安堵
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母は私に笑っていて欲しいと言っていて、感情の無い人形みたいな顔を晒していれば面倒な事になるとも知っていた。
だから仮面を被る、明るい無邪気な女の物を。
闇属性で黒髪に黒い瞳、そして貧しい家と私の事が嫌いな祖父母。
母が死んで、もう私にとって大切な人は一人も居なくて、二度と誰かと関わりたいとは思わないのだと、そう思っていたのに……。
事故に遭いそうになり、死ぬかと思った、それならそれで別に良く、中途半端に痛い思いと怪我での不自由さだけは勘弁して欲しいと思い……運命の出会いを果たした。
……好きになった、側に置いて欲しくなった、だから絶対に仮面の下は見せないと決めていたのに……全てを受け入れて欲しいと思った。
どうせ気が付かれているし、彼なら大丈夫、彼ならどんな私でも受け入れてくれるのだと確信しつつも残るのは僅かな不安、分かっていても実物を前にして気が変わり、放り捨てられるのではないかと。
「どうですか? こんな私でも一緒に居てくれますか?」
自分の事なら感情が籠もっていない声だと思う、普段の私が精一杯それっぽく振る舞って出している物とは正反対の物、不気味だと思う人は多く、あの眼鏡……名前は忘れたけれどウザいのも離れて行くだろう。
この私に此処まで嫌悪感を覚えさせるとはある意味凄い、誉めてやるから居なくなれ。
母以外で側に居たいと思った人、初恋の相手、彼の側に置いて貰えるのなら、私はどんな扱いだって構わない……。
「え? いや、当たり前だけれど? どうせ分かっていたし、それで急に”お前なんて居なくなれ”とか言い出すとでも思った? ……心外だなあ」
「……ごめんなさい」
分かっていたし、期待していた、そんな返答だ。
私の不安を失礼な話だと軽く憤慨する顔に謝るしか出来ないし、嬉しい。
こんな時、物語だったら涙を流したりするか、ムードが盛り上がってキスから押し倒して処女喪失からのイチャラブ化……それも良いけれど、今は余韻を味わいたい。
受け入れてくれると分かっていた相手が受け入れて貰えた事を実感したいのだ。
「じゃあ、今の私と普段の私、どちらが良いですか?」
「普段の君は明るくて可愛いし、今は今でクールビューティ的な魅力があってさ。それにどっちもアリアさんでしょ? 他人に良い顔がしたいとか自衛とか策とか誰も彼も大小の差あるけれど演じているしさ。腹の中を全部ぶちまけて自由に生きているのはリアス位じゃない? ……いや、あの子はあの子で仮面を被る時があったか。忘れたい事実だったよ」
「えっ!?」
思わず出てしまう大声、けれど彼の言葉だ疑いはしない。
でも……。
いや……。
「……そう言えば普段はゴリラだけれど聖女のゴリ来と呼ばれて、……じゃなく、普段はお転婆だけれど聖女の再来と呼ばれる位には聖女として振る舞えているって……」
「お付きとして行動しているレナは笑いを堪えるのが大変だそうだけれど、兄としては全く違う自分を演じるのは少し心配かな?」
私の言葉に頷きつつもロノスさんは深い溜め息を吐く。
成る程、私は母の願いもあるが基本的には都合が良いからと自己の意思で仮面を被っているが、同じく正反対の性格の仮面でも他人の意思で被るのは苦痛なのだろう。
普段の自由な振る舞いからして私とは気苦労が大きく違う、それは彼女を溺愛する彼にとっても辛いと理解した。
「それで今後はどちらで接しますか? あの鬱陶しい眼鏡も勝手に幻滅してくれそうだから今の素顔が良いのなら構いません。ロノスさんのお望みのままに」
「それは君が決める事だよ。僕はどっちの君も魅力があると思うからね。……でも、あの眼鏡が本体の男なら今の君を見ても”素敵だ!”とか言って勝手に盛り上がりそうな気が」
「ぶふぉ!?」
吹いた、吹いてしまたではないか。
眼鏡が本体、その呼び方に本当に久しくツボに入る私であった。
今は仮面の笑顔だけれど、彼と一緒ならば何時の日かは本当に心の底から笑える日々を送れるのだろう、そんな風に思う。
「……ふふっ。嫌いな相手だからと酷いですよ、ロノスさん」
「おっと、そうか。じゃあ、アンダインには秘密ね」
「アンダ……ああ。ええ、分かりました、内緒です!」
アリアさんは普段の笑顔に戻り僕の言葉に笑い声を漏らす。
うんうん、さっきのは綺麗って感じで、今は本当に可愛いな。
「……あぅ」
それを伝えた時がこの反応、ムクッと起き上がって暫く無言でポカポカ叩かれた、痛くない。
「ロノスさんって偶に意地悪ですよね。私だって怒る時は怒るんですから」
抗議しながらポカポカと軽い拳を何度も繰り返すけれど、顔を見れば笑っているしふざけているだけなのは丸分かりだ。
まあ、女の子の悪ふざけを受け止めるのも男の甲斐性って奴って事で……。
「あー、疲れました。ロノスさんのせいで疲れましたー」
棒読みなのが丸分かりのまま僕の膝に再び頭を乗せようとしたアリアさんだけれど、急に何を思ったのか地面に寝転がる。
どんな考えがあっての行動なのかと怪訝に思う中、ソッと手が差し出された。
「水着が脱げた所を見た事と私を疲れさせた事を黙っている代わりに一緒にお昼寝をしましょう。手を繋いでのんびりとしませんか?」
「のんびりと、か。……良いね」
実はと言うと二人きりで小島に来た時は内心で期待していたんだ、下心的な展開をさ。
人目が無いけれど、実際は先生が常時魔法で警戒しているから変な事をすれば伝わるけれどさ。
実際は勇気を出して隠していた素顔を見せて、それでも受け入れて欲しいとお願いされるシリアスな展開で、続いては水着姿とはいえ二人並んで手を繋いで眠るだけ。
でも、それで良いのだとも思う。
ちょっと気を張る事が多かったし、ダラダラしたって罰は当たらないよ。
あっ、大勢の女の子と仲良くなって一線を越えそうな事については女神でもあるお姉ちゃんから何かあるかもね……。
「じゃあ、お休み」
「ええ、お休みなさい」
念の為に島の周囲の空間の時間を停止させて塀を作り出す。
これで海からモンスターが出て来ても大丈夫、そもそも寝ていようが襲われそうになったら目が覚めるしさ、僕。
「……すぅ」
繋いだ手から伝わって来るアリアさんの体温を感じながら瞼をそっと閉じる。
アリアさんの静かな寝息も聞こえて来るし、僕も安心して眠る事にしようか。