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相性

 水死体はかなり悲惨な見た目になりがちらしい。

 体は海水を吸って膨らみ、柔らかい部分を魚に食われて傷口から肉がはみ出る、とても溺死体を見ても身元の判別は難しくなるのだ。


 ロノスとアンリが話をする中、体を三つ叉槍で貫かれ高重力で潰されてグチャグチャになったミントの死体は海中を漂っていた、

 潮の流れが停滞しているのか殆ど動かず、餌を求めて寄って来たらしい魚が顔の近くに寄って来る。

 柔らかい唇を狙って口の先でツンツンと数度突っつき、噛み付こうと口を開け、そのまま動き出したミントの手に胴体を掴まれる。

 ジタバタと暴れるもミントの指はガッシリと食い込んで逃れられず、鱗を指先が貫いて絶命させるなり逆に魚の頭がミントによって食い千切られ、そのまま頭が無い死体が海中に捨てられて血が流れ出していた。


「……不味っ」


 口から泡を出しながら呟き、そのままミントは泳いで海面に顔を出した時、服に穴が開いたままだが肉体には傷一つ無い綺麗な肌のまま、不愉快そうに顔を歪めて咀嚼した魚の頭を吐き出した時、ミントと同じく白い細腕が差し出された。


「……大丈夫?」


「一度死んで体グッチャグチャにされた以外は何とか。あー、お腹減った。お菓子持ってる?」


 ミントに手を差し出したのは海面を走る馬に乗ったミント、彼女自身も海面に立ったまましゃがんでミントを海中から引き上げ馬の背中に乗せて心配しているのかしていないのか伝わり辛い声で小首を傾げる中、上半身を起こす余力も無いらしいミントはへばった姿勢のまま、口にお菓子の食べ滓をつけたままのロザリーに手を差し出した。


「ミントがお腹減ってると思ったからクッキー持って来た」


「それで全部食べちゃった?」


「美味しかった」


「そっか、美味しかったかぁ……」


 お菓子を要求した時から何となく察してはいた、そんな様子を見せながらミン


トは深い溜め息を吐き出すので合った……。


それに続く様に鳴り響くミントの腹の音、ロザリーはそれを聞いてから彼女と彼女を乗せた愛馬を交互に見やり、そっと馬のたてがみを撫でた。


「ミントの為だし食べられてあげて」


「止めなさいよ、可哀想でしょうが」


「食べないの?」


「食べられるかっ! ……ったく、さっさと塔に戻るわ…よ…マジか」


 余力を振り絞り怒鳴ったのか先程よりも力が足りない様子のミントは途中で言葉を止め、その落胆した姿にロザリーは疑問符を浮かべていそうな顔で首を傾げている。


「パンツ無くした……。パンツ、また失った……」


「また?」


 それだけ言い残しミントが意識を手放す中、愛馬の手綱を握って引き返そうとしたロザリーは途中で足を止めると馬に囁いて先に行かせる。

 僅かではあるがその瞳には決意の炎が宿っていた。



「任せて。パンツ、探し出すから。私が絶対にパンツを見付けて見せるから。だから、お腹一杯食べて待っていて。例えノーパン状態が辛くても」


 先程からの溜め息を含むミントの落胆した様子、ロザリーの中ではパンツを紛失したからだと結びつく。

 だから決めたのだろう。

 ミントの紐パンは自分が絶対に探し出すのだ、と……。



 尚、ミントがこの言葉を聞いていたら頭痛を覚えながら言うだろう、”私、他にもパンツを持っているんだけれど……”と。









「うむ! それでは離れていてくれ!」


 帰宅の期限である臨海学校三日目の正午、残った全員での共同生活をする事になった臨海学校、アンリの性別をどうやって誤魔化すのか明確な答えが出ない問題を抱えつつも僕は砂浜に出て、マナフ先生の魔法によって大量に切り出された木材の山を見ていた。


 自分に何かあった時の事を考えて一時の屈辱を選んだ帰宅組や、口では帰宅組の振りをしているけれど怖かっただけの逃走組、そもそもハンティングで合格ラインに達しない失格組、それらを省き、残ったのは僅か数名。


 男子(と男子って事になっているのは)僕、フリート、アンリ


 女子 リアス アリアさん ネーシャ チェルシー


 そして助っ人としてフリートとチェルシーは家の騎士(フリートが男でナタリーが女)を呼び、アリアさんは呼ぶ相手が居なくって、ネーシャはこれだけの人数が居るのだから呼ぶ必要はない、との事。


「ふふふ、ロノス様に守っていただけたなら幸いですわね」


 まあ、こんな感じだ。

 何かあった場合が怖いな……。

 帰れと言って帰る性格じゃないだろうしさ。


 そして僕の所にレキヤが来た……迄は良かったんだけれど、レナでも来ると思っていたら来たのは別の人、来なくて寂しいのと安心したので半々だ。

 いや、開放的な場所な上に周囲に人が居る所で誘惑されでもしたらさ、しかも水着で。


 うん、ちょっと残念かな? ちょっとだけ……。



 兎に角、此処のメンバーは襲撃されている身だ、要するに侮られたって事で、簡単には帰る訳にはいかない。

 狙われたからこそ帰るべきと言う意見も有るだろうが、国がバラバラなせいで自分だけ逃げ出せはしないってのが面倒だ。

 まっ、家の面子を背負うのも僕達の役目だよね。



 僕達が砂浜で見守る中、ルート先輩の魔法によって木材が組み合わさり、巨大な建物へと変わって行く。

 頭の中まで筋肉で一杯で、なんでもかんでも筋肉で例える熱血漢な一族、それが僕が知るルート一族だけれども、同時にこの一族の特徴として植物を操る変異属性の使い手が多く生まれ、秘伝魔法を継承し続ける。

 尚、ゲームでは攻略キャラだ。


「俺様って攻撃力最高の火属性の名門だがよ、偶~に珍しいのも使いたくなるんだよな」


「まあ、アンタの魔法って破壊一辺倒だものね」


 僕達が共同生活を送るのは彼が現在建設中の巨大な木造建築、何故か丸みを帯びたキノコ型の可愛らしい見た目なんだけれど、趣味だろうか?

 いや、しかし聞き辛いよね、可愛いのが趣味なのかって。



「ねぇ、ニョル。随分と可愛らしい建物だけれど趣味なのん?」




「趣味だ! 俺は可愛い物が好きで、女の趣味も美人よりは可愛い系だぞ!」


 こんな時、空気を読まずに質問してくれるのはリアスなんだけれど、今回はトアラスだ。

 おっと、僕達を見てウインクしているし、流石は拷問貴族、表情から心の機微を読みとったな。


 そして趣味か、そうか、趣味なのか……。




「よし! 完成したぞ!」


「あらん、素敵になったわね」


 木材を自由自在に組んでキノコ型の建物に変えた上、表面に苔を生やしてカラーリングも絵本に出て来そうな見た目、でも、防衛設備としては足りない気がするんだけれど……。



「内部は勿論、一人一部屋、男女は談話室を挟んで分けている! 当然ながら風呂も別だぞ!」


 可愛さばかりを追求したかと思ったら、内部もちゃんとしているらしい。


「男女別……」


 困った様に呟くアンリ、そりゃそうだ、誤魔化すのに都合が悪すぎるんだ。

 先生が二年生二人を押さえてくれるとして、フリートをどうやって誤魔化そうか。

 ルート先輩の気遣いは当然の事なんだけれど、それが彼女を追い詰めるんだから困ったな。


 そもそも性別を偽るとか、どうしてそんな掟があるんだ、ヒージャ家にはさ。

 国には国、家には家の掟とその理由が有るにしろ、今だけは文句が言いたかった。






「でもん、ちょ~っと防衛性能に問題が有るしぃ……私も手を加えさせて貰うわん」


「手を加える? それは一体どういう意味……」


 これが返答だとばかりに地中から飛び出す有刺鉄線、そしてアイアンメイデン。

 アイアンメイデンが建物を取り囲む塀になり、入り口と窓を除く全てが覆われて……。



「お、俺のキノコハウスが……」


 随分と厳つくなりました。

 寧ろ可愛いキノコ型だったせいで余計に厳つさが上がっているような……。



「ごめんなさいねん。でも、こっちの方が良いと思うわん」


 呆然とした様子で要塞と化した建物を見るニョル先輩、そしてケラケラ笑いながらその姿を見るトアラス。

 この二人、仲が良さそうに見えたけれど相性悪いのかな……。

 


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挿絵(By みてみん)

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