覚悟
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「女の子の胸には夢や希望が詰まっているのですよ。挟まれても、挟んでも良いものです。因みに私は挟みたい」
ある日、年々大きくなってリアスに凄まじい目で見られる事が時々ある胸を手で揺らしながらレナが言っていた、君は何処のセクハラ親父なのかと思ったけれど、よく考えればウチのセクハラメイドで僕とリアスの乳母兄弟だったよ、忘れたかったな、この時だけは。
でも、この時の僕は思ったんだ、胸に夢や希望が詰まっているのならリアスには夢や希望は無いのかって。
気になったから訊ねてしまって、レナは平然と答えたよ。
「大丈夫です。姫様の頭の中のお花畑には幾らでも存在しますから。では、早速私の夢と希望に触れてみて下さい。私も若様の若様に触れて若さを堪能させて貰いま、すっ!?」
僕の手を掴んで自分の服の中に滑り込まそうとし、片方の手を僕のズボンの中に滑り込ませる寸前、レナの頭から響いたのは雷鳴に匹敵する程の拳骨の音で、落雷を受けたみたいにその場で伸びる。
「ったく、庭で何やってんだい、馬鹿娘が。掃除のメイドや庭師が見ちまったら気まずいって考えなっ! やるんだったら部屋に連れ込みな。勿論ベッドメイクやシーツの交換は自分でするアンタの部屋だ!」
既に気絶して声なんて届かない実の娘の先程拳骨を落としたばかりの頭を踏みつけてグリグリと踏みにじるレナスだけれど、真っ昼間に庭で一応主に盛って迫った事を注意すると思いきや内容が内容だし、この親あってこの娘なのだろう。
尚、この時の僕達は十歳、色々と言いたいけれど、僕とリアスにはレナスが母親だし、今になって思えば僕もレナの同類なのかも知れない、リアスが違うのは本当に良かった。
だってさ、軽いノリで可愛い愛する妹に手を出そうとか……お祖父様に使っている肉体維持の魔法を一時解除しても全力で其奴を徹底的に潰しただろうね。
この世界に存在する事を後悔させて、リアスにも尻叩き百回はするべきだろうけれど、あの純粋な子がレナみたいなノリで男を誘惑する筈が無いし、レナだって僕だけを誘惑している。
さて、じゃあ僕がどんば所でレナの同類なのか、それは最近の欲に傾きがちな所であり、今はそれに絶賛落胆中で、同時に自覚させられている最中だ。
「わあ! 海の上を歩いているみたいです! こうやって海の上で見ると砂浜からとは違って見えますね」
「みたいも何も実際に時間を停止させた海の上を歩いているんだけれどね」
海を二つに割って小島まで伸びる黒い道、時間を停止させた海水の上を僕は歩き、背負っているアリアさんは大はしゃぎだ。
あの後実際に揉んだのかって?
彼処まで言われたなら仕方が無いかと、人目に付かない所に連れ込んで邪魔な水着をはぎ取って好き放題に揉んで……無いからね。
僕だって年頃の男の子だし、あんな流れなら流されたいさ、巨乳の美少女が”好きです、自分を好きにして”と迫って来るんだから。
でも、何とか抑え込み、今は触れている所からだけアリアさんの存在を感じている。
手に触れる細い足、肩に触れた小さな手、そして僕の背中に体重を掛けて押し付けられる立派胸……は感じない、体を起こして触れないようにしてあるからだ。
今まで何度か押し当てられたご立派なあの胸はアリアさんの動きによってポヨンポヨンブルンブルンと動くのは感じるけれど背中で気配は感じ取れても見えはしないんじゃ意味が無い、まさか振り向いて凝視ってのは勘弁だ。
「ロノスさん、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ?」
まさか”君が密着して胸を押し付けないのが気になってます”とか普通は言えないよね、だから僕は平然と答える。
誤魔化せてるよね、大丈夫大丈ー夫!
アリアさんの方もこれ以上は何も言わないし、僕もそれ以上は言及しないから小島にはスムーズに向かって行けているし、彼処でのんびり出来そう。
思えば臨海学校に来てから色々とあるし……襲撃とかアンリの手伝いとか警戒したり気疲れしたり修羅場みたいだったり、だけれど今は他の誰かの乱入で騒がしくなったりはしない……とは思うし、先生だって警戒を一層しているだろうから敵襲もね?
……いやー、どうだろうなあ。
僕、本当に狙われているっぽいし……うん。
「到着っ! ちょっと荒れているのが残念ですが、此処でならのんびりと出来そうですね、ロノスさん。共同生活になって大勢と一緒に居るとちょっと疲れちゃって。ほら、私って……」
僕とネーシャが来た時には綺麗な島だったけれど、今はフェンリルの咆哮の余波で地面が掘り返されてしまっている。
それでも地面は柔らかいし目立つ石も無ければ波だって中央辺りには届かない。
後は僕の魔法で日差しを遮る物でも作れば時間をゆっくりと使うには良いだろう。
正直、敵の襲撃や女の子にドキドキさせられる事ばっかりで僕は疲れていたんだ。
アリアさんを背中から降ろすと、空気の時間を停止させて二人が寝転がるのに十分なスペース分だけ日差しを遮る屋根を作り出す。
どうしても硬いから椅子とかは作れないけれど、地べたで構わないと座り込んで島をグルッと見回した。
此処でネーシャが胸の辺りを露出させて迫ろうとした時にアリアさんが飛んで来て邪魔をして、更にフェンリルに襲われて散々だったけれど、怪我もなかったし咆哮に魔法を霧散させる力があると知れたのはラッキーだったよね。
「お、お隣失礼します!」
「どうぞどうぞ」
僕が座るのを見計らってかアリアさんも少し遠慮がちな様子で座ったんだけれど、僕が胡座で彼女は正座、わざわざ正座なんてしなくても良いだろうに何故かなって思っていると、彼女の指先が僕の肩に触れ、続いて自分の膝の上を示す、これは膝枕をどうぞって事だろう。
「どうしたんだい?」
此処でちょっと意地悪、分かっているけれど分かっていない振りをして彼女の反応を伺えば、僕の意図に気が付いたのか少し拗ねた風に頬を膨らませる。
さて、そろそろ僕の方から膝枕をお願いするべきだなと口を開き掛けた瞬間、それよりも前にアリアさんの頭が僕の膝の上に置かれてしまう。
え?
「ロノスさんは意地悪です! ……それでも好きですが」
此処で改めての告白に僕が照れる中、真上を向いて僕の顔を見ていた彼女は急に横を向き、手で顔を隠す。
恥ずかしくって顔を見せられないみたいだし、ちょっと弄くって遊ぶべきか、照れ隠しにしては酷い気もするし悩んでいた時だ、アリアさんが何時もとは違う感じの声を出したのは。
感情豊かではない冷たく無機質な感じの声、それを出すに続いて見せたのは明るい笑顔ではなく人形めいた無表情……いや、僅かに照れと覚悟と不安と期待が混じっている。
「ロノスさん、これが本当の私です。……既にご存知でしょうけれど、何時もの私はそれらしく振る舞う為の仮面に過ぎません」
うん、何となく知ってた。