皇女陶酔
次か次の次には新しい絵を乗せたい 届いたらね
沈黙、静寂、それが今この場所を支配している物の名前だ。
僕達が先ずすべきなのは情報収集、決して殴り込みではないのだけれど、それに自分も同行するとリアスが口にした瞬間、ジョセフ兄様が思わず発した一言を除いて誰も言葉を発しない。
「もー! 何よ、その反応は! 私は一度隠れ里に行ってるんだし、一緒に向かった方が交渉しやすいでしょう?」
「確認するが、お前の言う”交渉”とは殴り合いではないな?」
この時、兄様は真面目な顔で少し心配そうにしている。
これはリアスが拳で語り合う気だと思っているな、僕も一瞬思った。
「そんな訳が無いじゃない! 私を何だと思ってるのよ、全く」
喜び勇み、手を高く挙げての提案に返って来た反応が不満だったのだろう、腕を組みながら頬を膨らますリアスは賛同を求めるように僕達の方を見る。
僕とトアラスは笑顔で誤魔化し、他の皆はサッと顔を背けた。
「ゴリ・・・・・・いや、確かにお前を連れて行く事にメリットはある。少なくても初対面の私達よりは頼られる程に信頼されたお前が居た方が良いのだろうが・・・・・・交渉とは基本的に言葉で行うのだぞ?」
「今、ゴリラって言わなかった? ねぇ、チェルシー。今、ジョセフ兄様ったらゴリラって言いかけたわよね?」
「……さあ? すみません、リアス様。ボケッとしていました」
釈然としない、そんな風な顔のリアスだけれど一旦は話を聞く事にしたらしく、ジョセフ兄様の方に向き直る。
少し睨みつける年下の従兄弟に気圧された彼だけれど、グッと堪えて後退りまでは行かなかったらしく、一度大きな深呼吸をすれば元通りの真面目な顔に戻って言った。
「分かった、連れて行こう。本来ならば危険な行為は教諭や生徒会長である私の仕事なのだがな……」
「えー? 私、ジョセフ兄様より強いじゃない」
「その程度分かっている、良いから話を聞け。例え自分よりも強くても、年下や生徒を守るのが私達の役目だ。故に交渉は私達が行う。お前は橋渡しだけを頼めるな?」
「……はーい」
普段は行動力の塊で動かないで居るのは我慢出来ないって元気なリアスだけれど、信頼している相手の言葉なら大人しくもしていられる。
僕やレナスやレナ程じゃないけれど、ジョセフ兄様だって信頼の対象なんだ。
「一応言っておくが暴れるなよ? 本当に暴れられたら困るからな。大切な事だから言うが大人しくして、決して暴れない事だ。……暴れないでいてくれると助かる」
「いや、四回も言う? ……お兄ちゃーん」
「はいはい、拗ねない拗ねない。よしよし、人前じゃお兄ちゃんじゃなくってお兄様だからね」
まあ、ジョセフ兄様もリアスの事は小さい頃から知っているけれど、言わずには居られないんだろうなあ。
あんまり念押しされる物だから僕の袖を掴んでジョセフ兄様を指差すリアスの頭を撫でて慰めてやる。
うーん、これは僕もクアアと接触した身として同行すべきかな?
「そうか! お前が同行してくれるならば助かる。年上として情けないが、頼らせて貰うからな」
それを伝えると途端に嬉しそうな顔で肩に手を置かれるんだけれど、リアスが不満そうだな。
「……ねぇ、チェルシー。幾ら何でも私とお兄様の扱いが違わない?」
「普段の行動の違いですよ?」
膨れ面のリアスにチェルシーは溜息と共に告げるけれど、納得は行ってないみたいだ。
「……むぅ」
あーあ、これは後でちゃんと慰めて置かないとね。
チェルシーにもお礼を言っておくか、苦労掛けてるしさ。
「じゃあ、先生は何とかウンディーネ族の隠れ里の在り方を探ってみます。何せ妻子持ち、ラブラブですから誘惑されても無効ですよ」
そんな風に惚気るアカー先生の手の中には奥さんと子供と一緒に描かれた肖像画、先生も奥さんも十歳そこそこの見た目なせいで……これ以上は止そう、他の皆も顔見れば同じ事を考えても口には出さないみたいだし……。
そして今後の方針が決まった後、僕達は庭に出て巨大な鍋を囲んでいた。
鍋の具は熊、鹿、野鳥、猪、野兎に虫、皆バラバラに獲物を求めた結果、最初に何を誰が集めるのか打ち合わせの大切さを改めて認識させられる事に。
「うんうん、ネーシャが野草を集めてくれて良かったよ。助かったよ、ありがとう」
そう、僕とフリートは海に行ったけれど、リアス以外はトラウマ級に糞不味いウツボダコしか釣れなかったし、リアスとアリアさんは熊と鹿、アンリが野兎でチェルシーは虫、聖王国では虫食が普通なんだけれど他の国では食べないからか気味悪いだろうって鍋には入れずに枝に刺して火で炙っている、食べてみれば香ばしかったり甘味があったりで結構美味しいけれど、まあ、食文化の違いは仕方無いか。
「いえいえ、ロノス様がしっかりと獲物を持ち帰って下さると信じていますので。ならば将来の妻……いえ、妻になるであろう私の仕事は野菜類を集める事、うふふふ”妻”は気が早かったですわ」
そんな風な僕達の夕食は見事にタンパク質ばかりになりそうだったんだけれども、ネーシャが野草を大量に集めてくれたから助かった、氷の荷車に大量に積んで来てくれて一安心だ。
そんな彼女は僕の横に置いた椅子に座って笑っているけれど様子が妙、変に機嫌が良いというか浮かれている。
もう少し大人しくしているというか……うん?
「ネーシャ、お酒飲んだ?」
「ほへ? お酒でしゅの?」
「あっ、これ確定だ」
隣に座ったし食事中の顔をマジマジと眺めるのも悪いから分からなかったけれど、お酒の匂いがネーシャから漂っているし顔だって赤味が差している。
アカー先生がジョッキで酒を飲んでいるせいか隣で飲んでいても匂いで分からなかったよ。
にしても誰がネーシャにお酒を?
「おい、ロノス。果物を集めて来てやった私には礼の言葉はどうした?」
僕の肩の上で小さくカットした果物を食べているレキア、更に隣には宙にはお酒が浮かんでいて、数滴ずつ彼女の口の中に向かって行くんだけれど漂って来るのは強烈なアルコール臭、それが鼻に届くだけでクラクラしそうだ。
「うん、レキアも気が利くからね。果物は嬉しかったけれど、そのお酒は?」
先生はビールだし、微妙に甘い香りがするから果物系なのかな?
「ふふん、分かれば良い、貴様もマシになったな。この酒は猿酒を運良く見付かったのだ。随分とアルコールが強いが、まあ、妖精の私には大して堪えん」
「それ、ネーシャに分けた?」
「ちょっと興味が有りそうにしていたからな。コップ一杯だけくれてやったが人間にはキツいのか?」
「うん、ちょっと僕も匂いだけで酔いそう……」
これ以上は嗅ぐだけでダウンしそうな程、鍋の臭みが強くなかったら早く気が付いたんだろうけれど一度気が付いたら気になってしまえば意識してしまう。
それはそうとして……。
正直に言おう(口には出さないけれど)、酔ったネーシャが色っぽい。
熱っぽい表情も、体が熱いのか僅かに胸元を緩ませている所も、僕に寄りかかっている所もドキドキしていた。
これ、実は色仕掛けだったりするのかな、それでも少しは構わないとも思ってしまう僕が居るのにも気が付いて居て、どうやら彼女への警戒は随分と取り除かれているらしい。
「ネーシャ、大丈夫? ほら、落としたら危ないからお皿を僕に預けて」
「ふぁーい」
フラフラしながらも僕にお皿を預けたネーシャは僕に寄りかかり、そのまま寝息まで立て始める。
「お酒、弱かったんだ」
こうなってしまったら仕方が無いし、僕は彼女を部屋へと運ぶことにした。
レキアには一旦肩から降りて貰い、ログハウスに入って皆の目が無くなった時、不意に僕の頬にネーシャの手が触れる。
「……ふぅ。キツいお酒ですこと。顔は赤くなりやすくてもお酒には強い方でしたのに、本当に酔い潰れるかと思いましたわ」
「演技?」
「ええ、こうしてロノス様と二人っきりになる為、一芝居打ちましたのよ。……あんな事をされたのに邪魔が入ってそれっきりですもの」
少し拗ねた様子のネーシャに何も言えない。
誘惑された後で押し倒して服を脱がせて、それから邪魔が入った後は……って感じだからな。
その後でアリアさんやレキアとは色々とあったし……。
「もうお母様に告げ口する段階ですが、それで結婚がご破算になるのは避けたい所。……口止め料を頂けますか?」
僕の顔を引き寄せて一瞬だけキスをした彼女は悪戯を思い付いた子供のような顔で僕に囁いた……。
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