グリフォンの憂鬱
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「ねぇ、この道って三回目じゃないの?」
ダメージがあったのか水路を泳ぐイルカイザーの動きは何処かぎこちないし、縦穴や横穴に逃げ込まれたら面倒だから石を投げたりして進路を強制していたんだけれど、十字路になっている場所で逃げられた。
最初この道に来た時には直ぐ近くに居たのに、一本道がずっと先まで続いていた筈が端から端まで移動した途端に目の前にまた十字路が現れて、イルカイザーとの距離が開いたのよ。
左右は岩壁だったのに道が出てくるなんてビックリね、死角になっていたのかしら?
「ポチが一撃入れる前から彼処まで速くなかったわよね?」
「うん、私が泳げていたら走って前に立ちふさがっていた」
単純な速度なら湿った砂地の上だろうと私達が走った方がイルカイザーの泳ぎより速いんだけれど、ずぶ濡れになるのは嫌だから水に飛び込むのは避けていたし、だから水路に点在する穴に逃げ込まれないように牽制しつつ捕まえやすそうな場所まで追い込む予定だった。
でも、今はこうして一気に距離が開いちゃったわ。
妙だなって思ったけれど、本気で逃げたんだって思ってもう一度端まで行ったら更に距離が開いて十字路がまた出て来る、これの繰り返し。
「・・・・・・ループしてる?」
ロザリーの言葉を聞いて考えて見れば、確かに壁には私がモンスターと一緒に手刀で切り裂いた跡が残っていて、天井にはモンスターを投げ付けた上で拳を叩き込んで開けた穴から日差しが差し込んでいる。
死骸は邪魔だから水に投げ込んだせいで気が付かなかったけれど、これって最初に通路に来た時の物よね、多分。
「試してみるか」
後ろを振り向けば見えた景色は十字路じゃなくって、最初に十字路に足を踏み入れた時の物。
振り返らずに前進あるのみって感じだから気付けなかったわ。
でも、一応検証してみないと。
壁の岩をむしり取り、何個か投げる。
全部で三個、通路の向こう側に消えて行った物の内、二個が後ろから通り過ぎて、二回目で漸く地面に落ちたけれど、イルカイザーに目掛けて水中に投げた物は戻って来ていない。
「これ、どうやって進むのかしら?」
「分からない。困惑」
戻るのは出来るみたいだけれど、進むのは無理みたい。
でもイルカイザーは普通に進んでいるし、パンツと骨を諦めるのは悔しいのよね。
未だ遠目に姿が見えるイルカイザーだけれど、ここまま見えない場所に逃げ切られて穴の奥にでも隠れられたら捕まえられないじゃない。
「このまま見付けられないなら洞窟ごと跡形も無く吹き飛ばすって最終手段があるけれど……って、何よ、ポチ。お腹が減ったなら適当なモンスターを食べなさい。お菓子とか持ってないわよ」
パンツを取り戻して尻尾の辺りの骨を手に入れる為にループする通路をどうにかしないと、そんな風に悩む私の肩をポチが突っついて自分の羽を二枚だけ抜くと片方を風で包んで水中に入れて、もう一枚は水面に浮かべて流す。
浮かべた羽根は十字路の端まで行った途端にその先の一本道じゃなくって反対側から流れて来て、風の玉に包まれた羽根は十字路端を抜けて向こうまで行った。
つまり……。
「水中を通ればループを抜けて先に進めるって事ね。他には外から天井に穴を開けるって手も有るだろうけれど、崩落してパンツが埋まったら厄介だし」
「キュキューイ」
”そもそも最初の段階で壁や天井の状態から違和感に気が付くべき”?
五月蠅いわね、羽根全部毟るわよ。
「解決した。行こう」
まさか、そんな風に思ってロザリーの方を見れば既に水路に向かって飛び出した後、空中で上下逆の体制になって頭から水に突っ込んで行く、カナヅチの癖に。
「あっ……」
「馬鹿っ!」
何が最善なのか考える前に体が動いた私はロザリーの髪の先が水面に付いた瞬間、胸に跳び蹴りを叩き込んでいた。
爪先から感じ取ったズッシリと肉が詰まって張りのある感触、自ずと力が漲って反対側の足場までロザリーの体を蹴り飛ばし、飛び込んだ後で泳げない事を思い出したらしい顔が胸に食らった衝撃で驚きに変わり、次の瞬間には頭から砂に突き刺さる。
頭は砂に沈んだけれど、胸はつっかえて砂の上……けっ!
「アンタねぇ、もう少し考えてから行動しなさい。本日二回目でしょ! 私に天才的な閃きがあるわ。ポチに乗った上で風に包まれて進めば良いのよ!」
ふふんっ! 普段から私をゴリラとか言ってる連中も驚くでしょうね!
お兄ちゃんは誉め言葉としてのゴリラだけれど、他の連中は反省しなさい!
「ふふんっ! どーよ!」
腕を組んで胸を張っての得意顔、張っても平らは平らだって思った奴はぶん殴る、
「……キュイキュイキュー」
「え? ”閃きも何も、僕が解き明かして検証の為にやった事のパクり”、ですって?」
「フゥ……」
「う、うっさい! そんな事よりもさっさと追うわよ! ロザリー、さっさと起きなさい!」
わざとらしく溜め息を吐くだなんて、本当に私への態度が悪過ぎじゃない!?
お兄ちゃんへの従順かつ大好き全開って対応に比べ、何故か私には舐めきった態度を崩してくれないポチに飛び乗り、未だ頭から砂に刺さったままのロザリーにもさっさと飛び乗れとばかりに声を掛ける。
足をジタバタさせた彼女は胴体まで刺さるのを防いだ胸が支えになっているのか体を倒すのに苦労していたけれど、あの姿を見ていたら胸が大きくても何の役にも立たないって分かるわよね。
それはそうと貧乳とか平ら胸とかツルペタとか言って来る奴はお仕置きするけれど、それはもう好きに勝手に大袈裟な仕置きを。
「キュキュイ?」
「え? ロザリーを背中に乗せるのがなんで不思議なの?」
何とか起き上がったロザリーが砂まみれになった髪の毛をブルンブルンと振って砂を飛ばし、ついでに胸をブルンブルン揺らしているのを見た私が置き去りにするか一瞬迷った時、不意にポチから妙な質問が投げ掛けられるけれど、私の心を読んだのかしら……ポチって実はエスパーだったっ!?
「す、凄いわ! お兄ちゃんはこんな事を言って無かったし、多分気が付いたのは私が先ね!」
「キュ?」
「何の事かって聞いて来なくても大丈夫、私にちゃんと考えが……は? ”お馬鹿のリアスの考えは信用出来ない。僕はお前の事は信用するけれど、お前の頭は別だ”、ですって? ……誉められているのかしら?」
何か微妙な感じを覚えた私だけれど、信用しているってそういう事よね!
あらあら、まあまあ、普段から馬鹿にしている癖に実は私が大好きなんじゃないの。
「お待たせ」
私がポチが実はエスパーでツンデレだったって事にニンマリしている間に砂を粗方払ったロザリーがポチの背中に飛び乗り、ポチがちょっと嫌そうな風に鳴いたけれど私をチラッて見て風で一緒に包んでくれる。
ポチ、もしかしてロザリーが嫌いなのかしら。
「ねぇ、ロザリーってお風呂はちゃんと入ってる?」
「?」
唐突な質問に首を傾げるロザリーだけれど、大好きな私と直ぐに仲良くなった彼女に嫉妬しているって線はお兄ちゃんが一番大好きで周囲に嫌そうな態度を取らない事から違うでしょうし、青色が嫌いって事も無いと思う。
じゃあ嫌う理由は何かって、多分グリフォンにとって嫌な臭いがするんじゃないかって思ったわ。
「お風呂……多分入っている……と思う」
「疑問系なの? しっかりしなさい、うっかりするな」
「夜は眠いからボーッとしてたらミントが身の回りの世話をしてくれる。だから覚えていなくても問題無し」
「問題だらけじゃないの、それって」
風で全身を包んだポチは水中で慣れていないのか飛びにくそうにしながらもイルカイザーを追い掛け、十字路のループを突破する。
「キュキューイ」
「駄目に決まってるじゃない」
ロザリーだけ落としても良いかって、何を考えているのよ、ポチったら。