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昔のままの……

総合千八百突破 今年中に何処まで行ける?

 気が付けば周囲は一面の闇、だけれども自分の手と目の前の相手の姿だけはハッキリとみえていた。


「えっと、あの子から聞いてる? お姉ちゃん……よ。そんな資格はないかもだけれど」


 前世の記憶が蘇って八年程、この世界での僕としてだけ生きた期間の記憶も当然ながら有る訳だから随分と記憶が朧気になって行く中、それでも家族の記憶だけは完全には失わない。

 声は正確に思い出せないし、どんな事を話したかも詳細に思い出せる訳じゃないけれど、年の離れた弟と妹の世話を焼いてくれるお姉ちゃんの温かい笑顔は薄れる事無く思い出せるし、あの側に居るだけで感じられた安心感だって同じだ。


「え、えっと……元気だった?」


 目の前には初めて会う女の人、今まで会った三人の……三人? いや、二人だ、二人の神と同様に会うだけで相手が神様だと分からせる存在感、そんな物を放ちながらも少し慌てて不安そうな表情を浮かべる姿は少し奇妙で、同時に懐かしさを感じさせた。


「うん、元気にやってたよ……お姉ちゃん」


 リアスの話を聞いた時、僕は半信半疑でしかなかった。

 僕とアンリに手下を差し向けた闇の女神がお姉ちゃんだっただなんて、思い出の中の姿とあまりにも違い過ぎたから、記憶を読んで演じているだけか、それとも洗脳をされているのか。


 もしそうなら僕だって洗脳された状態だけれど、そうでは無いと目の前の相手を見ていると思ってしまう。 


 僕や前世のリアスが泣き出した時、こんな風に慌てながらも泣き止ませようとしていたのを今でも思い出し、その時の姿が重なって見えたんだ。

 姿や服装、声だって朧気ながらも違うと確信出来るけれど、こうして対面しているだけであの時の安心感が蘇って来る。

 ああ、あの子が迷い無くお姉ちゃんだと信じる筈だ。



 こうしているだけで前世の幼い頃の思い出が蘇って来る中、おどおどとした様子のお姉ちゃんの顔が近くにあった。

 懐かしんでいる間に近寄って来たらしくって、僕の顔をペタペタ触ったかと思ったら今度は体に移って行く。

 うーん、凄い美人、女神だけに人離れした神秘的な美貌だし服装は砂漠の国の踊り子とか下着みたいな露出度だし、この距離だと谷間が見えちゃうんだけれど中身が誰か知っていると何も感じない。

 アレだよ、身内が薄着をしていたら体を冷やさないかって心配する感じ、実際に前世の姉だし。


 でも、身内だからこそ此処まで露出度が高い格好をしているのを見るのは恥ずかしいな、有る意味。


「え、えっとね、この前は中身が貴方だって知らなかったとはいえ襲っちゃってごめんね。お姉ちゃん、本当に反省しているから。そ、それで怪我とか残ってない?」


「大丈夫、怪我事態していないし、お姉ちゃんがテュラだって知ったら気にしなくなったから」


「そっかぁ。お姉ちゃん、一安心だよ。だって私には二人しか居ないし、もし嫌われたりしたかと思うと……うぅ」


 ホッと安心したのも束の間、目に涙を滲ませて今にも泣きそうな顔に僕は固まってしまい、どうして良いか分からなかったんだ。

 リアスが泣き出した場合は前世も今も慰めるのに慣れているし、即座に動かなくっちゃって使命感さえ持っているけれど、相手がお姉ちゃんだったなら話は変わってくる。

 姉と妹の間に価値の差は無いけれど、僕が妹を何が何でも守り抜くって決めたのはお姉ちゃんが僕達を守っていてくれたからだ。

 僕達とは十歳近く離れていたお姉ちゃんは不在がちな両親に代わって僕達の世話を焼いてくれて、僕達にとっては姉であり親、誰よりも頼りになる人で、僕達が怪我をしたり泣いたりするのを見てあたふたと慌てる姿は見たけれど、泣き出した姿なんて見た事がなかった。


「あの、お姉ちゃん……」


「えっぐっ! だ、だって、私はずっと一人で二人とはもう会えないって思ってたから。だからあの子がリアスだって知った時も泣きそうになって、でも私はお姉ちゃんだから情けない姿を見せちゃ駄目だって言い聞かせて耐えてたのに……」


 お姉ちゃんは僕の前で気持ちが抑えきれずに泣き続ける。

 情けない僕はどうして良いか分からずオロオロとするばかりでどうやって慰めて良いのか分からず固まったままだった。


 そうして暫く泣き続ける姿は僕が知っている頼もしくって目標にしていたお姉ちゃんでもなく、ましてや人間を殲滅しようとした闇の女神軟化じゃない。

 ……僕が襲われた事は良いとして友達であるアンリまで襲われた事には文句を言おうと思っていたんだけれど、言う気が失せちゃったよ。


 説明不可能だから僕が代わりに謝っても困らせるだけだし、友人として何か奢って、互いに大人になった時に可能な範囲で取引を譲歩するとかその辺りしかないか。


 この時の僕はテュラがリアスを騙しているか、本当だったとしても記憶があるだけで別人同然になっていると危惧していたんだけれど、目の前で泣く姿や再会した時に感じた物によって僕が知るお姉ちゃんのままだと安心した、安心してしまった。


 だから気が付け無かったんだ、僕やリアスが前世と比べてどうなったのかって事を忘れてしまって……。




「……情けない所を見せた。許せ、我が弟よ」


 そして暫く経って漸く泣き止んだお姉ちゃんだけれど、前世では何かゲームキャラの真似かと思っちゃいそうな口調で話す。

 但し褐色の肌を恥ずかしさで赤く染め、目を逸らしていた。


 うわぁ、前世でも恥ずかしい時はこんな表情になっていたよね、この人。


「え? その口調、何?」


「……普段のお姉ちゃん。二人に会えた事で昔に戻っちゃったけれど、基本これなの」


「あっ、うん……」


 だからつい指摘しちゃったけれど、僕達だって前世の僕がそのままロノスとして育ったんじゃなく、前世と今の記憶を両方持っていて、其れまでの人生で得た価値観を混ぜた状態だ。

 だから前世では無理な非道な選択だって出来ちゃっているし、貴族として複数の相手と結婚する。

 リアスだって前世でもお転婆だったんだけれど、今みたいにゴリラの如き力強さは無かったし。


 だから女神としてずっと長い時間を生きていたテュラとしての人生で使っていた口調が出ても仕方が無いのかぁ。


「じゃあ、貴方ともお話を……あっ! もう時間切れになっちゃう!」


 お姉ちゃんが慌て出すと共に一面の闇に少しずつ光が混じりだし、二人の再会の時間が終わるのを告げていた。

 そっか、相談したい事もあったし、もっと話したかったけれど……。



「お姉ちゃん会えて良かったよ。じゃあ、次に力が貯まったらあの子の方に会いに行ってあげて」


 僕はお兄ちゃんだ、二度と会えない訳でもないし、妹を優先しないとね。

 ちょっと寂しいけれど、僕よりもリアスの方がお姉ちゃんにベッタリだったから……。





「良い子良い子、転生してもちゃんとお兄ちゃんやっているのね。何か悩んでいるみたいだけれど、貴方なら大丈夫。ちゃんと妹を守ろうとするんだから間違った選択肢を選ばないわ」


……ああ、この人は凄いなぁ。


 頭を優しく撫でられながら前世を思い出せば、僕やリアスよりもずっと長い時間別人として生きて来たのに、お姉ちゃんはお姉ちゃんのままだったんだから。




「うん、そうね。……二人に褒美を与えよ……ご褒美をあげるわね」


 あっ、今、テュラの面が出ちゃった……。

 ご褒美かぁ、前世ではお菓子を作ってくれたっけな。








「二人を除いて人間は皆殺しにする予定だったけれど、友達だっているだろうし、二人がお世話になっているから聖王国と二人の友達だけは生かしておいてあげる。二人は人間の王になるの、凄いでしょ!」


 前世の記憶のまま、僕達が大好きだったお姉ちゃんのまま、そんな事を言われ、僕は言葉の意味が直ぐに理解出来なかった……。

 



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