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ペットにはそう見えた

「そうでちゅか~。美味しいなら良かったでちゅよ~」


 アリアさんがお風呂に向かった頃、僕はポチの背中に乗って首の辺りを撫でてやりながらユニコーンの死骸を食べるのを眺めていた。


「キュイキュイ!」


 普段は狩猟本能からか狩ってから食べるのが好きなポチだけれど、アリアさんが仕留めたユニコーンを食べる姿は随分と機嫌が良さそうで何よりだ。

 クチバシで肉を引き裂き、口元を血で汚しながら先に内臓を貪る。

 未だ言葉が分からなかった頃、内臓の方が肉よりも好きなのかと思って内臓を多めにあげていたけれど、好きな物は後回しにする派だったから驚いたのを覚えているよ。


「明日はちゃんと狩ってから食べる様にしまちゅからね~」


「キューイ!」


「そっか~。僕があげる餌なら何でも良いのか~。ポチは本当に可愛いでちゅね~」


 ああ、それにしても少し汚れて来たよね。

 元々汚れが分かりにくい羽や毛皮の色をしているけれど、こうやって撫でてやると羽の根本まで細かい汚れが目立つな。


「ポチ、今日はお風呂に入ろうか」


「キュイ……」


「お風呂は嫌かも知れないけど、ちゃんと綺麗になったら僕は嬉しいな」


「キュイ!」


「良い子だね、ポチは。じゃあ、ご飯が終わったらお風呂に行こうか」


 ポチの首を撫でながら空を見れば雲が凄い勢いで流れて行くし、上の方では風が強いらしい。


 お風呂の話題になって、空を眺めると二年前の事を思い出す。

 あの日もこんな空だったよね……。




「いやいやいやっ!? 落ち着こうかっ!」


 この日、お祖父様のお供として出向いた先の露天風呂に入っていた僕は、この日に出会ったばかりの女の子に求婚を通り越して子作りを迫られたんだ。


 突然背後から声を掛けられたと思ったら、おもむろに服を脱いで褐色の肌を惜しげもなく晒した彼女も風呂に入って来ての突然の要求。


 今考えれば対処法は幾らか有ったのだろうけれど、目の前で揺れる巨を通り越して爆な二つの塊とかが間近に有ったし、身内以外の異性の裸を見たのって覚えている限りは初めてだったんだから仕方無い。


「落ち着いている。お前も落ち着け。私、お前を自分の物にすると決めた。だから抱く。大丈夫、最初が痛いのは女。私は戦士、痛いのの平気」


 まあ、元々向こうの方が力が強いし、冷静じゃない僕は簡単に捕まって押さえつけられた。

 後はまな板の上の鯉って奴だ。


 ……まな板といえばリアスがこの場に居なくて良かったよ。

 ちょっと情けない姿だからね。


「そうじゃないから! 僕が言いたいのは……」


「問答無用。覚悟しろ。気持ち良いから大丈夫」





「キュイ!」


 ……!?


「今、トラウマが戻って意識が飛んでいた?」


 何時の間にか立ち尽くしていた僕の意識はポチの鳴き声で連れ戻される。

 ああ、良かった、とポチを撫でながらも顛末を思い出す。




 ……全身が血に染まった状態で倒れ込む彼女と、何時もの優しそうな笑顔でそれを見下ろすあの人。

 そのまま躊躇無く彼女の腕を蹴りでへし折り、頭を潰そうと足を上げる。

 次の瞬間には頭が弾け飛ぶのは分かっていた。


「まさか最後にはあの子の命乞いをするなんてさ。それからも積極的だし、何があったか知ったリアスが激怒するし、今でも大変なんだよね。……でも、本当に大きいな、彼女」


 吊り橋効果って奴かな?

 積極的な子は嫌いじゃないけれどあの子は苦手なんだよ、爆乳だけど。


「大きなお胸にはロマンが詰まっていると思うんだよね、僕」


 あの時の僕はパニック状態だったけれど、あの頃よりも女の子に興味が有る今の僕は今の僕でどうなる事やら。

 レナに知られたら”耐性を付ける為”って言って誘惑が過激になりそうだ。


「キューイ?」


「ああ、ごめんごめん。君は子供だから少し早い話だったね」


 思わず口から出る呟きにポチが不思議そうにしているけれど、この子の結婚相手をいつか捜してあげなくちゃ駄目なんだよね。


「じゃあお風呂に行こうか」


「キュイ……」


 駄目駄目、忘れてなんかいないからさ。

 いや、でも邪な事を考えているとポチの純粋な視線が痛いなぁ……。


 この機に乗じて逃げ出そうとしたポチの頭を撫でながらお風呂へと連れて行こうとする。

 ポチは聞き分けの良いグリフォンなので渋々ながら着いて来てくれた。

 




「あれ? アリアさん達も今上がったの? 門限ギリギリだよ?」


 ポチを全身隅々まで洗い、泡でモコモコにして綺麗にして乾かすと羽毛が膨らんで可愛さが更に上がってしまう。

 ああ、何で此処まで可愛いんだろう、この子。

 絶対何かしらの神の加護を得ているよね、美の神とかそっち系の。


 このまま夜中までポチに寝そべって寝られたら最高なんだろうけれど、そうしようと思っていたら客人用のお風呂から出て来るアリアさん達と遭遇した。


「そ、そうなんですか……」


「あれ? 少し疲れてフラフラだけど大丈夫? ……リアス、また何かやらかしたんじゃないの?」


 まるで長湯が過ぎた時みたいにフラフラした様子のアリアさんと自分の胸をペタペタ触りながら何かブツブツ呟いている。

 リアスとアリアさんの一部を見比べてしまえば偶に起きる発作が発動したって事は簡単に思い当たるよ。

 ゲームでは傲慢な悪役だけれど、前世の記憶がある今のこの子は凄く素直で少しゴリラな可愛い妹だ。

例え悪役のままだとしても僕からすれば可愛い妹なんだ、素直でゴリラな子じゃなくても。

 いや、色々な人にゴリラって呼ばれているから僕もゴリラって言っているけれど、ゴリラは流石に悪いよね?



「門限……確か寮の規則って凄く厳しいのよね」


「はい。門限破りは次の日の朝ご飯が抜きになる上に減点されて、一定以上になったら寮を追い出されるんです……。他の家の方は別にご飯を用意したり住む場所の手配をして貰えるんですが私の実家はお金が無いし、お祖父様お祖母様は……いえ、何でも有りません」


 最後は言葉を濁したけれど実家での扱いはゲームでは詳しく描かれないけれど予想出来るし、流石に減点になるのは可哀想かな?

 今後、彼女を色々なトラブルに巻き込む可能性だってあるし、だからって寮を追い出されても屋敷に住まわせたりするまでは家の関係も有るし……。


「キュイ?」


「あっ、そう? アリアさん、ポチが送って行こうかって言ってるよ。今からならパッと行けば絶対に間に合うからさ」


「助かります。ありがとうございます! ポチちゃんもありがとうね」


「キュイ?」


「あっ、私の言葉は通じないんでしたね」


 さて、行こうか。

 ……ポチを屋敷の中に入れちゃったのをメイド長に見つかっちゃったし、何か言われる前に逃げようか。

 




 帰った後で怒られるから一時凌ぎに過ぎなくても!




「じゃ、じゃあ宜しくお願いしますね」


 早速ポチに乗って学生寮まで向かうんだけれど、何故かアリアさんは緊張した様子で僕の後ろに乗る。

 何故か既にドキドキしてるのが伝わって来るし、お風呂でリアスが変な事でも……あっ。


 今、僕も理解した。

 胸の事を考えた訳だから分かったけれど、そのせいで余計に背中に押し付けられる感触が気になるし、これは僕もドキドキして来たぞ。


 でも、それに気が付かれる訳には行かない。

 だって出会って数日の男が自分の胸を意識しているとか普通に嫌だろうし、此処は落ち着いて話をしていれば大丈夫だ。

 何か話題になる物はないのかと地上を見れば露天が幾つも並び、何かが光を反射するのが目に入った。



「アクセサリーのお店でしょうか? 私、あまり持っていなくて」


「リアスも贈り物で沢山貰ってるけれど滅多に身に付けないよ。指輪は武器を握るのに邪魔な上に拳を使ったら壊れるし、髪留めも鬱陶しいんだってさ。あの子はそんな物無くても可愛いから構わないけどさ。でも、似合う物を身に付ければもっと可愛くなるんだろうな」


「そうですか……」

 

 アリアさん、矢っ張り年頃だからアクセサリーが欲しいのかな?

 会って数日でアクセサリーを贈るのもどうかと思うし、僕には何も出来ないけれど、決闘で勝った場合のご褒美にオマケって形で贈るのは良いかもしれないよね。

 ちょっと難しい話だよ。

 なにせ僕は家同士の付き合い以外で女の子とそれ程親しくしていないからな。


 そんな風に話す間にポチは寮まで到着、門限には間に合った。

 門の前でポチの背中から降りて別れの挨拶を交わす最中の事、アリアさんが思い出した様に口を開く。


「それにしてもポチちゃんはどうして私を送って行くって自分から言ったのでしょうか?」


「確かにポチって他の人への態度が……ねぇ、アリアさんを送ろうと思ったのは何でだい?」


「キュイ」


 ……はい?


「いや、アリアさんは僕のお嫁さんじゃないからね?」


「キュイ?」


「うん、違うから。……えっと、また明日ね」


 何でそんな勘違いをするのかなぁ、この子は。

 恥ずかしいのでポチの手綱を握り締めて最高速度で去って行く。


 明日、アリアさんが怒っていなかったら良いんだけれど……。






 そして翌日……。



「……そうか。お前の母親が母上を追い詰めて殺したのか」


 マザコン王子がアリアさんに詰め寄っていた。



 ……いや、何で?






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