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黒山羊とフラフープ  ④

 地面が赤く染まって行く。 

 まるで赤い水でも石の床にぶちまけたみてぇに、大地を夕日が照らすみて

に。


「追い付か…れるっ! こんなんなら飛行魔法とか覚えておけば良かったわ! 高い所苦手だから無理だけれど!」


「あー、俺様が抱っこしてやるから空中散歩を楽しもうって言っても断ったからな、テメェ。俺様が飛ぶだけの魔力を残しとけりゃ良かったんだがよ……」


 迫り来る”赤”から俺様を抱えた状態で逃げ続けるチェルシーだが、迫って来る速度は徐々にだが上がってやがるし、響いてくる音からしてビリワックが途中でくたばる事で発動前のがパッと消える保証も無ぇ。

 てか、途中で死んだ事で変に暴走する方が怖いか。


「たられば言っても意味が無いわ。男だったら自分が進む道だけ真っ直ぐに見据えなさい! 私が惚れているアンタはそんな男でしょうがっ!」


「……だな」


 まあ、あの場でビリワックをぶっ殺して終わりにするって未知を選ばなかった時点で今する事は逃げる事だけだ。

 今更やいのやいの言っても何も解決しねぇってな。


「にしても他の生徒が居ないが何かあったのか知ってるか?」


 今の俺は婚約者っつっても女に姫抱きされてるって泣きたい位に情けない姿。

 森は広いし赤はビリワックを中心にして全体に向けて広がっていたから真っ直ぐ逃げている俺様達と出会わなくても不思議じゃないが、声も戦う音すら聞こえないってのも妙な話だぜ。


「なんか脱落した生徒は監督補佐の二人が回収しているらしいわよ。私もパートナーがしつこく口説いて来たから魔法込めたビンタ喰らわせて気絶させてやったんだけれど、一々五月蠅い先輩が回収したもの」


「あー、ルート家の奴か。じゃあ心配せずに俺様達は逃げると……チェルシー!」


 話を聞き、彼奴なら大丈夫だろうって顔が思い浮かび、同時にチェルシーのパートナーだった野郎は俺様からもちょいと手を出す事を決めた瞬間だった。

 大地を染める赤が一層濃くなり、遠目に見える崩れた崖は太陽でも大地に現れたのかって程、周囲より魔力が籠もってそうだし気に入らない相手みてぇだからボロクソにやられた八つ当たりを仮面の男にする気だな。


「ざまぁみやがれってん、だっ!?」


「だから舌噛むから黙ってろって言ったでしょ!」


 舌を噛んで痛がってちゃ格好が付かないが、俺様の目的はこれで、それも当初よりも良い結果で終わりそうなのは嬉しいぜ。


 今の言葉を向けたのは三人、仮面の男とビリワック、そしてアバーンにだ。


 仮面の男は言わずもがな、どうも利用されていたっぽい様子だったが俺様のダチに二度も手を出したんだから同情する気も起きねぇし、最期は敵じゃなく味方の癇癪に巻き込まれてって冴えねぇ終わり方だ。


 ビリワックはビリワックで俺様の実家で随分好き勝手してくれたし、正面から戦ってほぼぶっ倒したみてぇなもんだから逃げ切れりゃ俺様達の完全勝利って寸法よ。


 シアバーンはわざわざ”仮面の男を回収しろ”って命令したんだから何か使い道を計画していたんだろうが、部下に恵まれず計画が頓挫する結果だ。


 もう一度言うぜ。ざまぁみやがれってんだっ!


「もう限界みたいね。でも、一応加速を続けるわ。……ロノス様が途中で止めてくれたら良いんだけれど」


 背後を見れば赤が広まる速度の上昇も頭打ち、少しずつ距離が広がり始めている。

 後は徐々に内側から火柱が上がって行く事で舞い上がった土砂から火が広範囲に散らばる事だが、ロノスの奴が消しちまって仮面の男も助かるってパターンも有り得るのか……。


 だが、速度が上がらないのは上げる必要が無い程に威力が高く、直撃じゃなくても十分俺達をぶっ殺せるって考えも有るからかチェルシーは更に速度を上げるんだが、もしもの時は俺達が盾になってでも守ってやらねぇとな。


「言っておくけれどアンタが庇うより私が魔法で防ぐ方が確実だから。・・・・・・何よ、その目は。顔見りゃお見通しだっての」


 本当にチェルシーには隠し事なんざ無理だ。

 絶対にしねぇが、浮気したら即効でばれるな。


「へいへい、愛の力は凄いもんだ。んじゃ、その時は礼にキスしてやるよ」


「まあ、もしもの場合の話だけれどね」


 その”もしも”を割とどうとでも出来そうで、だからこそ介入前に勝敗を決すべく焦っていた理由がロノスなんだがよ。

 次の瞬間にもどうにかしてくれるんだろうが、今この時にどうにかしていないからこそチェルシーは用心している。


「ったく、時間を操る奴が対応遅れとか何やってんだ。犠牲者出たら学園が荒れるだろ! まあ、どーにかするんだろうが、するならさっさとしろや!」


 まあ、俺様が始末しようとしたのも万が一彼奴が取り逃がした時に備えてだからと残念な気持ちを抑えた時だ。


 月の光を思わせる”黄金”が横を駆け抜けた。


「っ!?」


 その光に直接何かされた訳でも無いのに俺達は巨大な獣に食い殺される姿を幻視した。

 それはチェルシーも同じなのか危うく目の前の木にぶつかりそうになって慌てて回避する。

 危ねぇ危なねぇ。


「今のは殺気・・・・・・それに憎悪か」


 俺様の家は当主が前線で部下を率いて戦うのが慣習だから幼い頃からモンスターやら盗賊やらと戦って来たんだが、今感じたのはその時とは比べ物にならねぇ濃度の物だ。

 一瞬息が出来ない程で、それでも横を通り過ぎただけって事は俺達個人へ向けた物ではなく、人間全体へ向けた物って所か?


「チェルシー」


「分かってる! さっさと距離を稼ぐわよ!」


 俺様達を通り過ぎるついでに攻撃しなかったって事は他にする事があるからだろうが、だからって安心なんか出来ねぇよな。

 あの光の正体が何にせよ、今やるべきなのは目的を果たした後でこっちに来られる前に逃げ出す事だ。

 今の俺様は魔力切れな上に結構ダメージ受けているし、足手纏いを担ぎながら勝てる相手じゃないのはチェルシーも理解しているっぽいしな。


 敵前逃亡? いやいや、戦略的撤退だ。

 自分の状態を把握し、相手との実力差を認識し、冷静に行動するのは生き残る上で必要だし、何時か強くなれるのはそんな奴だからよ。



「次だ。次会った時はぶっ倒す」


「はいはい。次があったらね」


 ……ちっ。


「こんな時にノリが悪い事を言うなよな。さっき滑ったの気にしてやがるのか?」


「投げ捨てて良い?」


 ……さーせん。



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