残り香(臭くはない)
マンガ 乗せてる
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「ふふふ、大丈夫よ。魔力が無いだなんて気にしなくても良いの。貴女には貴女の長所があるのよ」
お母さん……、仲間(というより兄弟?)が聞いたら怒り出すような呼び方だけれども、私は二人きりの時と心の中だけで呼んでいる。
人間なら誰でも持っている魔力を私は持っていなくて、仲間みたいに野生のモンスターならある程度従えられる、という事もないから色々困ったし、私を馬鹿にする連中は仲の良い友達が始末してくれた。
「信じられない! ったく、貴女の地位が意味なく与えられた物とでも思っていたのかしら!」
「……凄い剣幕」
「アンタは落ち着き過ぎ!」
私より怒っている友達は消し炭にした子達を蹴り飛ばしながら怒鳴っていたけれど、私はお母さんと友達が味方をしてくれたらそれで良いのに。
……ある日、お母さんが私達を捨てた。
私達が生まれた理由が間違いだって思ったらしい。
色々捨てて、それでも皆はお母さんが一度決めた事をあんな存在の為に変えるのは有り得ないからって意思を引き継ごうって言っている。
私は別にどうでも良いけれど、友達がそうしたいなら構わない。
「どうしたの? パンツと骨、ちょうだい」
そんな友達がノーパンだったから失ったパンツを探しに行った先で出会ったリアス、多分新しい友達と呼んで良い相手。
スキヤキからうっかり海の上に降りて溺れていた私を助けてくれて、服を乾かしてくれて、パンツを一緒に探してくれる事になって、一緒に戦って、蟹の美味しい食べ方を教えてくれた。
此処まで来たら、姉妹同然の友達がミントなら、リアスは親友?
だから親友のペット(にしては馬鹿にされているっぽい?)の為に探しているらしい”良い感じの骨”を持っているイルカイザーを見つけたなら骨を貰いたい。
パンツも持っていたし、蟹が傷む前に持ち帰れそうだから一石二鳥……三石?
”頼み事をする時にはちゃんと相手の目を見てしなさい! ボケーッとしながら頼んでんじゃないわよ”、ってミントが言っていたからイルカイザーと視線を合わせてパンツと骨を受け取ろうと手を伸ばす。
「クゥイィィ」
なのに太い声で鳴いたイルカイザーはパンツを咥えたままで骨もくれないでジャンプして、着水の時に私の顔を尾鰭で強く叩いて潜って消えた。
私は頑丈だから叩かれてもそんなに痛くは無かったけれど、水飛沫を凄く上げたから全身ビショビショになっちゃうし、口や鼻にも入ったから鼻がツンッてしたし塩辛い。
「……むぅ」
私、モンスターと会話が出来る能力を持ってたのに骨もパンツもくれないなんて何故だろう?
……ちょっと腹が立ったし、追い掛けて懲らしめよう。
洞窟の中は薄暗いけれど神獣の私には問題無くて、濁ってもいないから海水の底まで見えている。
だから私は迷わず飛び込んで直ぐに自分が泳げない事を思い出した。
「あっ……」
「何やってるのよ、馬鹿っ!」
両手を伸ばして頭から飛び込んだ私の目前に水面が迫った時、不意に脚を掴まれて動きが止まる。
そのまま顔面を水面に叩きつけちゃった私の鼻と口に海水が入っちゃってせき込みそうになりながら砂の上に引っ張り上げられた。
「助かった、ありがとう」
「どう致しまして……じゃないわよっ! 泳げない癖に水に飛び込むなってのっ!」
「でも、パンツ持ってた」
「だからって他に方法が有るでしょうが。ほら、未だ見えているんだから追い掛けるわよ。浅い所まで追い詰められるかも知れないし、見失う前にさっさと追う!」
凄い、リアスも水の底が見えているんだ。
私が感心する中、リアスは手頃な大きさの石を拾って投げる。
水の中を突っ切って進む石に気が付いたイルカイザーは驚いた顔で身をくねって避けて、外れた石は底に激突して突き刺さった。
「ちっ。外れたわね。ポチ、アンタも何かしなさいよ」
「キュイ!」
リアスのペットらしいグリフォン、ポチって言うんだけれど変な名前だと思う。
そのポチが天井近くまで飛び上がり、風の球体を次々に海中に放って行けば、水底ギリギリで圧縮された風が解放されて周辺の水を吹っ飛ばした。
「「あっ……」」
イルカイザーは真上じゃなくって正面に吹き飛ばされて更に奥に進み、周囲全体に向かう海水は当然私達の方にも津波みたいに押し寄せる。
一番近かったポチは自分だけ風を纏って水を跳ね返す中、リアスは私を庇うように間に割って入ると拳を突き出した。
「やあっ!」
踏み込みの威力で足下の砂が吹き飛んで開いた穴に海水が流れ込み、拳の勢いで生じた風が向かって来る水を全部跳ね返す。
「ちょっと、ポチ! ちゃんと考えて使いなさい!」
「キューイ」
「”その青い髪の奴、何か嫌い”、とか言ってるんじゃないわよ。もー!」
「キュ……」
叱られてしょげたポチは素直にリアスの前まで戻って来て、彼女はそんなポチの顔を両手で挟むと手の平でグリグリとし始める。
何か仲が良い。
「……むぅ」
何故だろう、羨ましいというか、妬ましい?
私は今、自分じゃなくポチが相手をして貰っている事に少しだっけ嫉妬を覚えていた。
でも、リアスは友達だけれど出会ったばかりだし、他の友達は一人だけ、新しく出来た仲間は友達じゃない。
あの子、直ぐに下着を脱ごうとするし、服を着るのを面倒臭いとか言ってるし、ちょっと困る。
ミントがノーパンならハティは全裸派、当然ミントが服を着せようとして、私に構ってくれない時の寂しさと今の感情は何かが違う。
「本当にお兄ちゃんに叱って貰うんだからね!」
「……あっ」
リアスが兄の事を口に出す時の表情で正体に気が付く、お母さんに感じていた物と同じだ。
リアスは私のお母さん……じゃない、お母さんの胸は大きかったし、種族が違う。
何かが似ている気がするけれど、お母さんを前にしている時の温かさとは似ているけれど別物で、例えるならお母さんがついさっきまで座っていたソファーに寝転がった時に感じる体温と残り香。
「ちょっとロザリー、本当に急ぐわよ。このままじゃ逃がしちゃう」
「うん、分かった、リアス」
所でリアスの名前って何処かで聞いた覚えがあるし、結構重要だった気もするけれど……忘れた。
「リアス。リアスは私のお母さんと会った事がある?」
「へ? いや、そもそもロザリーのお母さんについて知らないから分からない」
「……うん、分かった。多分無い」
きっと気のせい、お母さんが人間のリアスの近くに居る筈がないから……。