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友の忠告

 泥酔した王妃が隣国の王族を巻き込んで事故死した、そんな醜聞は両国にとっても隠したい内容で、一応隠蔽されたものの人の口は完全には封じられないし、国同士の関係は悪化、国境近くで頻繁に起こる様になった小競り合いは最終的に聖王国の仲裁で収まった。


 ……その結果としてあの女が新しく王妃の座に収まったのだが。


「新しい王妃様は有能で助かるな」


「ああ、前のが最悪だったのもあるが……」


 継母が優秀なのは認めるが、そのせいで母上が死後まで貶められるのは気に入らない。

 だって豹変しなければ優しく賢い人だったあの人は大勢に慕われた筈だ。


「父上、いい加減話してくれ。俺には母上が豹変した理由を知る権利が有る筈だ」


「……分かった」


 父上を何度も問いただし、漸く知った理由は”痴情のもつれ”、単に父上の浮気の結果らしい。

 王子時代にお忍びで出掛けた先で出会った女と恋に落ち、母上を妻に迎えた後も関係は続いたらしい。

 公にしていなかったのは相手の地位が低い故に排除しようとする動きが出かねない為だ。


 それが全ての理由。

 父上に心底惚れ込んでいた母上は嫉妬から心を壊し、あの様な最期に……。


「全て私の責任だ。だから彼女に贈った特注の首飾りと同じ物を妻の墓に供えよう」


 父上が俺に見せた首飾りを決して忘れないだろう。

 何故ならその女が母上を追い詰め、そして死なせた犯人だからだ。

 その後、父上の目を盗んでそれらしき女を探すが中々発見には到らない。


 それがこんなにもあっさりと見付かるだなんてな。



「陛下が私の母に贈った物!? そんなの何かの間違いです。確かに私は父が誰か知りませんが……」


 俺の言葉に驚き、信じられないと言いたそうな態度の女を見下ろす。

 アリア・ルメス、王国の貧乏子爵の一人娘で闇属性の使い手。

 存在を知った時は俺が統治する時代に面倒事を引き起こすであろう存在が生まれたのは厄介としか感じておらず、何か成果を上げても取り立ててやる気は無かったが、向けるのは無関心だけ。


 だが、今は違う。

 腹違いの妹かも知れなかろうが関係無い。

 此奴の母親のせいで俺の母親が死んだのだから。


「……許さない。俺は絶対にお前の母親を許さない。お前の存在を認めない」


 胸ぐらを掴んで持ち上げ、怯えた表情を睨む。

 周囲が騒がしいが今の俺にはどうでも良いんだ。


 今の俺がすべき事は”復讐”、それ一つしかないのだから。


「……俺もお前との決闘に参加するぞ」


 騒ぎを聞きつけて此方に向かって来る女を遠目に確信する。

 リアス・クヴァイル、継母の姪であり、目の前の女と組んで決闘を行う予定の相手だ。


「お前とあの女を揃って叩きのめし、母の仇を取った上で今の王妃の血筋に価値が無いと、母上の子である俺の方が優秀だと証明してやる」


 胸ぐらを掴んだ手を振り抜けばアリアの華奢な体は宙を舞い、ロノス・クヴァイルが受け止める。


「女の子に乱暴するのはどうかと思うよ? 途中からだけど、どうも君が一方的に絡んでいたみたいだしさ。ほら、彼女に謝って」


 兄妹揃って昨日の授業で最高成績を叩き出した二人の片割れであり、アリアと少し仲が良いらしき男、俺は此奴が嫌いだ。


 あの女の血筋より、母上の血筋の方が優秀だと証明しなければならない。

 だから昨日も調子に乗った所に恥を掻かせようとし、逆に優秀さを示す結果になった。


「……お前も何時か必ず倒す」


 嫌いな……いや、憎い相手が三人も目の前にいる事実に耐えられそうにない。

 例え逆恨みや見当違いな物だとしても、俺の腸は煮えくり返りそうだ。


「って、無視!? 随分と嫌われたなぁ……」



 俺が敵意を向けても平然とするロノスに少し苛立ち、最後に奴を睨むと俺は背を向けてその場から去って行った。

 背後で妹の方が何やら叫ぼうとして取り巻きに口を塞がれる様子が声で伝わるが、今は一刻も早くこの場を離れよう。


 「馬鹿馬鹿しいな……」


 ……俺の行いは王子としては正しくないと分かっている。

 だが、それでも豹変した母上の姿が頭から離れず、死後に向けられる嘲りの言葉が耳から離れない。


 きっとこれは俺の中で決着を付けない限り続き、俺は前に進めないのだろうという確信があった。


「見ていてくれ、母上。俺は絶対に勝つから……」


 この言葉が届いたとしても、もしかしたら正気に戻っていて俺を止めるかも知れないけど、それでも俺は……。





「ったく、女の子を放り投げるだなんて何考えてるのよ、あの馬鹿。チェルシーも何を邪魔してるのよ!」


「そりゃ邪魔しますよ。リアス様が何時ものノリで喧嘩売るの。それが私の仕事ですから」


 ルクス王子が去り、関わり合いになりたくないと大半の野次馬が去って行く中、さっきから口を塞がれた状態のリアスが解放されるなり食って掛かっている。


「貴女、ゴリラだけれど本国では建国の英雄の血を引いて、英雄と同じ力を振るえる人ですよ? それが王子に喧嘩売るとか馬鹿なんですか? いえ、馬鹿でしたね」


「ぬぐぐ……」


 もー、駄目だよ、リアス。

 君が口でチェルシーに勝てる筈がないんだからさ。


 それでも一応分が悪いと思ったのか納得した様子のリアスは大人しくなったし、ひとまず安心だ。

 ……リアスはだけれども。



「それにしても女の子を放り投げるだなんて酷い事をするよ。顔に傷でも出来たらどうするんだよ。怪我はないかい?」


 問題はルクスに投げられたから咄嗟に受け止めたから腕の中にいるアリアさんだ。

 今ので出生の秘密を知ってしまったみたいだし、ゲームと違って多くの冒険を繰り広げて心身共に成長していない今の彼女じゃ耐えられないかも。


 ……今回の事件、通称”首飾りイベント”は本来ならゲーム終盤で起きる筈だけれど、彼女はどんな心境の変化で首飾りを付けたんだ?


 まさかゲームと違って人に見せるなって言われてないとか?


「……ごめんなさい。ちょっと動揺してて、少しだけこのまま……」


「えっと……どうぞ?」


 アリアさんは僕に密着して顔を胸に埋めて表情が見えない。

 でも、多分人に見せたくない様な表情になっているんだろうし、咄嗟に了承しちゃったからなぁ。


「お兄様、先に行ってるわよ? 遅刻しちゃうもの」


「え? もうそんな時間?」


 とても離れて欲しいとは言えない状況の中、僕は空を仰ぎ見る。

 リアスが僕を置いて駆け足で校舎に向かい、予鈴の鐘の音が聞こえて来た……。




「もう大丈夫かい?」


「は、はい……」


 あの後、何とか落ち着いたアリアさんと一緒に僕は教室へと駆け足で急ぐ。

 少し動揺が残っているのか足取りがおぼつかなかった彼女の手を引いて走っているけれど、あんな事の後だからか真っ赤な顔を伏せているし、僕も少し恥ずかしくなって来たな。

 熱くなって来た頬をポリポリと掻き、何とか時間ギリギリに教室に到着くした。


「ギリギリセーフ! ……うーん、もう広まっているのか」


 ドアを開いて突入した瞬間、視界に入って来たのは此方を見てヒソヒソと話すクラスメイト達の姿で、僕は痛烈に嫌な予感を覚える。




「王子と敵対……」


「……もうルメス家は終わりだな」


 あっ、どうも間違った内容の噂が広がっているっぽい。



「フリート、どんな噂になってるか一応聞かせてくれる?」


 こんな時のフリートだ。

 一旦アリアさんと別れて情報を手に入れに向かう。

 取り巻きになりたい人達に囲まれて鬱陶しいって様子の彼に近付けば、周りの人達を邪険に追い払って僕を手招きして来た。


「おいおい、俺様に挨拶する前に質問か? ダチだから許してやるがよ。まあ、噂好きの連中が多いし、尾鰭背鰭で全くの別モンになってやがるぜ」


 僕と違って王国の貴族だし、王家に近い家だから話を聞き出しやすいと思って聞いてみれば、知りたいとは言っていないのに噂話は入って来ていた。


「何か”彼奴の母親が先代王妃と敵対してた”やら”王家の敵として取り潰し”だの色々だ。断片を繋ぎ合わせると……まさか国王の隠し子だったとはな。……あんまり関わるなよ? 面倒な連中は正解にたどり着くし、直ぐに動く。王国のいざこざに巻き込まれるぞ」


「……あー、うん。普通はそう思うよね」


 最後は真剣な表情で忠告してくる彼は本当に友達なんだなって思える。



 でもさ、そうは行かないんだよね。

 彼女が居ないと厄介な脅威が存在するのに……”首飾りイベント”では主人公の死亡でのbadエンドルートが存在するんだから。


 

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