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ブラコングは寝相が悪い

新章です!

 ……夢を見る、何度も繰り返す悪夢を見る、幼き日の悪夢のような過去を夢見る。


「下らん真似をしたな。貴様には期待していたが、どうやら見込み違いだったらしい」


 滅多に会えない母、認めて欲しい相手、期待してくれていた皇帝陛下、その人が私に向ける目は冷たく、私に今まで向けていた眼差しは温かみこそ感じられなくも後継者として認めれてくれていた筈の物、それがたった一つの間違いで一切の興味を失い、まるで路傍の石ころでも見るよう。


 凡庸な妹と何処までも並以下の伯父、双子という帝国では禁忌とされている風習、母自体は些末な事だと鼻で笑う事であっても皇帝として古い価値観を持ち続ける臣下や国民の心情を加味して隠し続けられた私達双子の姉妹は高い皇位継承権を持ちながらも存在を秘匿して育てられ、客観的に見て私が次期皇帝になるのは間違い無かった……それなのに。


 俯きながら椅子の肘置きを強く握って奥歯を噛みしめ、母の背後でオドオドしながら此方を見る二人、私からすれば同情の対象であり、常に尊敬を求めるべく動いていた相手。

 そして、その行動の結果が手に入る筈だった………いや、手に入れるべきだった地位を手放し、豪商とはいえ貴族ですらない家に養子に出されるという末路。


 ……おい、何を同情した目で見ている?

 お前達程度が私に同情するな、哀れむな、見下すな!



 ……絶対だ、絶対に成り上がり、傀儡にしかなり得ない凡人皇帝や何処かに婿養子という道具として出荷されるだけの出来損ないよりも高い地位を、名声を得てやる。

 その為ならば私は何でもしてやろうじゃないか。



 何十、何百、何千と繰り返した誓いを今日も行い目を開ける、朝食を食べずに直ぐに寝てしまったからか、今朝までの疲労が抜けきらない体は万全ではなく少し動き辛かった。


「……さて、二度寝しましょう」


 皇族だった時も、商人だった時も朝は早かったけれど、私の目は何時もその早い時間よりも先に目覚める。

 でも、だからといって直ぐに行動はせず二度寝を結構するのが私の習慣、あの夢を見た時は尚更、何故ならば将来の幸せを望む夢を見た後だからか何時も二度寝の時の夢は心地良いから。


 でも、この日に見た夢は少し違って、どちらかというと悲劇の類、それでも夢の中の私は悲しみと共に幸福も感じていた。




「本当に良いの?」


「……これ以上何も言わせないで下さい。これでお別れだから、せめて貴方の存在を刻み込みたいのです」


 悲劇というか悲恋というか、その手の芝居の一場面みたいな状況で、私は星空の下、ロノス様と共に花畑で寝そべって、これから何が起きるのか分からない程にウブではない。


 ……詳しい状況は分からないけれど、馬鹿な真似をしようとしているのは何となく伝わっては来る。

 もう二人は別れるのだろう、彼は死を覚悟した顔をしているから二度と会う事は無いのだろう、なのに体を重ねるだなんて本当に私なのかと夢ながら呆れてしまう。



 でも、夢の中の私から伝わって来るのは彼への愛しさと求め合う事への幸福感、そして今生の別れとなる事への覚悟、この行為が自分に何をもたらすのか分かっていても、それでも夢の中の私は……って、このままではっ!?


 そういった知識は持っているし、相手を籠絡する為のテクニックも学んではいますが、実体験は未だ行っていない、そういった事に価値を見出す殿方は多いからと教師は言っていた。


 そんな私は空の下で服を脱ぎ、同じく服を脱いだロノス様に身を委ねる。

 唇を重ね、全身を触り合い、とても未経験の私の知識から来る妄想の範疇を超えた内容、私にはこんな願望が有ったのかと起きている時と同じ程にハッキリとした頭が困惑する中、遂にショーツがずらされて……。


「ま、待って……」


 止めようとする声は出ず、夢の中の私は寧ろ受け入れているだけ、つまりこのまま……その時、爆裂音と振動が響いて私は目を覚ました。



「ひゃっ!?」


 慌てて起き上がり夢が終わったのを察する。

 惜しい……何故かそんな風に思う自分が居たけれど安堵も同時に存在してホッと一息、ショーツが少し湿っているのは寝汗だと言い聞かせ隣を見ればリアス様のベッドが真っ二つに割れていた、それも土台だけではなくマットまで完全にでリアス様はずれ落ちながらものんきに寝ている。



「え? 一体何が……」


 思わず呟く疑問の言葉、でも仕方が無いだろう、だって貴族用なだけあってフカフカで丈夫な高級品、それが真っ二つになるだなんて異常事態、まさか敵襲かと焦ったけれど、彼女が寝返りを打った事で疑問が解消した。


「うーん……」


 寝返りと同時に私では目で追えない速度で振り抜かれる拳、それが頑丈な筈の床を粉砕、分厚い床板を叩き割ったのに手には傷一つ無く、本人も起きる様子が見られない。

 つまりは無意識に放った拳が巨大な鋼鉄のハンマー以上の威力を持っている、そういう事だ。


「身の回りの世話をする使用人達も大変ですわね。いや、本当に……」


 昨日の仮眠の最中は此処まで酷くはなかったのに、まさか寝相でベッドと部屋を破壊する程にまでなるだなんて、これでは添い寝をする相手は大怪我は必須。

 貴族令嬢なのだから普段の生活ではメイドが色々と世話を焼くのだろうが、朝起こすのも命懸けになりそうだが、何か起きたとは聞こえて来ないから何とかなっているのだろう、クヴァイル家の使用人恐るべし。


「噂では”聖女の再来の血を余所に渡さない為に彼女は嫁がせない”とされていますが、この歳で婚約者の噂も聞かないのって見付からないからでは? ……ブラコンでゴリラ……ブラコングですし」


 あっ、これだとブラをしているゴリラみたいだ、必要無いんじゃって貧乳ですけれども。


 はっ! 殺気っ!?


「き、気のせい……ですわよね」


 寝ているリアス様の方から感じたプレッシャー、まるで山より巨大なゴリラが拳を振り上げたみたいな恐怖、気のせいだと言い聞かせるも冷や汗が背中を伝うのを感じ、時計を見れば昼過ぎ程度で徹夜で森の中で戦っていた事を考えれば起きるには少し早い時間……だけれども。



「一旦起きて汗を流しませんと。グッショリですし、色々と処理する必要が有りますわ」


 杖を手にして起き上がり、大きく溜め息を吐く。

 認めざるを得ない事実を夢を通して認識させられたからだ。





「私、結構チョロかったのですね。……それにあんな内容だなんて悲劇のヒロイン願望がある上に欲求不満みたいで……はあ」


 自己認識の甘さがつくづく嫌にはなるが、自覚した恋心は意外と心地良い物だった……。


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