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皇女様は認めない

忘れていた設定再使用!

「もう夜明けですわね。……夜更かしは美容の天敵ですのに困りましたわ。戻ったらパックをしませんと」


 夜明けが迫る中、流石に疲れが限界に達してしまった私は馬車の運転が少し荒くなりながらも森の出口へと向かいながら大きな欠伸をしそうになるも何とか堪える。

 隣に居るのは私が婚姻関係を結ぶ予定の相手、元々商家の娘としても皇女としても隙を見せるべきではありませんし、相手が相手ならば尚更ですもの、本来ならば操作が乱れる事自体がお粗末ですわね、情け無い。


「そうですね。私も魔法を使い過ぎてクタクタです……」


 そんな私を余所にアリアはうつらうつらと舟を漕ぎ、このまま落としてやりたい衝動に襲われながらも利用価値を自分に言い聞かせて堪えるのですが、皇女である私が手綱を握って夜通し働く御者で、下級貴族の彼女がゆっくり休むって普通逆じゃありませんこと?


 いや、この馬車は私が動かしているのだから当然ですが、どうも納得が行きませんわ。


「……それにしてもアリアさんの魔法は素晴らしい威力でしたわ。私もそれなりに自信があったのに、まさか彼処まで威力に差が有るだなんて」


「い、いえ。私は空を飛ぶ以外は攻撃にしか使えませんし、ネーシャさんの魔法の方が応用が効いて凄いと思いますよ」


 私の賛辞に慌てて謙遜する彼女ですが、本当にあの戦闘力は……ええ、兵器としての能力だけは素晴らしいと認めましょうか。

 只でさえ闇属性は持って生まれただけで迫害の対象となる上に数が少なく未知数、本能的な恐怖に加え実際に威力まで高いとなれば相手の志気を折るのは勿論、保有しているというだけで交渉においても優位性を勝ち取れるでしょう。

 ふふふ、後は其れを上手く運用するだけの力、所属する家の権力や扱える頭を持つだけの人間が居れば価値は何倍にも膨れ上がり、闇属性への嫌悪というデメリットを補って余りあるでしょう。


「私、今回パートナーになった事でアリアさんと仲良くなれて嬉しいですわ」


「わ、私もです」


 互いに相手の本音も本性も見抜いていると分かっているのに白々しい遣り取りだが、私達が交わすのはあくまでも友好的な握手であり、実際は互いに利用してやろうという考えが透けて見える。

 私は彼女の持つ所持だけで抑止力となり敵を牽制出来る力を利用し、彼女はクヴァイル家に嫁ぐ際や嫁いだ後のあれやこれやをヴァティ商会とアマーラ帝国二つの力を使った私による後押しを得る、そんな取引だ。


 ロノス様の交友関係にクヴァイル家からは苦言が呈された様子はありませんが、家の地位が低く、未だ闇属性への嫌悪感が逆に際立たせる程の名誉も得ていない彼女が取り込まれるかどうかの可能性は未知数ですし、私の協力が欲しいでしょうからね。

 ……私はクヴァイル家への嫁入りを利用して地位を得て、アリアは惚れている相手の傍に居る権利を得る……惚れた相手、ですか。

 王侯貴族が複数の相手を娶るのは血を残す意味でも、政治的な繋がりの意味でも不思議な話ではありませんし、仲が良い事に越したことはないですのは分かりますが、第一に考えるべきは自分に課せられた役目……なのですわ。


「……本当にどうしたのかしら?」


 既に得ている情報によればロノス様に嫁ぐであろう相手は妖精族の姫レキア、桃幻郷に対する防波堤となっているギヌスの民の二つの部族の内の片方であるナミ族族長の娘シロノ、魔王ゼース・クヴァイルが直々に育てたパンドラ、この三名まではそれなりの手間と費用を使えば得られますが、それ以上は何人を娶らすのか、誰を娶らすのかは全くの不明であり、掴んでいる情報も掴まされたと考えるべきでしょう。

 そんな中、帝国随一の商会の娘であり皇帝の養女となり……実の娘である私が嫁ぐのも確実なのでしょうが、その事に嬉しさを感じ、同時に他の女に嫉妬めいた物を感じる私に気が付いていた。

 彼に惚れてはいない、惚れる程の関係は結んでいない、理屈でそう分かっているけれど、私が感じる嫉妬めいた物は地位を得る邪魔になるからではなく、私よりも付き合いが長く関係も深い事に対して。

 ……まあ、シロノに関しては何かあって苦手視されているようで除外ですが。


 まさか数度助けて貰っただけで心を奪われる筈もなく、精々が優しく強くて頼りになって見た目が良くて側に居たいと思う程度、だって私はお伽話の姫みたいに簡単に結婚を望む程に恋に恋してはいませんもの。


 ま、まあ、同じく付き合いの短いアリアを利用して他の連中を出し抜くのは目的達成の為に必要でしょう。

 だってロノス様を籠絡し私に夢中にさせた方が都合が良いですし、先程も思った通りに夫婦仲が表面上も裏でも良い事に対する不利益は情に流されるという私では絶対に有り得ない事のみですもの。


「……はっ!」


 考え事をしていた為に回避が遅れ、細い木に車体を擦り付けてしまいましたが、この程度で壊れる柔な構造でも無く、木が大きく揺れて葉っぱやら何やらが落ちて来ただけ。

 少し汚いし屋根付きにするべきかと思った時、足下の葉っぱの中で蠢く何かを発見、拾い上げてみれば芋虫の姿をしたモンスターでした。


「”ヒールアゲハ”の幼虫ですわね。この森に生息していたなんて……」


 モンスターにのみ有効な回復効果を持つ鱗粉を振り撒く蝶の姿を思い浮かべながら手の平で進む芋虫を眺める。

 世の中には虫が苦手な人も多いらしいですが、商会の娘として様々な商品に触れ、虫食文化のある聖王国で接待を受けたりする身からすれば悲鳴を上げて逃げ出したりなんて出来ませんわよ。

 寧ろヒールアゲハは餌代も掛かりませんし小さい虫かごに入れておけばかさばりもしませんので、軍などでは飼い慣らしたモンスターの運用の際に回復薬を節約出来ると重宝していますのよね。


「い、芋虫……」


「……ああ、成る程」


 妙に静かだと思いましたが、あらあら……あらぁ? 表情が作り物の笑顔でも彼女みたいな方に有りがちな仮面の下の人形めいた物でもなく、心の底からの恐怖で顔を青くしていますし、弱点発見ですわね。


 ふふふ、弱点ゲット、今後に使えそうですわ。


「アリアさん、もしかして芋虫が苦手ですの? あらあら、ならば急ぎませんと。ヒールアゲハの習性として夜は眠って動きませんが朝になると活発に動き……周囲と温度が大きく違う場所に引き寄せられますの」


 さて、私達が乗っているのは氷の馬車で、今は夏。

 明け方でも汗ばむ程に蒸し暑く、ですが氷の冷たさのおかげで馬車の周辺は快適な涼しさ……まあ、当然ながら起こるべきして起きる事が一つ。

 周囲の木が揺れ、小さい芋虫達が一斉に飛び出して来ましたわ。



「~っ!?」


 言葉にならない叫びを上げながら馬車を飛び降りようとするアリアの服を掴んで止めるが、かなり必死なので長くは難しいでしょうね。

 思わぬ所で弱点発覚、これが演技ならば到底私が及ばぬ程の演技力であり、感服物では有りますが、流石に違うのでしょうし、今は落ち着かせましょう。

 私達が腰掛けている椅子以外の床を抜いて芋虫を落とし、これ以上入ってくる前に元のカボチャ型に戻す事で芋虫の侵入を防ぐ。

 ヒールアゲハが厄介なのは短時間で大量に生成される鱗粉だけであり、他の能力は少し丈夫な虫程度、幼子が振り回す棒切れでさえ一撃で仕留められる相手に私の氷は破られませんわ。

 これで大丈夫でしょうと手を離し、アリアは飛び出そうとしていた勢いを殺しきれず天井に頭をぶつけて悶えている。



「少しは落ち着きなさいな。淑女にあるまじき行動でしてよ」


 利用するだけ利用する気なのですし、価値を下げる行いは謹んで貰いたい物ですわね。

 


「あら、最先が良いですわ……」


 そして辿り着いた集合場所には既にロノス様の姿、遠くで地面が赤く染まり何やら不味いと逃げ出した時と同じく速攻即決で彼の元へと向かう。




 勿論、うっかり扉を閉めて開かなくするミスを忘れずに、ですわ。

応援待ってます 前回減ったから残り十二ポイントで千八百 頑張ります

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