泣かないように空を見ろ
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何か重りにでもなる物でも持っているのかと思いながら沈んでいくロザリーを海中で掴んで海面を目指す。
胸に余計な浮き袋持っている癖に全部無駄じゃないの、胸の脂肪なんて本当に邪魔だわ。
「ぷはっ!」
海面から顔を出し、片手で無造作に投げ飛ばす。
地面に叩き付けられるのを防ぎたかったのか馬が真下に入り込んで受け止める、ちゃんとしたペットね、御主人様思いじゃないの。
「ポチ、その子みたいに私にちゃんと接するって気はないの?」
「キュ?」
「アンタねぇ……」
一切その気は無いって態度に少しムカッとしたけれど今は全身ビョショビショなのが気になった。
髪からは海水がポタポタ垂れているし、下着も靴下もビッチョビチョ。\
「うへぇ……」
服を絞って少しでもどうにかしようとするんだけれど焼け石に水な中、真横から、水滴が飛んで来る
「いや、何やってるのよ……」
「?」
まるで犬みたいに全身をブルブルと振るわせて水滴を周囲一体に飛ばす、私の方にも飛んで来るし、馬はとっくに避難していたわ、畜生が。
私が文句を言っても首を傾げるだけで私が怒っている理由を理解していない。
……ちょっと殴ってやろうかしら?
「……はぁ。”ライトボール・熱中心バージョン”」
唱えた魔法は光魔法の資料に書かれていた周囲を照らす直径八十センチ位の光球を出す物、それを私が今回みたいにずぶ濡れになった時の為に改良した物よ。
町の外まで走り込みをした時に雨が降ったり服のまま川に飛び込んで泳いだりする時の為で、名前の通り焚き火か何かみたいに周囲を熱して濡れた服を乾かしてくれる。
「ほら、服をちゃんと脱いで乾かしなさい。ポチ、風で乾かすついでに翼で私達を包んでくれる?」
「キューイ」
私は迷わず服を脱ぎ捨て、ロザリーも私の言葉に素直に服を脱ぐ。岩に下着や服や靴を貼り付けてポチの翼にくるまった。
「……フワフワでモコモコ」
「でしょ?」
お兄ちゃんがちゃんと洗っているから臭くないし、最高級の羽毛布団みたいに暖かいし気分が良いわ。
「……ヒヒン」
馬が拗ねたみたいに鳴いているけれどロザリーはポチの羽毛にウットリして目を閉じている。
まあ、気持ちは分かるのよね。
「……お礼言ってなかった。助けてくれてありがとう」
「はいはい。気にしなくて良いわ。見捨てる気にならなかっただけだし。それよりも今後は下がどうなっているか確かめてから降りなさいよ」
こっちを向いて軽く頭を下げて来るロザリーに適当に返事をしつつ頭をガシガシと掻く。
もうちょっと熱量を上げないと私は兎も角ロザリーの方は長髪だから乾かないわよね。
「……乾いた。これでミントのパンツを探せる」
「そう? 未だジトッと湿っているし……てか、そのパンツの持ち主は何処に居るのよ? 自分のパンツじゃない」
「パンツ脱げた状態でスカートの中を見られたらしい。その後で逃げたら後ろから貫かれて」
「……成る程」
ちょっと前の私なら分からなかったけれど、最近アリアに借りた本に同じ描写があった。
後ろから貫かれる……うん、成る程。
変な奴に遭遇しちゃったのか。
酷い奴ね、お兄ちゃんとは大違いだわ。
さてと、友達の為に頑張っているみたいだし、私は私の用事があるから後は知らん、とか言えないわ。
「しょうがないわね。何か良い感じの骨を見つけるついでにパンツ探しに付き合ってあげるわ」
立ち上がり胸を張ってからドンって感じに叩く。
揺れてはいない。
「良いの? 感謝する」
ロザリーも立ち上がって頭を下げる。
こっちは揺れていた、潰れるまで叩いちゃ駄目かしらね?
「キュキュキューイ、キュッキュッキュー♪」
「……ポチ、帰ったらお兄ちゃんに叱って貰うからね」
ったく、”ボンッキュボーンとキュッキュッキュ”なんて歌詞、何処で覚えて来たのよ、お兄ちゃんが泣くわよ。
「キュッ! キュイキュイ!?」
「はいはい、ちゃんと謝れば良いのよ、謝れば。次同じようなの歌ったら言い付けるからね?」
「キュイ……」
お兄ちゃんはポチに凄く甘いけれど、私も大概甘やかしているわね。
ちゃんと反省したから今度は許すけれど、私の胸を弄くる歌を今度歌ったら殴る、それも割と全力で!
「じゃあ、行くわよ。……流石に二人と二匹じゃ狭いわね。ポチの骨探しに来たから入り口で待たせておけないし……」
三分の一は水没しているし、足場を考えたらポチを連れて行ったらギリギリ、天井の高さだって其処まで高くないんだから常に飛んでいるってのもね。
ロザリーも私と同じ意見なのか洞窟の中をのぞき込んで腕組みを始め、同じように洞窟に頭を入れた馬に指先を向ける。
「スキヤキ、此処で待ってて」
「その馬、スキヤキって名前なんだ」
「うん、少し前までは別の名前。極東の大陸の料理のスキヤキが美味しかった。特に馬肉。だから改名した」
「ふーん、そうなんだ」
スキヤキかぁ、転生してから食べてないのよね。
あの甘辛い味付けをした牛肉に生卵を付けたり、〆にはうどんを入れたり、お兄ちゃんは雑炊の方が好きだったからスキヤキの時だけは喧嘩したのよね。
……ギヌスの民なら作り方知ってるかも。
あの脳味噌まで筋肉の発情ウサギ女には会いたくないし、お兄ちゃんを会わせたくないけれど、今度顔を見せに行った時に聞いてみようっと。
「因みに前の名前は?」
「コロッケ。馬肉のコロッケが美味しかった」
コロッケかぁ。
私も食べたいなー。
「……ブルル」
うん?
何かあの馬が物悲しそうに鳴いた気がしたけれど、空を走る以外は普通の馬っぽいから気のせいよね。
「置いて行って大丈夫?」
「スキヤキは強いから大丈夫。……死んでたら今晩のメニューはスキヤキのスキヤキ。一緒に食べる?」
「食べる!」
他人のペットが死ぬのを期待するのは悪いけれど、スキヤキを食べられるなら食べたいな。
どうせだったら街まで行って牛肉とか鶏肉を買いに行っても良いわよね。
「〆はうどん」
「やった!」
お兄ちゃんも誘ってあげたいな。
それが駄目ならレシピとか調味料とか分けて貰えないかしら?
「ヒヒン……」
あれ? スキヤキ、泣いてない?
「リアス、最初に言っておくけれど……私は魔法が使えない。才能皆無だった。でも、槍は得意」
洞窟に入って曲がり角を右に曲がった時、天井で蠢く無数のカニ”コウモリキャンサー”と遭遇する。
ハサミを振り上げて威嚇しているけれど、どうやって天井に張り付いているのかしら?
その姿を見たロザリーが呟くけれど、別に魔法がなければ戦えない訳じゃないし、別に良いでしょ。
魔法のみ得意で今は魔力切れとかなら兎も角として、戦えるんだから。
「私もハルバートの扱いには自信があるわよ。まあ、忘れたけれど」
「私も忘れた。でも、槍が無いなら殴ればいいだけ:
「分かるー」
あー、気が合うわね、この子。
友達になれそうな予感がするわ。