宝物庫
漫画乗せてます
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「うーん、良い物が無いわね。ロザリー、アンタは何か気に入った物でもある?」
人魚の宝物庫で宝の山を漁るけれど、どうやら高く売れそうな物を優先的に売ったからか、これ! って感じの物は見当たらない。
いや、それでもそこそこの商家なら家宝にしてそうな物は有ったのよ? 今私が持っている金貨だって聖女として演説をした教会に代々伝わってるっていう物と同じ記念硬貨らしいし……この横顔が初代聖女、要するに私のご先祖様って訳ね。
お小遣いには良さそうだけれど、こんな場所まで来てお小遣いを稼いでも何だかなあって感じだし、普通の武器も幾つか有るけれど、宝石がジャラジャラ付いたハルバートとか実戦じゃ使い物にならないわよね。
「……うん、これはミントへのお土産に良さそう」
ロザリーもさっきから金細工の装飾だらけの槍を眺めていたけれど、直ぐに興味無さそうにして一つの兜を取り上げた。
何というか、どうしてそんな物が宝物庫にって感じの変な一品、アホ面をした猫の顔の形をしていて、大きく開いた口の部分から顔が見えそう。
「ミント、猫が好きだから喜ぶ」
うん、友達の為に選ぼうって考えは悪くないわ。
わざわざ紐パンを探しに此処まで来る位の友達何だし。
でも、それで喜ばれるって思うなんて……。
「それを喜ぶのは猫好きでも少数だと思うわよ?」
でもまあ、私の物にしようって思うから選べないだけで、そもそもお土産が欲しいとも思ってたんだからそれで良いのよね。
……巨乳になれるアイテムとかあれば良いんだけれど。
「ねぇ、胸が大きくなる物とか無いの?」
「僅かな時間ですが身長が五倍になる腕輪が有りますし、それを使えば胸囲だって……」
長ってんなら把握しているだろうし、聞いてみたらヒビやら錆やらで結構壊れるのが早そうなボロッボロの腕輪を差し出される。
「うんうん、これを使えば胸の大きさも今の五倍の超巨乳になるって寸法ね!」
……いや、ならないか、胸だけ五倍なら良いけれど、他も五倍なら貧乳のまま……いや、私は貧乳じゃないけれど!
実の母親は……前世も今も殆ど覚えていない、前世に世話をしてくれたのはお姉ちゃんで、今の私の母親だって物心が付く前に死んだから肖像画でしか顔を知らない。
まあ、私の母親だから胸囲の方はお察しでしょうね。
でも、乳母であり私にとっては実の母親同然のレナスは大きいし、レナだって大きい、お姉ちゃんの前世の胸は……うん、でも、今のお姉ちゃん、テュラの胸は凄いし、戦う時に邪魔になりそうとは思うんだけれど、大きな胸には憧れるのよ。
まあ、私って別に貧乳って程じゃないし?
それでも貧乳貧乳って言ってくる連中が鬱陶しいだけだから大きくしたいだけだし?
「アンタ、ちょっと私を馬鹿にしていないかしら? 男扱いしたり、胸を大きくするんじゃなくって全身を大きくするのだったり」
”お前もこうしてやろうか?”、そんな意思を示すみたいに長の目の前で腕輪を握り潰す。
見た目はボロボロでも、魔法の腕輪だから鉄よりは丈夫な腕輪は私の手の中でクッキーか何かみたいに砕け散って、その破片を振り払う。
壊しちゃったけれど、これを私の分だって言えば良いわよね。
本当はポチの分をお土産にすれば良いけれど……。
「キューイキュイキュイ!」
ポチはお宝に興味が無いからと元々の目当てだったイルカイザーを貰う事にして、今は仕留めたのを岩の上に乗せて顔や前脚を血塗れにしながら解体している所だった。
「な、何と……」
いや、その光景に引いているけれど、人魚って人間を食べるじゃない、そっちの方がドン引きよ。
「取り敢えず壊しちゃったから私の分はこの腕輪で良いとして、謝罪を要求する」
「申し訳御座いませんでした。その腕輪は別で宜しいのでお好きな物をお選び下さい。……どうも部族間の抗争が起きそうで気が気でなく、何度も失礼な真似を」
深々と頭を下げる長、彼女から何となく話を聞いてみたんだけれど、宝を手に入れた頃、部族が二つに分かれたらしい。
この周辺は目の前の長が仕切る”セイレーン族”で少し離れた場所に”ウンディーネ族”って連中の里があるらしいんだけれど、宝はちゃんと分けたけれど、一番価値のある二振りの刀だけは結束の証として一定周期で相手に渡す……予定だったけれど。
「まさか酔っ払って、遊ぶ金欲しさに”買い直せば良いや”という感じで売り払ったらギャンブルでボロ負け、損を取り戻した頃には行方知れずになるとは。あの時、ジョーカーさえ来ていれば負けなかった物を」
「いや、何やってるのよ。取り敢えず反省しなさい。絶対していないでしょ」
「此処数十年は仲違い気味ですし、前回向こうに渡した時に”紛失でもしてみろ。敵として徹底的に叩き潰す”と言ってしまって。一体どうしたら……」
大きく溜め息を吐く長だけれど、知った事かって話なのよね。
だって割と自業自得だし。
人魚って基本的にボンッキュッボンって感じだし……なのは微塵も関係無いとして、別に人魚族とは友好的な関係じゃないし、此処って王国の領土、私が何かやる理由が分からない。
……幾ら本能で普段は別として、人魚族が人間を食べるのには代わりが無いのだし。
「……出来れば臨海学校が終わった後にしてちょうだい。さて、何か良さそうな物は……うん?」
カタカタと金属がぶつかるみたいな小さな音に横を見ればロザリーが短剣を差し出して来ている。
切るってよりは刺すって感じの形の刃をしているのが鞘の上からでも分かるんだけれど、その鞘ってのが凄く不気味。
黒っぽい紫色が毒々しい感じで、中心辺りに目玉の装飾……装飾よね?
ロザリーの親指が丁度目玉の中心辺りに触れているんだけれど、まるで目玉に直接触られる痛みに悶えるみたいにギョロギョロ動いているし瞬きしようと目蓋が動いている。
「はて? その様な短剣、有りましたっけ?」
「真っ黒い箱の中に入ってた」
「ああ、例の全く開かず壊せもしないので放置して忘れていた箱ですね。妙な見た目ですし、売っても二束三文でしょう」
「何か適当な感じね。……あれ?」
妙に引っ掛かる感じがしたから短剣を改めて観察する。
柄も鍔も真っ黒で装飾は無し、鞘から伸びた細く小さい鎖が鍔に絡まって刃は見えないけれど、これじゃあ確かに使い道が無さそう。
長も覗き込んだ後は直ぐに無関心って様子だし、私的には格好良いとは思うけれど……。
「まあ、良いか。何か気に入ったし、これを貰って行くわね。……箱はセットかしら?」
因みに腕輪の破片は腕輪の破片で貰って行くわ、お兄ちゃんに直して貰ったら使えるだろうし、ポチを巨大化させたら面白そうだもの。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。ポチ、もう解体は済んだでしょ! 帰ったら遊んであげるから行くわよ!」
「キューイ!」
お気に入りだった牛の骨の代わりにはなったのか、イルカイザーの尻尾の辺りの骨を前脚で掴んだポチは嬉しそうにしていたわ。
私は壊れた箱に腕輪の破片と短剣を……どうせだったら名前を……。
「ねぇ、ロザリー。この短剣の名前って何が良いと思う?」
「……”ダークマター”、その短剣の名前はダークマター」
「よし! じゃあダークマターに決定!」
何故かしっくり来たし、ロザリーの言った通りの名前で良いわよね。
私はダークマターも箱に仕舞い込むとポチの背中にロザリーと一緒に飛び乗る。
「キュイ!」
その鳴き声と共にポチは翼を広げ、私達は滝に向かって飛び上がった。
所でうっかり売っちゃった刀ってどんなのだったのかしら?
まあ、気になるけれど、とっくに売り払ったんだから今は無いんだし、どうでも良いか。
「ああ、困った。”夜鶴”と”明烏”を見つけないと争いが起きてしまう」