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せめて魔法は使いなさい

「終わったみてぇだな……」


 私が兎に角前に進む事に集中する中、お姫様抱っこされている状態のフリートが背後を確かめて呟くけれど、あの山羊みたいなのが地面にした炎が吹き出す仕掛けは解除されたみたいね。

 さっきの黄金の光……それを放つ何かが彼奴をどうにかしたらしいけれど、逆に言えばすれ違い様に憎悪と殺気を向けて来た奴が意識を向ける対象が一つ無くなったって事で、だったら次にやって来るのは何処かと言ったら、さっきすれ違ったばかりの私達よね、私ならそうする。

 一から探すより、存在を確認している相手の方が楽だものね。


「進路上に他の生徒が居るかロノス様やリアス様が来れば良いんだけれど……」


「おい、来るだろうからさっさと降ろしてくれや。こんな姿を見られたくねぇよ」


「駄目よ、何言ってるのよ、馬鹿。未だ何時来るか分からないんだからアンタを今降ろせる訳が無いでしょう」


 私達を無視して進んだって事は他に目的があったんだろうけれど、殺気の濃厚さからして彼奴を始末するなりしてから戻って来る可能性は高いでしょうに、プライド優先してどうするのよ。

 

「私と結婚して生涯愛する義務を放棄するってんなら殴って潰すわよ」



「お、おう……」


「照れるんじゃないっての。言った私が恥ずかしいじゃないの。にしても速攻で解除されたって事は共倒れは期待出来ないわね。役立たずな奴」


 ……いや、そもそも回収しに来た奴を殺そうとしていたからって仲間に殺されるって判断するのは早過ぎじゃないかしら?

 さっきすれ違ったのが説得に成功したのなら一緒に襲って来る可能性も……。


「避けろっ!」


 走りながら最悪のケースを考えていた時、急に影が掛かり、同時に聞こえたフリートの声に反応すれば何かが落ちて来るのが感じられたので斜めに向かって軌道を変えれば私が進んでいた場所に落ちて来たのは大きな岩。

 何事かと思いながらも走り続けるけれど、私達を中心にした周囲一体に岩が次々と落ちて来た。

 どうやら完全に狙われているっぽいわね。


「フリート、どうなってるのか報告!」


 後ろを気にする余裕は無いし、それなら後ろを向ける奴に任せれば良いだけよね。

 

「デケェ狼が後ろ足で岩を飛ばして来てやがる! 金ピカだから多分さっきの奴だ!」


「了解! 掘り出すついでに攻撃って事ね。捕捉されてるみたいだし、最短距離で逃げるからぶつかりそうな岩だけ教えなさい!」


 空から岩が落ちて来ようと当たらないのなら小雨と変わらないし、要するに当たらなければどんな威力だろうと無関係。

 見る限りじゃ魔法は掛かっていない身体能力と五感任せみたいだし、追い掛けて来ないって事はついでなんでしょうね。


 ついでだったら攻撃しないで欲しいんだけれどっ!


「まあ、時間稼ぎに協力してくれているなら都合が良いけれど、狙われてるなら安心出来ないわ。……いえ、もう大丈夫みたいね」


 防御に使う分の魔力も全て速度に注ぎ込んで進み続けるけれど依然降り注ぐ岩からして何処かに身を隠したりするのも難しいだろうと判断、嗅覚なのか視覚なのか捕捉に使っている能力を封じる方法が無いけれど、この程度で絶望する程に柔な鍛え方はしていないわ、私って。



「アハハハハハハッ! な、何よ、何があったの!? 兎に角面白い状況ね、チェルシー。乙女になった婚約者にお願いされた?」


 ほら、どんなに暗い絶望の闇が迫っても、考え無しに笑い飛ばしてしまう希望の光が目の前に現れたんだから。


「ひ、ひいっ! お腹痛い! 笑え過ぎてお腹痛い! 鼻水出て来た!」


「いや、本当に立場を考えて下さい、リアス様。メイド長に言いつけます」


「言うの確定!? え~!? チェルシーったら頭カチンコチンじゃなんだから」


 別に笑いたい気分は分かるんだけれど、その場でうずくまってお腹を押さえて爆笑するのは問題ですよ、リアス様ったら! 

 私、一応学園内でのお目付役を任されているのに、こんなんじゃ怒られちゃうじゃない。


 だから軽く睨めば少し気まずそうな顔をしながらも立ち上がるリアス様……の鼻には実際に笑い過ぎて出てしまった鼻水の痕があったのでフリートを(やや雑に)降ろしてティッシュを渡しておく。

 

 ……ふう。

 これでも聖女のお仕事の時は初見の私が正気を疑って慌てて医者を呼びに走っちゃう程なのよね。

 今の彼女にはその面影一切無いんだけれど、悲しい事に。

 お目付役云々ってよりは友達として心配になるわよ、兄はシスコンだから諫め役として一切当てにならないから私がどうにかするしか無いってのが現状だし。



「ごめんごめん。いや、屁で飛んでるみたいな姿見た後で今度はお姫様抱っこされて運ばれてる姿でしょ? 我慢出来なくって」


「屁で飛ぶ……?」


「はっ! んな発想するのはテメェだけみてぇだな。なあ、チェルシー」


 もう少し言い方って物が有るだろうと言いたい発言に反応したのかフリートが同意を求めて来るんだけれど、私はそれに頷けずにいた。

 友人と婚約者に挟まれ、どっちの味方をするべきか困った訳じゃなく、反応をどうするかってのが理由。

 だって私も前からフリートが使う飛行魔法って見る角度によっては尻から炎を噴射して飛んでるみたいだとは思っていたんだけれど、一応嫁ぐ家で伝承されてる魔法だし、内容が内容だから私だけが変に見てるんだって思っていたからリアス様に言われても一瞬何の事か分からなくって……結果、微妙な反応となったって訳よ。


「お、おい。どうして目を逸らして……」


「そ、そんな事よりも岩が飛んで来たわよ!


 よし! 此処は誤魔化してどっちつかずにすべきだし、その方向に持って行く為の理由だって敵が用意してくれるんだから希望は捨てたもんじゃない。

 私達が止まっているからか、それともコツを掴んだのかは分からないけれどさっきまでよりも正確な軌道で岩が次々に飛んで来たけれど、もう私もフリートも逃げ出さないし、正確になって来たのなら逃げ切れ無いし、そもそも逃げる必要が無いんだから、その場で堂々と構える。



「チェルシー、削るのだけお願い」


「ええ、了解しました」


 蹴り飛ばされ向かって来る岩はどれも人間サイズで、普通の人間が当たったら間違い無くペッチャンコ、アリアやレナさんサイズだってリアス様と同じに……。


「今、変な事を考え無かった?」


「いえ、全く」


 リアス様の野生の勘で余計な思考を読まれたけれど真顔で誤魔化した頃には岩は手を伸ばせば触れられる距離にまで迫り、実際にリアス様がその場で手を伸ばして触れる。


「やっ!」


 普段だったら殴って砕いて終わりなんだろうけれど、リアス様って実は信じられない事に意外と有り得なさそう…他に思い浮かばないからこの辺にするとして、戦闘において何時も何時も柔剛の剛ばかりじゃなくって、柔の方も場合によっては使う……但し基本的に力業に頼りがち。


 岩が手の平に触れた瞬間、腕の引きと後ろ足の踏み込みだけで岩の勢いを殺し、そのまま空中へと放り投げる事数十、飛ばせる岩が流石に減って来たのか崩れた崖の辺りがスッキリした頃、最初に宙に向かって投げ飛ばされた岩が自由落下を開始、尚、形は私が風で削って少し先端を鋭利に加工済み、例えるなら水滴状ね。


「行っくわよー!」


 其れを掴んでは投げ、掴んでは投げ、タイムラグが少ししか無いって事は一切影響を与えず、飛ばされた岩は鋭利な先端を前方に向けて崖の方へと飛んで来た時以上の速度で戻って行く。



この力業、誰が聖女の再来が腕力だけでやっているだなんて信じるかしら?

 ……知り合いじゃなくちゃ信じないし、知らないのに信じる奴の正気を疑うわ。





「なあ、彼奴、妙に張り切ってんな」


「そりゃ私に良い所を見せたいってのと、私が狙われていたからでしょ」


 そういう方よ、リアス様って。

 じゃないとあれだけ振り回されているのに友達なんか続けないわよ。



応援待ってます 順調に総合のびてーるー

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