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人魚の宴

「久々のお客様、存分に歓迎致します」


 ループする十字路を抜け、地下に向かう滝を下り、やって来たのは壁一面が金ピカの空間、空間の中心にウェディングケーキみたいに平らの岩が幾つも重なった上に乗った水晶みたいな物が光を放って周囲を照らすんだけれど、それでも奥の方には光が届かない位に広くって、向こうの方にもぼんやり光るのが見えたから同じ物が有るんだろうけれど、私は別の物に目を奪われていた。


「パンツ、沢山。ブラも……あっ、私のと同じ位」


 そう、滝壺に一番近い岩に私達は座っているけれど、水晶の周囲には古いのも新しいのも合わせて沢山の女性用下着や水着、ロザリーはメロンが収まりそうなブラを手に呟いている……けっっっっ!!


 そんな私の周囲を泳ぎ回るのは此処の住人達、濡れた髪が張り付いたのはボンッキュッボン! だらけの(……けっ!)女達、胸にホタテみたいな貝殻を貼り付けただけで動く度に容赦なく揺れ、私を苛立たせる。

 ジャブジャブと水面を揺らすのは下半身の魚の尻尾、此処の連中、全員人魚。


 私達に魚や海草の料理を出し、見事な舞を見せて宴を開いてくれているから気分は浦島太郎って所。

 亀を助けたんじゃなくってイルカを追ってやって来たんだけれど。

 歓迎の理由? さあ? 分からない……ってか分かりたくない。


「綺麗な金髪ですね」


「ふふふ、素敵な方」


 宴の主賓は二人と一匹、なのに人魚達の殆どが集まっているのは私の周囲、ウインクしたり谷間を見せるようにしたり、これって誘惑されていない?

 私、そっちの趣味は無いから困るのよね。



「キュイ!」


「うっさい、黙れ。羽根全部毟るわよ?」


 ポチが余計な事を言って来るけれど、私はそれを否定する、だって私が男扱いされる筈が無いんだから。

 胸がまっ平らだから男かもって言われてなんかいないんだから!



 だから少しふてくされた気分になりながら料理を食べていた頃、一番年上っぽい、それでもボインな美女の人魚が私を取り巻く若い人魚を追い払い、急に頭を下げた。


「あの、お客様。突然の事で失礼ですが……此処の娘達と子供を作って頂けませんでしょうか?」


「……は?」


 言葉を失うとはこの事だろう、此奴等の目は節穴だっ!


「突然の事で驚きでしょう。ですがこれには訳があるのです。我々人魚族は遥か昔に一人の人魚が恋人から譲り受けた宝を換金し、人目から離れた場所で暮らしていました」


 私が大勢の人魚との子作りを頼まれた事に驚いているとだけ思ったのかその人魚(どうやらこの周辺の人魚族の長らしい)は色々と事情を話し始めた。


 人魚族は子作りをした相手を食べる習性があるから恐れられているし、繁殖行為の時にしか食べないにも関わらず(十分怖いけれど)モンスターのように扱われているらしい。

 だから人間に化けられる魔法を使える人魚が調教したモンスターに着る物を盗ませるんだけれど、何を勘違いしているのか、それとも人魚族って胸を隠す貝殻しか着けないからか、今この場にあるような下着や水着で出歩くらしい。


「そうしたら何故か襲われ、その結果本能から相手を食べようとして更に恐れられる結果に。人間は本当に恐ろしい種族です。だから我々はこの様な場所に引きこもっていたのですが……」


 因みにあのウツボダコは住み着いた野生ので、盗んだ物を持って帰って来ても途中で食べられてしまうから面倒だったらしい。


 ……にしても、そりゃ強姦魔が悪いけれど、美女が水着や下着姿で更に金目の物を持って歩いていたらカモがネギと鍋とガスコンロ持ってやって来たみたいじゃない。

 いや、本当に種族間の価値観の違いって面倒だわ。

 てか、買い物に出た先で明らかに服装が違うのに気が付きなさいよ、それと着る物も買えば良いでしょう。


 それを伝えると長は驚いた様子だけれど、誰も出先で注意されなかったのね。

 裸の王様は見栄で大人は何も言わなかったけれど、裸同然の美女には何か言いなさい。


「そ、そうなのですか!? まさか服装が変だったとは。いえ、宝を残した男はこの様な服装ばかりをその人魚にさせていたそうでして……」



 その後の話を要約すると、今のままじゃ子孫が絶えてしまう、だから伝承された本能を抑える為の結界を張ったまでは良かったけれど、古代の魔法なので伝わって無かったけれど一歩でも出れば戻れなくなる類の物だったらしい。


 因みにあのウツボダコは番人みたいな物で、私の強さを見て是非……殴ってやろうかしら、此奴等。

 

「私、男じゃないんだけれど」


「……は?」


 長の話が終わる途端にすり寄って胸で腕を挟んでみたり投げキッスしたり本格的に誘惑を開始した連中も長も私の言葉に固まり、証拠とばかりにスカートを捲って見せてやる。


 本当にどうして私を男と間違えたのやら。

 ……胸? 胸とか答えたら全員が泣いても殴るのを止めない。


 一旦私から離れて何やら相談を始める人魚達。

 やがて長が私の前までやって来た。




「な、なーんちゃって! 人魚風冗談でーす!」


 テヘペロって感じに舌を出し、一斉に頭をコツンと叩く人魚達、うわぁ、ムカつく。



「……そう。冗談よね。そうに決まっているわ。まあ、冗談なら別に良いわよ。胸を原型無くなるまで叩き潰すのは勘弁してあげるわね」


 ぶっちゃけ冗談じゃ無かったんだろうけれど、それを指摘するって事は、私が男と間違われたって認める事になるもの。

 だから受け入れてあげようじゃない、冗談だったって嘘を。

 





「でも、一応全員殴らせなさい」


 これはこれ、それはそれ!




「あのさ、私は思うのよ。人死にと体型に関する冗談は駄目だろうって。私は確かに小さいわよ? でも、別に貧乳って程じゃないし、それを男扱いするのはどうなのかしら?」


「大変申し訳有りませんでした……」


 これが漫画の中だったらデッカいタンコブが出来ていたんだろうって思う状況、この場の人魚全員の頭に拳骨落としてやったから。


「キュィ……」


 ついでにポチも、だって私が男扱いされたのを知って笑ったもの。

 頭を押さえて涙目になってうずくまって、ロザリーが拳骨落とした所を撫でている所。


「ったく、今回はこの程度で我慢してあげるわ」


「はっ、はい! あの、お詫びと言っては何ですが、宝物庫にご案内致します。ウツボダコを退治して下さったお礼も兼ねてお好きな物を一つ持ち帰って結構ですので」


「……お宝あるの?」


 ロザリーは反応したけれど、私は正直言って興味無いのよねー。

 装飾品より武器の方が好きだし、家は大金持ちだもの。


「珍しい武器とかある?」


「珍しい武器ですか。何やら伝承が残っている物があったらしいのですが、今はなくなっていまして……」


 さっきの話からして売り払った宝の中に私の興味を引く物があったらしく、長が言いにくそうにするから察した。

 ふーん、だったらイルカイザーの骨を貰って帰りたいんだけれど、ロザリーは興味深々って感じなのよね。

 ポチは……。



「キュイ?」


 あるわけないか。

 だってグリフォンだもの。


「まっ、土産話にはなるでしょう」


 大昔のお宝、結構換金してしまったらしいけれど話の種になる位は残っているでしょうし、旅行先で温度計付きの置物を買って帰る位の気持ちでお兄ちゃんへのお土産選びましょう。

 ……お姉ちゃんが次に接触してくれた時に渡すのでも良いし。




「此方です」


 長に案内されてやって来たのは岩壁の前、二枚の壁がくっついて間に僅かに隙間が見える。

 これって”開けゴマ”って感じに開けるのかと思ったら、手で触れただけで前方に向かって左右に開く。




「此処が宝物庫です。かなりの額を換金しても殆ど残っているのですが……先程言った”珍しい武器”、それを誤って売ってしまった事で今、大いに困っていまして……」


 金銀財宝の山を左右に置いて中央の台座に飾られたのは刀を置く為の台座。

 片方は普通サイズだけれど、もう片方は槍位に長い刀を乗せるようになっていた。




「彼処に納められていた二振りの妖刀、それが無い事で部族間の抗争が起きそうなのです」

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挿絵(By みてみん)

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