表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

229/393

閑話 死に際に嗤う

絵が届きました

文字なしのが後で来るので次回乗せます

 俺は自分が神に選ばれた人間だと信じていた。


「ええ! ええ! 勿論ですともぉ! 貴方の内に眠りし力、それこそ腐敗してしまった他の人類とは違う者の証! 新世界に存在すべき者なのです!」


 物心付いた時、俺が居たのはアース王国の辺境の領地でも特に治安の悪いスラム街。

 既に今の王妃の改革で孤児院やら職の世話やら貧しい連中の為の病院やらで様変わりしちまったが、あの頃は本当に酷い場所で、俺はそんな場所でしか生きられない屑に育っちまってたのさ。

 家? ボロ切れをボロ壁に引っ掛けてボロ布を垂らしただけの立派な家に住んでいたぜ。


 親? 自分達が腹を空かせたからって自分の餓鬼を食っちまわずにこき使い、バカな金持ちの同情を買えるようにってわざわざズタボロにする手間を惜しまなかったし、病気になっても殺さず雪空の下に放置して居なくなる立派な親さ。


 名前? ”アレ”だの”おい”だの”お前”だの”クソガキ”だの俺の名前はいっぱいあってな、どれを名乗れば良いか分からねぇよ。


 そんな俺は盗み奪い殺し、そんなのを繰り返し、特に大物でもないチンケな悪党になってたんだが、先代王妃の時に少しはマシになったよ。


 陛下万歳! 王妃の言いなりで好き放題させているお陰で俺達みたいな人間扱いされない連中がその辺の人間様より上等な思いを味わえる。

 秩序も良識も丸でない人間様には地獄みたいで、俺達ゴミには最高の世界。


 ……まあ、今となっちゃ今の王妃様のお陰で過ぎ去った地獄、思い出したくもない悪夢とされているんだが、余計な夢を見出す奴まで生まれちまったんだ。


「なあ、聞いたか? ちゃんと罪を償いさえすれば……」


「俺達だってマトモになれるかも知れないぞ」


「俺達やり直せるかもな……」


 牢屋での囚人への扱いもマトモになり、出た後で困らないように職業訓練も受けさせてくれるって話だし、ゴミの分際で人間になれるだなんて本当に信じているのか?


 どれだけの物を盗んだ? どれだけの奴を傷付けた?


 俺達みたいなのがやり直せる筈が無い。


 俺達みたいなのが変われる筈が無い。


 ……|《俺》みたいなのが許される筈が無い。


 どうせ夢は夢、儚く覚めて綺麗な花畑からゴミ溜めに引き戻されて絶望するだけだってのによ。



 だから俺は変わる気はなく、未だ現王妃の影響が及びきっていない屑貴族の領地に向かって……ちょっとしくじった。

 ああ、俺じゃねぇよ。


 商売がしにくくなったからって手を組んだ連中の内、一人が叶わない夢を見てしまったんだよ。


「これを最後の大儲けにして、堅気になって暮らす。俺は人間らしく生きるんだ!」


 其奴がどうなったって?

 調子に乗って派手に儲けたのが周辺を縄張りにしている連中に知られて真っ先に殺されたよ。

 

 有り金全部奪われて道に捨てられて、俺が見つけた時には靴も服も誰かに盗まれて裸同然、ゴミに相応しいゴミらしい最期って訳だ。

 一定以上の底まで落ちた奴がマトモになれると思ったのか?

 仮に其奴にマトモになれる何かがあったとして、其奴が落ちた場所にいるのは自分の利益にも不利益にもならなくたって這い上がる奴を引きずり降ろそうとするってのによ。


 そして手を組んでいた俺も他の連中と同様に捕まり、ついやり過ぎて殺しちまった彼奴の代わりの見せしめに使われる事になった。


「大丈夫だ。直ぐに誰か来るだろうよ。血の臭いを嗅ぎ付けてよ」


 ある奴は手足の骨を折られた状態で木から吊され、俺は頬を深く切った状態で頭だけ出して地面に埋められる。

 俺を埋めた男はナイフを仕舞いながら大丈夫だの言ってるが、来るとしたら俺を獲物だと思っている肉食獣かモンスターだ。






「おやおや、大変な事になっていますねぇ! アヒャヒャヒャヒャ!!」


 そんな時に現れたのが彼奴……最近噂を耳にするネペンテス商会の商人だ。

 俺達の前に現れた彼奴が指を鳴らすと俺達は地面の上に座っていて、しかも怪我が癒えている。

 何が起きたのか理解出来ず間抜けに呆けるだけの俺達に向かって奴は言った。


 ”女神の為に力を貸して欲しい”と。


 何でも俺達は闇の女神が祝福を与えた者達の子孫であり、代を越えて蘇った力を感じ取った事で底の底まで落とされる暮らしを送っていたとか。



「お詫びとお礼をかねて約束しましょう。我等が主テュラ様が世界を手にした暁には貴方達を王にすると!」


 ……今にして思えば胡散臭く酔っ払いか世間知らずの無知な餓鬼ならギリギリ騙されるかどうかって内容だったが、不思議と俺達は信じてしまった。

 どうせ洗脳でもされていたんだろうな、間抜けな話だよ。


 商人から力を与えられ、モンスター共を従えて俺達は任務に赴く。

 他にも大勢似たようなのが居て、一番貢献した奴に一番大きな国をくれるってんだから俺らしくない張り切りをしちまって……。



 攫って来いって言われた小娘の魔法によって手足を貫かれ気を失ったんだが、その瞬間でも俺は何処かで大丈夫だと信じて疑わない。

 だってよ、取って置きのを連れているんだ、其奴がどうにかしてくれる。

 俺に代わって貴族に生まれて何の苦労もせずに育った小娘を俺達の所まで引きずり降ろしてくれるってよ。


 人間、底の底まで落ちたとしても手を伸ばして上の奴を引きずり降ろせば少しはマシな思いが出来る。

 死ななけりゃ、死んでさえなけりゃどうとでもなるんだよ。






「シャァアアアアア」


 その取って置きのモンスターの爪が俺を貫く激痛で覚醒させられた俺は全部察した。

 俺は此処で死ぬし、あの商人は嘘ばっかり言いやがっていた、ってな。


「糞…が……ごふっ!」


 つい数秒前まで信じていた事が一瞬で疑わしくなった。

 体を背中から貫く爪を目にし、傷が焼けるように熱いのを感じながら声を出せば血が同時に出て来る。



 ああ、どうして自分がゴミだって事を忘れていたんだよ、俺。

 俺なんかが王になれる? 神に選ばれた?



 はっ! んな訳がねぇだろうが!



 爪が引き抜かれ俺は前のめりに倒れ込む。

 元々手足を貫かれ潰されていたんだが、死ぬ奴相手に続けるのは無駄だと思ったのか影の槍は消えて地面に倒れ込んだ時に思い出した事が一つ。



 俺に魔法を使った誘拐対象の小娘の目だ。

 俺はあの目を飽きる程に見て来た

 そう、あのゴミの集まりの中じゃ当たり前で珍しくもない、自分の人生に期待をしていない奴の目だよ。



「はんっ! 貴族にも底まで落ちたのが居やがったか」


 貫いた背中を踏まれる痛みを感じながら呟き、頭に向かって踏み降ろされる足を眺めながら俺は嗤う。


 少しだけ違ったから先に死んだあの馬鹿みたいに這い上がろうって奴だろうが絶対に無理だ。

 どうせなら俺が引きずり卸したかった、ってな。


 頭を踏み潰されるその時まで俺はそんな事を考えていた……。



応援待ってます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ