熊の首
そろそろ短編書きたい 世界を救った勇者の終わりが悲惨な奴
目の前には後ろ脚で立てば私の倍近い大きさの熊、お兄ちゃんが先に間引きをして危険なの(但し、私達以外にとって)は間引いた筈なのに森が広範囲に渡って焼かれたせいか周辺の生態系がグッチャグチャになったせいで外からやって来たみたいなのよね。
「……熊肉、鍋……は夏だから焼き肉? 野生の熊って臭みがあるのよね。こうガツンと来る系の……」
「グルルルルッ!」
腕を組んで熊の顔を見上げれば唸り声を出しながら前足を振り上げる、普通の熊よりも少し太いし古傷だらけの体からして相当な期間をモンスターとの生存競争を生き抜いたって感じなのかしらね?
口から涎を垂らし血走った眼からして空腹な上に縄張りの異変で気が立ってる、そんな時に私達を餌だと決めたのね。
「……五月蝿い」
「グルッ!?」
私の顔面に目掛けて振り抜かれた前脚を気にせず、熊の目を見ながら静かに呟き、熊の動きが硬直する。
動揺した様子から震えだし、怯えた様子での後退りを数歩、背を向けて四つん這いになると一目散に逃げ出そうとし、尻尾を片手で掴んで動きを止めれば必死に四肢を動かして爪で地面に穴を掘っていたんだけれど、掻き出した土が私の方に飛んで来て、その上足元からの異臭。
熊、脱糞して私の靴先が汚れた、服にも土が掛かった、靴先に金属を仕込んだお気に入りの靴なのに……。
「……ぶっ殺す」
ちょっと技の練習台にしてから狩ろうと思っていた私だけれど、この時点でその気は失せる。
宜しい、全力で相手をしてやろうじゃないの。
尻尾を掴んだ手に力を込め、ブチブチと尻尾が千切れそうな音を立てているのも気にせずに真上に向かって放り投げ、地面が爆散する勢いでの踏み込みでの跳躍。
天地逆転の状態で宙を舞う熊に追い付いた瞬間に回し蹴りを叩き込む、首が飛んで段目から血が噴き出しそうになったので胴体に力加減した蹴りを放って距離を取り、私が木の上に着地すると熊は木を何本も薙ぎ倒しながら突き進んで地面を削りながら岩にぶつかって漸く止まった。
「さて、他にも獲物を探さないと」
「リアスさーん! そっちは何を仕留めましたかー?」
「あら、アリアも獲物を手に入れたのね」
熊一匹じゃ物足りないかも知れないし、他にも探す前に熊の死骸を運びやすい様にバラそうと手刀を構えた時、鹿の足を掴んで引っ張りながらアリアが近寄って来る、
ちゃんと教えた通りに血抜きをしたのか首の辺りの皮が赤く染まっているみたいね、結構結構。
でも、ちょっと傷が大き過ぎかもね。
角だって地面で擦れた時に折れたのか片方しか無い上に、残った方も途中から折れてしまっている。
「立派な鹿じゃない。血抜きの奴の他に傷が無いけれどどうやったの?」
「シャドーナイトで動きを止めて、リアスさんから頂いたこのダークマターで頭をガツンとしたんです。その後で影の剣で血抜きを」
少し嬉しそうにしながらアリアはダークマターを掲げて見せる、流石は二周目からのチート武器、鞘から抜けないから鈍器にしかならないけれど、鈍器としては優秀みたいね。
鞘の目玉が泣きそうな感じでこっちを見ているわね、プライドが傷付く使い方だったのかしら?
刃が使えない時点でアリアの全能力と闇属性魔法の威力を底上げする以外にナイフとして破綻している癖に生意気ね。
「服に返り血が付いているわよ。ちゃんと洗いなさいね」
本人は気が付いていないみたいだけれど袖に血の染みが出来ているし、靴だって血を踏んだらしい状態、全くこの子ったら……。
「はい! 実家では殆ど自分でさせられていたので洗濯は得意なんです。血の染みとか落とすのは慣れていますので」
ニコニコしながら話すけれど、貧乏貴族だろうとお嬢様が自分の服を洗濯するとか普通じゃない、私はルメス家の狂いっぷりに絶句しそうだった。
「いや、唐突に重い過去ぶち込むわね、アンタ。まあ、話は帰ってからにしましょう。面白い怪談話を思い出したし、夜は怪談大会ね」
お兄ちゃん、もうアリアをお嫁さんにしてあげれば良いのに、私の友達でもあるし、強いんだから大丈夫じゃないの?
プルートだって居るんだし、こう光の聖女の血筋に闇が合わさって凄い事に見える、とか。
私は熊を担ぎ、頭が何処に行ったのかキョロキョロと周囲を見回して探すんだけれど、蹴りの衝撃で飛び出した目玉が地面に落ちて潰れているのが見つかっただけで何処に行ったのかサッパリ分からない。
脳みそは別に好きじゃないんだけれど、顎とか発達している部分の肉の噛み応えの良い部分が好きなのに、こうやって見つからないとモヤモヤするわ。
「ねぇ、アリア。熊の頭が何処かに飛んで行ったんだけれど見なかった?」
「頭ですか? えっと、此処に来る途中、木の隙間を縫って何かが飛んで行っていましたけれど……」
「向こうに飛んで行っちゃったかあ。……今から探しても大丈夫かしらね?」
やってしまった、私は頭に手を置いて空を仰ぐ。
どうせなら大物が良いと思って中途半端な獲物は見逃したし、頭の無い熊一匹ってのは中途半端よね。
空を見れば遙か彼方がうっすらと赤く染まり始めているし、熊の頭一つを探すには集合時刻まで間に合わないかも知れないんだけれど、こうやって食べられる筈だった好きな物が食べられないモヤモヤって後を引く訳だし……。
「うっし! アリア、ちょっと熊見てて。パッと行って、ザッと探して来るから!」
「え? リアスさん、もう急がないと間に合わない……」
「じゃあ、行って来るわね!」
担ぎ上げていた熊の胴体を一旦地面に置いて、アリアが指差した方向に向かって一直線に走り抜く。
目の前の木は軽く手で触れるだけでなぎ倒せるし途中からそれも面倒になったから強引に弾き飛ばしながら進めば森の端が見えて来て、熊の頭も発見した。
「発見っ! って、あの馬車は……」
どうも蹴り飛ばした熊の頭は森を抜け、直ぐ横の道を進んでいた馬車の幌を反対側まで貫いてしまったらしい。
停止した馬車の幌に見事に開いた二つの穴、馬車を挟んだ反対側に頭が転がっていたんだけれど、もしかして怪我人でも出しちゃった不味い状況?
って慌てて止まったら幌に描かれた学園の紋章、つまり学園関係者が乗ってるって事なんだろうけれど、穴から顔を覗かせた人と目が合った。
「やっほー! ジョセフ兄様、どうしたのー?」
「うげっ!? リアス!」
……わーお、失礼な従兄弟ね。
父方の親戚と会ったから挨拶しただけなのに、向こうはこっちを見るなり顔を青ざめさせる。
スッゴく不愉快!
……戻ったらレナに言い付けちゃえ、ジョセフ兄様がレナに惚れているって知ってるんだからね!