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矛盾しているが仕方ない

「いや、流石に平和過ぎない?」


 レキアが管理する妖精の領域にやって来た僕だけれど、驚く程に何も起きていない。

 結果、暇潰しに踊り出したレキアの姿をボケッとしながら眺めるだけで時間が過ぎて行くだけで、これじゃあお土産持って遊びに来ただけみたいだ。


 そんな時に思ったんだよ、異変が起きないって異変が起きているってね。


「キュイ?」


「ああ、ポチは此処の事は詳しく知らないんだっけ? 此処って他の妖精が管理する場所よりも力が大きいせいで不安定になっていて、外と断絶する為の結界の穴やら力の影響を受けた虫や植物のモンスター化とか色々と面倒臭い事が起きやすい面倒臭い場所なんだけど……」


「おい、妾が管理する場所を面倒臭い面倒臭いと連発するな。確かに面倒臭いが。……だが、妾とて奇妙には思っている。どうにも安定が過ぎる。此処まで来るとこの領域が不安定だった原因が取り除かれた様な……」


「……この領域が不安定だった理由って?」


「知らん!」


 ……そっか、知らないかぁ。

 まあ、ゲームでは語られていただろうけれど、僕だって覚えていない上に重要な情報だった気はするから仕方ないんだけどさ。


「ああ、確か奇妙な石版が向こうに設置されていたな。人間の文字のせいで妾には読めなかったがな!」


「それって偉そうに言う事?」


 なーんか凄くグダグダな流れだし、その石版だけでも確かめに行こうか。

 僕はその場から立ち上がってレキアが指差した方に向かい、ポチも立ち上がって僕について来て、レキアも何か騒いでいるけど無視した。




「おーい! 妾の踊りの途中だぞ!? 見ていかんのか!? ……侮辱だ! こうなれば今晩はとことん貴様の立場を教えてやるから泊まれ!」


 さて、どんな事が書かれているのやら……。


 その石版を遠目に見た瞬間、神様なんて見た事も声も聞いた事も無くて、ゲームの知識でこの世界では実在してるって事だけは知っている僕でも理解したんだ。


「……成る程。確かに神の眷属が残した物だね」


 理屈とか根拠とかを丸々無視して感じる神々しさを発する石版は粉雪が降っているにも関わらず雪が積もっていない所か周囲にさえ雪が存在しない。


「商人だの何だのと名乗った割には仕事が終わった後の報告がこれだからな。神の眷属だろうが無礼には変わりないだろう?」


 成る程、報告連絡相談の三つが出来ていないし、その締め方に怒っているのか、それとも侮られたと怒っているのかのどっちかだね。


 レキアなら後者だろうけれど。


「全く忌々しい……痛っ!?」


 神の眷属が残した物だと分かっているのにレキアは僕の上から石版の前まで飛んで行き、思いっきり蹴りつけた後で痛かったのか足を抱えて悶絶していた。


 ……馬鹿だ。


「やれやれ、大丈夫かい?」


「こ、この程度何ともない。それよりも何が書いてあるか読み上げよ」


「はいはい。後で足を見せてね。捻挫の応急処置程度なら出来るからさ」


 痛みで涙目になっているのに強がる彼女に呆れながらも僕は石版に刻まれた文字に目を通す。

 簡単に言えば商会を利用した事へのお礼文であり、何か機会が有れば再び利用して欲しいって事。


「いや、尚更口で言うべきではないのか? せめて妖精文字だろう、常識的に考えて。贈られた者が他の誰かに読んで貰わねばならぬ礼状なら無い方がマシという物だ」


 まあ、当然だけれどレキアはまた怒って石版を殴って悶絶するっていう学習能力の無さを露呈させていて、少しリアスに似て可愛いとさえ思ってしまったな。


「……何故妾を眺めてニヤニヤしている?」


「そんな怪訝そうに見なくても良いじゃないか。君を可愛いって感じただけさ」


「……そうか。妾は可愛いか……」


 他人を見下す態度が無かったら、なーんて余計な事は言わないで置こう。

 ああ、最後の文章についてもレキアには秘密だ。

 じゃないと再びレキアの前に商人が現れた時、食って掛かれば何をされるか分かったもんじゃないし、僕達の問題に巻き込みたくない。


 ”いずれお会いしましょう”、なんて言葉の後に僕達兄妹とアリアさんの名前が有るだなんて凄い厄介な事態に関わらせたら駄目だからね。


「こうなると忘れちゃったのが痛いな」


「ん? 何か忘れたのか、貴様? 人間らしく無様な事ではあるな」


 実際にやっていなかったゲームだし、記憶を取り戻した当初はアリアさんに酷い事をしなければ勝手に成長して勝手に世界を救うって思っていたから書き残していなかったゲームに関する朧気な記憶。


 僕は今、それを痛烈に後悔していた。

 ゲームの知識が欲しい理由がゲームとは大きく違って来たからって矛盾している気がするけれど、本当にどうにか取り戻したい。


 見られたら困るなら暗号にでもすれば良かったのに……。


 今更どうにもならない事に僕は悩む。

 タイムマシン……は流石に無理だし、リアスと一緒に残ってる知識を再確認して残りが蘇るのを願うしか無いんだろうか?


 僕が悩んだ時、レキアが袖を引っ張ってるので顔を向ければ僕の顔をのぞき込んで言った。



「取り戻したい記憶が有るのなら、確かどうにか出来る秘宝が有ったはずではないのか? 母上から聞いた事が有るぞ」


 ……それだ!


 少し記憶が蘇る。

 確か記憶喪失になったキャラの為にダンジョンの奥に安置している秘宝の所まで行く……だった筈。


「ありがとう、レキア!」


「ふ、ふふん! 少しは礼儀を知っていたか。ならば次は妾の舞いを最後まで見ていろ。先程は途中で投げ出したからな」


「ごめんごめん。君の踊る姿は素敵だったし、今度は最後まで見せてくれたら嬉しいな」


「……妾の寛容さに感謝するのだぞ?」


 少し照れながらも嬉しそうにしたレキアは再び空中で歌いながらの舞を披露する。

 粉雪の中舞う妖精の姿は神秘的で本当に素敵だって思えた。


 さて、帰ったらリアスに相談しないと。

 何せそのダンジョンは帝国に存在するから気軽には行けないんだよね……。




「……ねぇ、あれって誰かしら?」


 放課後、お兄ちゃんが来ない事に落胆を隠し切れていないアリアと一緒に潜った学園ダンジョンの一階層にてスライムが固まっていて妙に気持ち悪い物体になっていたのだけれど、その中から誰かの腕が飛び出していたの。


 袖からして男子生徒だけれど、他の部分は完全にスライムに埋まって見えない上に、ヌルヌルしたスライムが掴めずにいるから脱出も無理っぽい。


 ……助けた方が良いわよね?


「えっと、あれじゃあ魔法を使ったら危ないですよね? シャドースピアなんか使ったら一緒に串刺しにしちゃいますし……」


「ハルバートを持ってくれば良かったわ。スライムだけ切り裂けば終わりだもの。……あ~、面倒臭い」


 どうすれば助けれるのか困っているアリアの後でもう一度スライムの群れに視線を送る。

 ゼリー状の不定形生物がウネウネ動いて近付きたくないレベルに気持ち悪いけれど、流石に窒息死されたら夢見が悪いし、此処は我慢するしかないわね。


 だって私はお兄ちゃんの自慢の妹だもの。


「よっと!」


 スライムの表面から分泌される妙にヌルヌルする粘液(お肌には良いらしい)まみれの手首を掴んで力任せに引っこ抜く。


「や、やあ! こんな所で会うだなんて奇遇だね」


 昨日私に求婚して来た”ヘタレ皇弟”アイザックが少し肌の艶が良くなった顔に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 うわっ、凄く放り投げたい。


「ほら、邪魔だからあっちに行ってなさい」


「ぷぎゃっ!?」


「あっ、手が滑った」


 横に退かす積もりだったのに思いの外軽かったアイザックは勢い良く飛んで行き、壁に頭を打って気絶してしまった。


「軽いわねぇ。此奴、ちゃんとご飯食べてるのかしら? 腕なんて私より細いじゃない。無駄な脂肪が無い上に引き締めているから結構細いのよ、私」


 ……それにしても結局は実戦経験”ごっこ”をする為の場所でしかないこのダンジョンで危ない目に遭うなんて、そんな様で私を守るとかほざけた物だわ。


 私を守りたいって言うなら最低でも鉄の鎧に拳で穴を開けられる位じゃないと話にならないわよ!



「……あの、所で彼のお供の人達は一体何処に?」


 あれ? 確かに居ないわ。

 建前上でも帝国からすれば皇帝の弟っていう重要な人物だし、見張ってるのが居る筈なのに……。

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