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闇と氷と蜥蜴  (挿し絵)

絵が届きました 後書きにて

 リザード・アサシンを視認し見覚えのある相手だと判断した瞬間、アリアは動いていた。


「”ダークバインド”」


 周囲からリザード・アサシンに目掛けて伸びる闇の腕は鋭い爪先を肉に食い込ませようと迫る。

 相手の力がどれ程なのか分からない以上は何もさせないのが常套手段と判断したアリアは間違ってはいないだろう。

 詠唱を行う事によって速攻よりも安定を選んだのだが、この魔法は周囲から対象に襲いかかる故に多少の発動の遅れは殆ど関係無いのもあっただろうが、実際にリザード・アサシンが動いて包囲から逃れるより前にその体に届く。


「……シャア」


 ヌルリ、そんな効果音と共に鋭利な爪先は体表を滑り、リザード・アサシンは拘束魔法が届いてから動いても闇の腕の包囲から逃れてしまった。


「っ!?」



 まるで幻の如く一切の抵抗を見せずに拘束を逃れたリザード・アサシンが跳躍によってアリアへと迫り、彼女は硬直を見せてしまった。


 今までの人生でアリアは戦いを何度も経験して来たし、闇属性である事が判明し、更に母が死んでからは実の祖父母から”死んだら死んだらで構わない”という考えの下にモンスターの討伐を命じられていたからだ。

 更にロノス達と関わりだしてからは将来的にリュキの悪心や神獣との戦いがある事を見越して戦う為の力を付けて実際に敵に打ち勝って来た。

 今の彼女は既にか弱い少女ではなく、ゲームで例えるならばレベリングをしっかりとして今のダンジョンの適正レベルよりもずっと強くした状態。


 ……だが、それでも強さが足りない場合は存在する。

 何せこの世界は現実であり、ストーリーの進行に合わせて徐々に敵が強くなる訳でもなければ強制敗北イベントの様に強敵に破れても重傷を負ったり死んだりしないなんて事は有り得ないのだから。


 幼い頃からの戦闘経験は確かに存在するがルメス家の領地は荒れ果てており、獲物を求めるモンスターとしても賊の類としても旨味が少なく、更に手に負えない程に強い相手ならば流石に国から兵が派遣される事もあってか(但し先代王妃の時代は大きく遅れる等したり、役人への心付けが必要だった)彼女が相手をして来たのは雑魚に分類されるモンスター。

 元より高威力の闇属性の魔法ならば多少の力量の差は覆せる程度であった。


 そして学園に通い出してからの急成長は確かだが、それでもリザード・アサシンの相手を正面からするには足りない。

 ……正確に言うならばもう少し距離がある場合や初手に拘束ではなく速度を重視した攻撃魔法を使っていれば展開は変わっていただろう。

 このリザード・アサシン、ルクスが何とか拮抗する位でロノスならば瞬殺が可能な相手ではあるが、今のアリアとの力の差をゲームに例えるならば二つ先のダンジョンの中ボスとの戦いである。

 そしてルクスと戦った個体は彼を侮っており、この個体は違う。

 その違いは余りにも大きかった。


 今までが順調に行っていた為に生じてしまった隙は大きく、後一度の跳躍で猛毒を宿す爪は彼女の身へと届く。



「シャ!?」


「全く……これは貸しですわよ」


 但し、この戦いが一対一だったらの話。

 着地の寸前に地面が氷に覆われ、元より潤滑剤の役目を担っていた粘液と合わさって滑りを良くした事でリザード・アサシンは前のめりに倒れ込んだ。


「”シャドーランス”!」


 勝ち誇った笑みを浮かべるネーシャに内心で舌打ちをしながらもアリアは魔法を放つ。

 大きく体勢を崩した異形の体に向かって行く鋭い槍、しかも幾つかは口や目など粘液で滑って外れる事が無さそうな場所を狙いに定めていた。

 今度こそ決まった、そんな風に考えていたアリアとネーシャの視界からリザード・アサシンの姿が掻き消える。

 身長に匹敵する程に長い尻尾が周囲の木に突き刺さって体を引き寄せたのだ。

 そのまま木に抱きついた姿勢でリザード・アサシンは口を開けば毒牙が一斉に飛び出して行く。

 氷の戦車を瞬く間に貫通し破壊する牙、だが二人の無惨な死体は其処には無かった。


「シャア!」


 鋭い嗅覚で居場所を察知、上を向けば黒い翼を広げ飛び上がっていたアリアの姿。

 ネーシャも彼女が荷物か何かのように抱えているではないか。


「えっと、これで貸し借りは無し……ですよね」


「ええ、実際助かりましたし」


 この時になっても上辺だけの友好的態度を崩さない二人に対し、リザード・アサシンは閉じた口をモゴモゴと動かしていた。

 この短時間で牙の再生は不可能らしいが、唾液が急速に凝固する事で代替品と化す。

 再び口を開いた時、牙の形に固まった唾液が牙の存在した場所に生え揃うように存在し、再び放たれる……かに思えた。



「シャッ!?」


 背後から心臓を貫く一撃を喰らい硬直するリザード・アサシン。

 続いて腹を貫くのは影の剣。

 二体の影の騎士がリザード・アサシンの動きを今度こそ止め、口に片手を突っ込んで無理やり開いた状態に。




「あら、ご苦労様でしたわね。段取り感謝致しますわ。……”ブリザードスフィア”」


 その口の中に飛び込んだのは拳サイズの冷気の球体、本来は内包した冷気を周囲に解放する魔法だが、解放の前に食道を通って胃の中に到着してから漸く解放される。

 体内を猛烈な冷気が駆け巡り内部から凍り付くリザード・アサシン。


 だが、切り落とされた頭部でも攻撃を行える程に強い生命力を絶つまで要する時間は残り数秒、脳が凍り付く寸前に猛毒の臓腑を吐き出すには充分な時間……だった。



「じゃあ、最後の一撃は貰いますね」


 この影の騎士は三体で一組、最後の一体が臓腑を吐き出すよりも前にフレイルを頭部に叩き込み、完全に凍り付くよりも前に打ち砕く。


 皮肉な事に先程リザード・アサシンが踏み潰した男の頭と同じように破壊された頭部。

 リザード・アサシンも此処までされれば流石に死に絶えた。



 ……但し、それで終わりはしない。


 虫の中には危険を感じた際に仲間を呼ぶフェロモンを発するのも存在する。

 そして、リザード・アサシンも同じであった。


「囲まれて居ますわね……」


「近くに居たんですね……」


 二人を囲むようにして現れるリザード・アサシンの数はおおよそ十匹。

 それが示し合わせたように同時に口を開き毒牙を飛ばそうとしている。


「このまま上空に逃げれば……え?」


 翼を羽ばたかせ上へと逃れようとするアリアと、それを顔で追って狙いを付け続けるリザード・アサシン。

 この場に居た者達がほぼ同時に上空に視線を向けた時、空が眩く光り輝いて目を眩ませた。



「そのまま動かない! 当たっても回復魔法しかしてあげないからね!」


 響き渡る力強い声と共に空から光が、いや、空を覆う程の光の矢が降り注ぐ。

 ほんの僅かも逃れる隙間は存在せず、範囲から逃れるには速過ぎる矢の雨はそれでも逃れようと反転したリザード・アサシンが第一歩を踏み出すより前に頭を貫き、崩れ倒れる死骸も撃ち抜き続ける。

 木々は粉々に砕かれ地面にも穴が空く。


「し、死ぬかと思いました……」


「心臓に悪いですわね……」


 最後の矢が地面に深い穴を空けた時、原形を留めていたのは降り注ぐ矢が直前で軌道を変えて当たらなかった二人だけ。

 それでも魔力で作ったアリアの翼には所々穴が出来上がり、恐らく当たっていたら回復魔法では足りなかっただろうが。


 この時ばかりは二人も本気で冷や汗を流すが、当たれば体が穴だらけになっていたのだから当然ではあるのだが。

 ドッと力が抜けたのかゆっくりと地面に降りたアリアは力が抜けたかに振る舞いながらネーシャをやや雑に降ろす。


「ご、ごめんなさい! もう限界でして……」


「いえ、お気になさらずに……」


 二人が白々しい態度で言葉を交わす中、呑気な声が耳に届く。




「いやー、ちょっと加減を間違えちゃってさ。ごめんごめん。怪我が無いなら良かったわ」


「「ええ、お気になさらずに結構です」」


尚、二人の内心は別だ。

 


わか太郎さんに依頼 アンリ・ヒージャ&タマ



挿絵(By みてみん)



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