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認めて欲しい相手 どうでも良い相手

 ”魔女の楽園”だけれど乙女ゲームなのにも関わらずBADエンドが結構存在する。

 いや、他の乙女ゲームを知らないけれどさ……。


 ”魔女”だの”悪魔憑き”だのと恐れられ、好感度が殆どマイナスな彼女がそのままイベントを進めた場合、要所要所で死亡フラグが立つんだけれど……最後の”首飾りイベント”だけは本当に拙い。

 何せ他のイベントがレベルを上げてのごり押しで防げるのに対し、所属する国の王子が潰しに来るこのイベントは例えレベルがカンストしていても駄目なんだ。


「……どうしよう?」


「何でアリアがあの首飾りをして来ているの? それもこんな序盤に。お兄様、何かやらかした?」


「さあ? 本来はリアスの挑発で着けたんだよね。”貴女の母親はロクな装飾品も残して居ないのね”とか言ってさ」


 昼休み、人目を忍んで校舎裏にやって来た僕とリアスはこれからの事を相談していた。

 これからアリアさんが王家の血を引いていると王国上層部に広まった結果、御輿に担いで利用する気の連中と、それを危惧する連中の政争が勃発、結果としてアリアさんは暗殺される。


 実はこのイベントの時点でエンディングを迎えるキャラが決定して、そのキャラが後ろ盾になる事で防ぐんだけれど……彼女、どの攻略キャラとも全然仲良くなっていないんだよね。


「……それでどうするの、お兄様? あの子が……正確には闇属性の強力な魔法使いが居ないと絶対に倒せない上に倒さなくちゃ不味い奴が居るでしょ? 他に戦えるだけの使い手を探すにも……」


「見付かる保証は何処にも無い、か」


「……私があの時庇ったのが悪かったのかしら? 知らない振りして放置すれば……」


 俯いて不安そうに呟くリアスに対し、僕は手をそっと頭に乗せて撫でてやる。

 今の年齢じゃ子供扱いにも程があるけれど、前世では僕達が不安そうになるとお姉ちゃんが頭を撫でて励まして、僕もこの子が不安そうにしていたら真似していた。


「大丈夫、僕が何とか手を尽くす。……ゲームと違って切れる手札を持っているからね」


 リアスを励まして笑顔を見せた後、指を鳴らして背を向ける。

 目前に居並び跪くのは僕の手札である忍び装束の手駒達。


 そんな彼女達に向けるのはクヴァイル家次期当主としての顔だ。

 リアスが知らない、知る必要の無い顔だ。


「部隊を分けて王子派と反王子派の双方を探ってアリアさんの護衛も行って欲しい。……君達のやり方で構わないからさ」


「はっ! ……散っ!」


 先頭の一人が返事をすると共に一斉に姿を消す。

 さて、そろそろ合流しようか……。


「あの子達が”夜鶴よづる”が用意した……」


「うん、そうさ。僕の所有する道具さ。……ああやって人格があるのを知ってるから道具って呼ぶのは抵抗があるんだけれど、”それが誇りです”だって言って譲らないんだよ。他は何でも命令通りに従うのにさ」


 どうも僕は人を指揮下に置くのに向いていないと自分でも思うし、お祖父様も既にそうだと判断して補佐官を育てて居るからなぁ。

 貴族の生まれとしては情けないけれど、僕が望まれているのは”時”っていう唯一無二で有益な力を高め、必要な時にそれを振るう事。

 現場仕事と経営関係は適材適所に人員配置ってだね。



「お兄ちゃん、無理は駄目よ? 私にとって友達よりもお兄ちゃんが大切なんだから」


 少しむくれたリアスがポカポカと結構強い力で叩いてくる。

 ああ、僕は隠している積もりでも、この子は何かを察しているんだな。

 やれやれ、兄としても少し情けないや。


「人前では”お兄様”って呼んでね。まあ、もしもの時は頼りにしているよ。何せリアスは前世から自慢の頼れる妹だから」


 また軽く頭を撫で、二人でアリアさん達が居る場所に向かう。

 そうだ、僕には頼れる妹が居るんだから起きる前から色々と不安になる必要なんて無いんだ。

 ……予想だけれど未だ王家の血を引いてるかどうかの疑惑の段階で、何の功績も得ていないアリアさんじゃ担ぎ上げるには頼り無い。


「アリアさんが学園外からも注目されるイベントって何があったっけ?」


「校外学習の時……だったと思うわ。例の四天王的なのの最初の一体と戦うのよ。偉そうにしていたのに一切光魔法が通じなくて逃げ出したゲームでの私と違ってね」


 その後、英雄として名を上げるから担ぎ上げたり取り込む価値を見出され、敵勢力に回るのを恐れられて……。



「あの子の人生って糞ゲーだよね」


 身内からも恐れられる力を持って生まれ、その力を大勢の役に立てると証明したら証明したらで……だからなぁ。

 本当に闇落ちしないのが不思議な鋼メンタルだ。


 まあ、”主人公”の運命なんて大抵のRPGで糞ゲーだと思うよ。

 何せタイミングとかの関係で他に代わってくれる人が居ない中、たった数人で世界を滅ぼせる相手に挑むんだからさ。


 ……さっきも話したけれど、”都合良く戦力になる闇属性の使い手が見付かって手を貸してくれる”、そんな奇跡を前提には動けない。

 精々が一応探してもしもの時に備える程度だ。


「人間殲滅なんて目論む神様が二人も居る世界に生まれた時点で全員糞ゲーじゃない。まあ、もしもの時は私達が助けましょうよ。世界の命運なんて面倒な物を背負う運命の子の一人くらい背負うのなんて楽勝だわ。何せ私達は世界で一番と二番目に強いんだから」


 ……リアスが凄くマトモな事を言った!?




「……凄く失礼な事を考えなかった?」


 相変わらず勘が働く子だなぁ。




「……最終的には功績を口実にお兄様がお嫁さんにしちゃえば?」


「結婚ってお互いに了承した上で行うものだからさあ。貴族だから別のパターンが多いけれど、最終的には彼女の意思次第じゃない?」


 少なくても出会って数日の僕が色々決めるのには抵抗が有るんだよね。

 てか、急な提案だよ。




「……王家の血筋」


 お昼休み、何時もよりも遠巻きになった同級生達の視線を浴びながら空を眺める。

 何時もより視線が強い気がするけれど、どうでも良い相手に注目されても何の感情も湧いては来なかった。


 貧乏な子爵家で闇属性の私、華やかな貴族社会とは縁なんか無いと思っていたし、ロノスさん達との縁も学園に通っている間だけだと思っていたし、それで良かった。


 これからの人生をその思い出を支えにして生きて行く、その筈だったのに……。


「本当に王家なら、私を血筋の者だと認めて貰える日が来たなら……」


 そんな筈が無いし、持ち上げられた所で放り投げられるのだと思う。

 期待しても無駄だと今までの人生で分かりきっていた筈なのに、抱くべきでない希望を抱き、直ぐに醒める夢を見てしまう。


 私が王家の一員になればクヴァイル家とも、ロノスさんとも付き合いを続けられる。

 もしかしたら友人の更に先に進んで……。



「……駄目。夢から醒めた時、今の幸せすらも色褪せてしまうから。私なんかが認めて貰えるハズが無いんだから……」


 不相応の願いを抱いても意味が無いから、今を楽しもう。



「おーい! お待たせ、アリア」


「あっ、リアスさん」


「お兄様はチェルシー達を探しに行ってるから後で来るわ。先に席を用意しておきましょうよ」


 だって今の状況すら次の瞬間には醒めてしまう夢みたいな幸せなんだから。



 友達を作るだなんてとっくの昔に諦めた筈だったのに。こうして一緒に食事を取る日が来るだなんて

……。



「リアスさん、決闘を頑張りましょう!」


「当たり前よ。ギッタギタにしてやりましょう!」


 少し凶悪な顔で拳をゴキゴキと鳴らす彼女の姿に思わず笑みがこぼれる。

 ああ、本当に幸せな時間だ。

 この時間がずっと続けば良いのに……。


 それに特訓は辛いけれど、ロノスさんが誉めてくれるからやる気が出る。

 この人達さえ認めてくれるなら、他の誰に否定されても構わない……。


「あっ、今日の特訓だけれど、お兄様はちょっと用事が有るから参加出来ないわ」


 ……なーんだ、残念。

 ロノスさんに良い所を見せたかったなぁ……。

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