一難去って……ないんだけれど
どうしようか、凄く大変な状況なんだけれど解決策が即座に思いつかないぞ。
「うぅん……」
僕のベッドの上で中途半端に被った毛布から見えるのは褐色の形の良いお尻、まあ、僕はお尻より胸派なんだけれど……って、そうじゃない!
兎に角騒がずアンリを起こさないようにしなくちゃ駄目だけれど、彼女って結構寝汚い所が有るから簡単には起きないか、せめて裸で眠るのは目のやり場に困る、見なければ良いんだけれど、僕も眠りたいんだよ。
「うん、カーテン閉めて僕がアンリのベッドで眠れば良いだけか」
速攻即座に完全解決、アンリが一度使ったベッドなら少し気まずい気もするんだけれど、昨日だって僕のベッドで眠ってたから未使用だし……てか、二日続けて僕のベッドで裸で眠るとか何を考えてるんだよ、僕が勘違いしないだろうって信頼感から気が抜けて間違えたんだろうけれど……。
そうと決まれば眠気が酷いからベッドにダイブ……したい所だけれど、お尻からは目を逸らしながらアンリへと近付いて行く、寝る時に邪魔だからか髪を束ねているからか背中やうなじが見えて素直に綺麗だって思ったよ。
「何で男装が見破られないのかな、君ってさ。こんなに可愛い女の子なのにさ」
普通に評価してアンリは美少女だろう、それでも友情には影響しないんだろうけれど。
さて、僕が何の目的で眠っているアンリに近づいているかって言うと、当然ながら寝込みを襲うためじゃなく、ちゃんと毛布を被せる為だ。
冷房機器なんてファンタジーな世界には存在しないけれど、貴族の学校が用意したログハウスだけあって夏場でも快適に過ごせるように魔法が使われているから室内は夏場でも少し涼しいし、少し髪が湿っているから軽く汗を流したんだろう、僕がマザコンと話した後で小一時間程ポチを撫で回している間にさ。
いやぁ、ポチと過ごすと時間が経つのを忘れちゃうよね!
だって可愛いから、凄く可愛いから!
「ムニャムニャ…タマは世界一可愛いなあ……」
「何を言っているのさ、一番はポチだよ、それだけは譲らないとして、流石に体を冷やしちゃうよ」
結構な勢いで照りつける夏の太陽により、歩いていれば汗ばむ位の暑さになった外の気温に比べ、直ぐに汗が引きそうな位に涼しい室内はまさに別世界、幾ら体を鍛えているアンリだって濡れた状態で毛布をちゃんと被らず寝たら風邪を引いてしまうだろう。
「途中で起きたら変な誤解をされる、とかは無いのが僕達の関係だけれど、起きたら恥を掻くのは君なんだから眠ったままでいてよね」
起こさないように小声で頼みながらアンリに近付いていけば、汗を流した後でちゃんと体を拭かなかったらしくシーツまで湿った状態、魔法で湿る前の状態に戻すにしても魔力に反応して起きるだろうし、これは本当にベッドを交換して貰わないと。
軍人としての訓練の賜物かアンリは眠っていても近付く相手に反応するらしく、目覚めたら大きな虫を叩き潰してしまっていた事もある程だ。
故に僕は気配を殺し、ゆっくりと近付いて毛布に指先を掛けて軽く持ち上げる。
至近距離だから視線を外そうとしても端にお尻が入っちゃうけれど、それは役得……じゃなくて不可抗力として良心を誤魔化した。
……横向きになって体を抱えて丸まって眠っているから前側は腕と足が邪魔して見れないのが惜し……幸いだろうな。
「……うにゃ」
起こさないようにと慎重になっていたからか毛布を掛け直すのが少し遅れた僕、そして寝返りを打ったアンリ、当然の事ながら前面が全面的に見える状況になり、僕の動きが鈍って乱れる。
お、落ち着け! 女の子の裸を見るのは初めてじゃないだろう!
確かに自己を含めて見たし、何なら複数相手に行為をした経験がある僕だけれど、そんな風に言い聞かせても恥ずかしい物は恥ずかしい。
異性の友人の裸を間近で見てしまった事への羞恥に耐えつつ、何とか目を逸らしながらも毛布を肩まで掛けた。
起こした場合、僕よりアンリの方が恥ずかしかっただろうから成功して良かったと安堵した、つまり僕は気を抜いてしまって前のめりになった瞬間にベッドに手を置いてしまう。
沈む表面、僅かに軋む音、その程度じゃアンリは起きないが、寝たままの状態で反応するには十分だった。
ベッドに置いた右腕が掴まれて引き寄せられ、そのまま僕はアンリの上にダイブ、する寸前に停止した空気の板を作り出して防いだけれど、魔力に反応したのか眠ったアンリは更に動く。
両足が僕の腰に絡ませて引き寄せながら締め上げ、もう片方の腕も掴んで離さない。
これ、本当に眠ったままなのっ!?
「っ!」
アンリは肉体面だけなら僕より強い、総合的には僕が圧勝するだろうけれど、相手を刺激せずに拘束から抜け出すのは少し厳しいし、間の板は咄嗟に作った物だから僕と彼女の間には殆ど距離が無い、それこそ息が掛かる程、少し動けばキスが可能な位だ。
何とか声が出るのを抑えたけれど、これって状況が悪化しているし、これならカーテン越しに起こせば良かったと凄く後悔する状況。
アンリの顔が間近にあるし、距離が距離だから今は見えないけれど彼女は裸で二人してベッドの上って不味い状況、本当にどうするべきか迷う中、奥の部屋から気配を感じた。
あっ、誰かは知らないけれど、この状況を見られたら色々な意味でヤバイぞ。
アンリが女の子って事もだけれど、どう見たって行為の真っ最中、嫁入り前所か結婚相手さえ決まっていない彼女の経歴に傷が付く。
「……いや、待てよ。一体誰だ?」
そもそも誰が居るんだって疑問が湧いた。
ログハウスはリアスを除いて二人一組、他の生徒が居る筈もなく、タマが見張っていたんだから並の相手が侵入出来る筈がないんだ。
だったら招かれた客人……ならポチが何か教えてくれる筈だし、それなら一体何処の誰だ?
恐らくは余程の使い手かタマの察知を欺ける程の切れ者……。
近付いて来る気配を探りつつ耳を傾けて情報を集める。
せめて足音から体格とかを探れれば良いんだけれど、達人や切れ者だった場合はその程度想定してるだろうけれど。
「にょほほほほっ! 流石は私様、こっそり侵入成功なのじゃ! このまま全部の服を台無しにしてやろうぞ!」
少なくても切れ者じゃない、それだけは確かだった……。
「矢っ張り昨晩の馬鹿ってサマエルか……」
ドタバタと家探しする音と聞き覚えのある少女の大きな独り言、どうも忍び込んだ手際の割に目立ち過ぎるし、此処まで馬鹿なら寧ろ馬鹿の演技の切れ者で、全部悟ってるんじゃって警戒しちゃうけれど、あれはそのレベルの馬鹿だから警戒しちゃうと恥を掻く。
ラドゥーンとシアバーン、ちゃんと手綱を握れ:。
それともこの精神的疲労の為の作戦なの?
寧ろそっちの方が有り難い!
「……彼奴は恥を知らないのかなぁ? 仮にも神に仕える獣の将だろうに家探しとか……」
今後敵対する相手の惨状にドッと疲れが押し寄せ、同時に焦りが生まれる。
今、手元に武器が無いし、もしもの時には夜鶴の情報を渡す必要も出て来るけれど、こんな状況で切ってしまうのは惜しい手札だ。
いや、素手で勝てるかどうか分からない以上、侮らずに此処で仕留める必要があるか。
「ままならないなあ……」
「にょほほほほっ!」
愚痴をこぼせば被せるように聞こえて来るサマエルの声に大きな溜め息を吐きたくなるんだけれど、アンリが起きる可能性があるから無理だ。
……あれ? 常人の背骨ならへし折る力で締め付けていた足の拘束が解けて……。
「ロ、ロノス?」
アンリと目が合った。
一難去らずに一難追加!
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