釣果は……
もう直ぐ総合2200!
「もー良いよ! 馬ー鹿ー!」
あれから何度もリアスに会いたいとか、僕達も強そうだからウンディーネ族の助っ人の相手をして欲しいとか、お礼はするそうだけれど、僕達は高位の貴族の上の後継ぎだ、リアスの話を聞く限りじゃ確かにお宝は多そうな感じだったけれど、だからって全部寄越すのは今後の生活に関わるだろうから無理な話だし。
僕達が何度頼んでも受け入れないからだろう、子供みたいな事を言って水柱を急速に戻して海に飛び込むと最後に僕達の方を振り向いた。
「アッカンベー!」
眼の下を指先で引っ張り、舌を出して左右に激しく動かす。
ちょっと馬鹿っぽいって思ったけれど、子供っぽいし馬鹿っぽい……彼女だけじゃないけれど、あんなのを見ているとさ……。
「凄く時間を無駄にした気分だし、僕達に侮らせる演技だって思いたいな。そっちの方が厄介だけれど」
「……だな。いや、演技だとすると名役者も良い所だし、騙されたって事だからな」
正直言って疲れたとしか言えない中、僕達は一旦他の釣り場に向かおうって話になった。
この場所で居続けるとクアアをどうしても意識してしまいそうだからね……。
「しかし”モテているから”って自分で言うかよ、普通」
うわっ、それを敢えて言う!?
釣り具を片付けて移動しようとした時に不意に告げられる弄くる言葉、自分でも何となーく感じた事だし、向けられた視線で分かっていた事だけれどさあ。
ニマニマしている顔が腹立たしい、”俺様”みたいな一人称とか平気で使っている癖にさ。
そっちがそう来るならさ……僕にも考えがあるよ?
「そのネタ、今度口にしたらチェルシーには黙っていてあげているネタを告げ口するからね? 彼女、小さい頃からの知り合いだから、熱々の君の言葉だろうと信じてくれるかな?」
学園にコッソリ持ち込んでチェルシーに隠れて回し読みしている本とか、遊びに行った時に見た、幼い頃から仕えているメイドさんへのスキンシップ(過剰)とか……いや、レナには負けるって言うか、彼女の場合は過剰を遙か彼方に置き去りにしているけれどさ。
「はっ! 俺様についての事だからこそ、お前が言うようなネタの内容を信じるだろうさ。甘いんだよ。……いや、これって自慢気に言う事じゃねぇな」
「だね」
一ミリたりとも自慢にならない、分かっていたけれど僕も家臣の人も口には出さない、表情を見れば本音が丸分かりな感じだった。
さて、それからの事を軽く語ろう、結論から言うと僕達はそれなりの数の猪を狩る事が出来た。
……釣りじゃなかったのかって?
僕は矢っ張り呪われているっぽくって、フリートは餌を針に付けるのも一苦労している有り様なんだ、詳しくは聞かないでやって欲しい。
彼は何だかんだ言っても友人だしね、恥を広めてやりたくないんだ。
「結構な量になったな」
「どうやって持ち帰ろうか……」
目の前には積み重なった猪の山、海釣りの釣果がサッパリで、このままだと集合時刻を超過するまで粘っても手ぶらで戻らないと行けないからと、何度も海釣りのポイントを変えて最終的に川釣りをするかと森に入ったんだ。
その結果、何かから逃げていたのか恐慌状態に陥った猪の群れに遭遇、それを狩ったのが今現在って所だ。
「所でフリート、体の方は大丈夫なのかい? まあ、リアスの回復魔法は凄いからね。可愛い上にゴリラみたいに強くって魔法まで凄いだなんて本当に自慢の妹だよ」
「心配したり妹を誇ったり忙しい奴だな、テメェ。まっ、あの程度の奴に負わされた怪我なんざ俺様にとっては掠り傷よ。……てか、俺様が言うのはアレだけれど、ゴリラって言ってやるなよ」
「……何で?」
力強く純粋、そして群れで暮らす動物みたいに仲間を大切にしていて、野性的な逞しさも持ち合わせている、僕が妹をゴリラ呼ばわりするのはそんな理由からだ。
その程度は知っているだろうに、フリートったら何を言っているのやら。
「いや、もー良いわ。あのブラコンの事だ、テメェの場合のみ気にしてねぇだろうしよ。にしても……テメェとこうやって行動すんのも久し振りか?」
「言われてみれば……」
”偶には俺様に付き合いな”的なノリで釣りに誘われたから今こうして狩りをしているんだよな、僕達。
勢いがあったとはいえ、自分でモテるって口にする程度には女の子に囲まれていて、最近は彼女達と連む事が多かったし、フリートと行動する時に他の友達が居ないのは学園で馬鹿話でもする時程度か。
……護衛の騎士が居るけれど、一緒に遊ばずに遠巻きに警護している状態だしさ。
「もしかして寂しかった?」
僕も家が家だけに友達と呼べる相手は少ない、国内部のパワーバランスを考えれば仕方が無いんだけれど、寂しい話だとも思う。
前世では友達がそれなりに居た事を思い出しつつ今の状況を当てはめてみれば納得いく答えが出た。
「君も友達少ない方だし、その少ない友達の僕が他の人と仲良くしているからだね」
「殴るぞ、ボケが」
おっと、危ない
本気では無いけれど、殴るぞと言いながら振るわれた拳を避ける。いや
……これってツンデレって奴なのか?
うん、基本的に素直じゃないだけって判明したレキアに聞いてみようか、分かるかもだよ、同類だったら。
「……おっと、そろそろ夕暮れ時、集合時刻か」
「大量は大量だけどよ……殆ど時間を無駄にしたよな」
空を見れば西側が赤く染まり、もう直ぐ夜の帳が降りる頃だ。
猪の血抜きは済まているし、僕の魔法で担架みたいなのを作って運ぶしかないのかな?
「……それにしても、此奴達は何から逃げていたんだ?」
「テメェの妹じゃねぇの?」
「かな?」
この猪達はダンジョンから湧き出し、魔力を持つ存在であるモンスターとは違う普通の獣だ。
フリートが相手をしたビリワックって神獣のせいで森の獣の縄張りが乱れてしまったのは予想が可能だけれど、この猪達を一体何が追い詰めたのか、リアスだというのは早計だろう。
ふと一番後ろを走っていた小柄な猪の臀部を見てみれば鋭い爪で切り裂いたみたいな傷痕、他にも拳がめり込んだ痕がクッキリ残っているのも居たんだけれど……。
「いや、リアスじゃないよ。あの子なら逃がす不手際をするしないとかじゃなく、この拳の痕でハッキリと分かった。あの子にしては拳が大きい。……いや、成長期だし分かれた後で大きくなった可能性も?」
「有るか! 本当に妹が絡んだらポンコツだな、テメェは! ……なら、一体誰が逃がしちまった? 他に素手で切り裂いたり拳の痕を残せる奴が居たか?」
「拳だけなら数人居るけれど、爪痕や逃がす不手際を考えたら多分居ないから、僕達以外の誰か、かな? それこそウンディーネ族の助っ人とかさ……」
今更だけれど人魚の戦いに首を突っ込もうって奴だ、正直マトモなのを想像出来やしない。
いや、問題は其処じゃなく、話を聞く限りじゃ強いみたいだ。
何が目的なのか、それこそ本当に人間なのか、そんな疑問ばかり浮かんでいた。
「一応先生が昨日の内に学園に報告して指示を仰いだらしいけれど、人魚の争いとかどうなる事やら」
「まあ、俺様達が考える事でもねぇだろ。テメェは他にも悩む事が多いんだからよ」
本当に厄介な事に巻き込まれそうだ、と、僕とフリートは顔を見合わせた。
「……そろそろ到着か。全く、どうしてこうなった」
一方その頃、僕達が泊まっているログハウスに近付く馬車があった。
幌には学園のエンブレムが刺繍され、学生が一人乗っている。
「いや、本当に私の代でこんな事態が起きるだなんて……胃が痛い」
キリキリ痛む胃を押さえながら彼、生徒会長ジョセフ・クローニンは深い溜め息を吐き出した。
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