの時間帯は頭が禄に働かず、会話もマトモに出来ないでしょう。
だから私に必要なのは朝早く起きる事、朝日が大地に行き渡るよりも早く目を覚まし、身嗜みを整える必要が有るのですが、今日は普段よりも早起きを行いました。
「デート、ロノス様とデート……」
寝癖が酷い髪にブラシを掛け、化粧を軽く行いながら呟けば顔が一気に熱くなり、漸く働き出した頭が鈍くなってしまう。
ああ、どうして私は自覚してしまったのでしょうか?
胸に手を当て、自分の恋心に問い掛ける。
悪い気はしない、悪い気はしないのですが、私が普段の私ではなくなってしまうのは戸惑ってしまいました。
どれだけ相手を想っていても、私人としての物よりも個人としての物を優先する、それが本来の私の筈、恋を認め始めた頃、私は確かにそうだった筈。
それが一度認めてからは恋さえも相手の心を得る為に利用する気でしたのに、相手から利益を引き出す予定が、今は私が相手に多くを捧げたいと思っています。
「ロノス様はどれが好みでしょうか……」
こんな状況……ロノス様とのデートの機会を想定して用意した服、普段着やドレス……そして下着、どれを着るべきなのか私自身で考えたく、今はこうして自室で悩んでいる最中、服を並べたベッドを見ていると昨夜を思い出した。
「忘れてはなりませんわよ、ネーシャ。私の目標は側室の中で最も高い地位を手に入れる事、それこそ凡人でしかない妹が皇帝になっても敵わない程の。……そして、新しい目標はロノス様に最も愛される事」
昨夜の醜態を思い出すと顔から火が出る気分になって、思わず両手で顔を挟み込む。
酒に酔って本心ではない事を言った訳ではなく、アレは紛れもない私の本心、私がしたいと思いつつも実行には移せない行為、耳を舐めるとか多少性癖が発露してしまいましたし、何かに目覚めそうではありますが後悔はしていないのは確か。
「本当にあの記憶は何だったのでしょう?」
少し前、不意に私の中に蘇ったロノス様との逢瀬……但し最後の逢瀬であり、悲恋で終わったであろう存在しない出来事。
妄想とか夢だと切り捨てるにしては鮮明で、切り捨てたくはない。
あの方と野外でとはいえ結ばれたという物であり、抱く恋を後押ししてくれた。
あの記憶が無ければ恋を認めつつも地位の為に利用する対象としてロノス様を見ていたのでしょうが、今は地位も財も失ったとしても共に人生を歩みたいとさえ思う。
まあ、地位は地位で欲しいのですが、はい。
最善の結果は全てで、僅差で優先順位が決まっている状態ですわ。
他の妻候補に色々と先を越されている気もしたので(あろう事か同盟を結んだアリアさんにまで)、誘惑したけれど私の純潔は保たれたまま、勢いで失うのも後から悩んだのでしょうが……。
「ロノス様ったら、折角勇気を出してお誘いしましたのに……」
もしロノス様が私の誘いに乗っていたならば、今頃は彼の腕の中で生まれたままの姿のままで眠っていただろう、その光景を想像するだけで胸が熱くなる。
皇帝になれる筈だったのに下らない見栄から片足の自由さと共に失い、手に入る筈だった物以上の物を手に入れる事だけに躍起になっていた今までの人生、それなのに彼が相手ならば、それだけでも構わない、と、そんな風にさえ思ってしまう。
「眠った振りをする私の服をロノス様が静かに脱がし 後に下着すら奪ってから足を広げさせ、そのまま一気に純潔を……」
起きたかも知れない光景は純血を保ったままの私には未経験の内容だけれども、知らない記憶のお陰で鮮明に思い浮かべられる。
只、欲を言えば私の性癖は女優位、奉仕の名目で一方的に攻め立てる、みたいな内容、誘い受けではありませんわ。
「本当ならあの時、ロノス様が私を欲して服を脱がしていた時に邪魔さえ入らなければ……あっ」
時計を見れば考え事を開始してから二十分程、このままじゃ妄想をしているだけで時が過ぎてしまうと慌てて今の下着を脱ぎ捨てて、三つの候補に手を伸ばした。
大人の黒、純潔の白、可愛らしいピンク、見られる事を前提に悩むけれど決めきれない。
ロノス様のお好みはどれなのかしら?
「先ずは服から選びましょう。先ずは……ワンピースで」
一旦下着からは目を離し、先程までの下着を洗濯物を入れる箱に放り込むと服を体に当てて鏡で確かめる。
「この水色のワンピースならピンクかしら? 可愛らしい感じですし。でも、ノースリーブは少し恥ずかしい気が……」
夏なのですし、健康的な感じもするのですが私私は足の事もあって室内での行動が多く、出掛ける時も乗り物の内部、ちょっと色白ですし、それはそれで悪くはないけれども……。
「じゃあ、此方?」
次に選んだのはロングスカートのパーティドレス、長袖で上品な感じが……暑苦しい。
「夏ですし、外に行くのですから。でも、活発に見える物は私のイメージにはは合わない気も……なら、これでしょうか?」
手に取ったのは薄手のスパンコールドレス、色は白。
キラキラ光る金属片で舞台映えはするのでしょうが、デートの衣装としてはどうなのでしょうか?
「何か他に良い物は……」
デートと言っても事態が事態ですし、臨海学校中にはお散歩デートが関の山、ならば煌びやかに着飾る必要も有りませんし、ワンピースが無難かと妥協しようとした時だった。
鞄の奥、今回のような事を想定して用意していた衣装の中にそれを発見したのは。
手にすると伝わって来たのは上質な布質、商会で貴族相手に取り扱っている衣服であっても、此処までの布地は中々無い、それこそ皇帝に献上するような程に高価で上質で貴重な一品。
真っ赤な布地に施されたのは金糸による鳥の刺繍、確か”桃幻郷”に生息するという”鳳凰”なる存在。
この服、東の大陸の衣服の一種で、確か名称は”チャイナドレス”。
下半身の丈は長いものの、深く入ったスリットは足の付け根付近まで。
試しに着てみれば魔法でも掛かっているのか私の体にフィットして、スリットの影響なのか下半身がスースーするけれど動きやすい。
只、どう考えても帝国一の商会である実家の財力でさえ、個人的に使える金銭の一年分を優に越えるであろう品、黄金製で宝石が散りばめられた鎧の方が安価だと思う。
「どうしてこれ程迄の品が私の鞄に?」
皇帝より下賜された養女というのもあるのでしょうが、私は血の繋がっていない方の両親には厳しいながらも不自由なく育てて貰っている。
そんな私であっても財産を集めたとして、着ている最中の服の半額にすら及ばない。
毎月それなりに金を湯水のように使ってはいても、これ程迄の品をローンであろうと買えば記憶に残り、値踏みに間違いの無い自信がある。
ならば何故、その答えはチャイナドレスの下に置かれていた小さな紙に書かれてあった。
「”婚約おめでとう、愛しの娘ネーシャ”……未だ公式には未定ですのに気が早いですわ」
これは両親からの贈り物、血の繋がっていない私の幸せを願って多少無理をしてでも手に入れた品だと理解して、思わず涙が流れそうになるのを指で拭う。
「泣いたら折角の贈り物が台無しですわね。それじゃあ、デートの服も決まった事ですし、ロノス様をお誘いしましょう」
窓の外に目を向ければ早朝から素振りをする姿が目に映る。
汗臭さを気になさるでしょうが、時間が勿体ないので多少強引にも連れ出しましょう。
「うふふふ。楽しみですわ」
杖を手に取り鼻歌を歌いながら部屋を後にする。
この時、重大なミスをしているのに気が付きもせずに……。
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